片耳のイヤホン、半分の思い出

おこげ

停車駅 ベンチに沈む記憶


 列車からホームに降りると、潮の香りを連れてそよ風が吹き込んできた。


 もうすぐ十月も終わるだけあって、海沿いの風はすでに冷たい。もうちょっと防寒してくればよかったかな。


 髪が乱れないよう手で押さえながらホームを見回す。


 わたし以外には誰もいない。


 乗車する人も、わたしに続いて降りてくる人もゼロ。眼の前では、まるで衰亡してからも緩慢に続いていく、退屈なほどに美しい世界だけが広がっている。ここは昔からそうだ。学生時代、何度も足を運んだけれど、この駅を利用する乗客はほとんど見かけなかった。よくぞ今まで廃駅にならなかったものだ。


 そうしてるうちに、背後でガタンと音を立てて、再び列車が動きだした。

 わたしはそれを見送ると、出口とは逆方向にあるベンチへと向かった。


 海側に並べられた、吹きさらしの五つのベンチ。

 わたしは虹のように七色で塗装されたその一つに腰を降ろすと、バッグからDAP携帯音楽プレーヤーを取り出した。


 ずいぶんと型落ちしており、キズやひび割れも目立つこれは、かつて友人から餞別せんべつとしてもらった大切なものだ。

 彼女とはこのホームで出逢い、そして別れたのもまたこの場所だった。


 あの頃と同じように、片耳にだけイヤホンを装着してDAPを操作する。


 十年前――。

 ここで過ごした彼女とのかけがえのない日々が、思い出の詰まった曲とともに再生される。



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