負け犬と勝ち猫

エリー.ファー

負け犬と勝ち猫

 ここには、犬と猫がいる。

 犬は大人しい。

 猫は激しく怒り狂っている。

 ここには。

 負け犬と勝ち猫がいる。

 犬はいつも猫と仲良くしたいと思っているが、猫は犬を近づけようとはせず、一切信用しようともしない。

 犬は猫のために自分のおもちゃを渡しに行くが、猫はそれにかぶりついて犬の方へと投げてしまう。犬は健気であるから何度も何度も猫におもちゃを持っていくが、猫は拒否し続ける。

 犬はいつも隅っこで大人しくしていて、なるべく猫の居住スペースに入らないようにしている。猫は犬の活動範囲が狭いのをいいことに、広く使っている。しかし、いつ犬が近づいてくるのかと気にしているため、常に犬を視界に入れている。

 犬はよく眠る。猫は全く眠ろうとしない。しかもあろうことか、犬が眠っているのを邪魔したりする。

 犬は小さな声で鳴く、猫に迷惑をかけないようにとするために細心の注意を払っている。けれど、猫は大きな声で鳴く。それはサイレンのようであり、自分という存在を相手に見せつけるかのようである。しかも、わざとらしく大きな音で爪を研ぐこともあり、それによって犬が不快な気分になることを知っている。

 犬は猫と少しでも長く時間を過ごしたいと思っている。猫は明らかに犬を避けているし、嫌悪しているし、犬が背中をみせようものなら尻尾を引っかいたり、背中を引っかいたりしてみせる。

 犬は我慢強い。猫は全く我慢をしようとしない。どんな小さな物音でも目を覚まし、それがたとえ犬の挙動によって発生した音ではなくとも犬を威嚇する。

 犬は、猫の威嚇から自分が何をしてしまったのかを反省しようとする。猫は絶対に反省しない。たとえ、犬が反省するそぶりを見せていても、それはつけこむための隙であるとしか認識しない。猫は少しずつでも自分の権利と権力を大きくしようとする。

 犬は余り餌を食べない。小食である。猫は大食漢である。とにかく食べて活発に動き回るため筋肉質であり、しなやかな体つきというよりかはボクサーのような雰囲気が漂っている。

 犬の瞳は優しい。まるで太陽を飼いならしているかのようである。猫の瞳は厳しく、邪悪で、冷たい。月に住まわされてしまったかのようである。犬だけではない、外の世界を見つめるときでさえ、目つきは鋭く可愛げは全くない。まるでほんの少しでも近づこうものなら殺すこともいとわないかのようである。

 犬は小食である。

 偏食である。

 一か月に一度しか猫を食べない。

 そして。

 また檻の中は空になる。

 研究員たちはまたその檻の中に新しい猫を入れる。

 犬は猫と仲良くしたいのに、空腹の余り食べてしまうことを毎回後悔している。

 これで丁度十九万匹目の猫を食い殺した。

 猫は檻の中に入れられると目の前にいる犬が温厚であるとは分かっても、同胞を食い殺した存在であると肌で認識するらしい。

 十九万一匹目の餌にだけはなるまいと神経を尖らせる。

 犬は自分の食欲に負けた負けたと思っている。

 猫は死にたくないのでこの犬に勝ちたい勝ちたいと思っている。

 この檻の中には。

 負け犬と勝ち猫が住んでいる。

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