第26話
晩餐会の会場に国王夫妻が入場すると、いつも彼等を見慣れているはずの人々から、改めて次元の違う美しさを見せつけられ感嘆の溜息が会場に響き渡る。
そして、皆が一斉に立ち上がり頭を垂れた。
簡単な挨拶をしグラスを軽く持ち上げ、国王夫妻が口を付けると皆が一斉にグラスに口を付け、晩餐会の始まりとなったのだった。
問題児二人の席は、国王夫妻から離れた所にある。
そして、カスティア前国王の弟であるグライド公爵夫妻とその息子夫婦が脇を固めてくれていた。
極力、国王夫妻に近づけぬようにと。
これほどまでに緊張感みなぎる晩餐会は久しぶりだと、出席している貴族たちは心の中で溜息を吐く。
いつも、フェレメンの色ボケ王太子がこの国に来るたび、今の様な和やかさの欠片もない緊迫した晩餐会が催されていたのだ。
己の立場や周りの状況などお構いなしに、アウロアに対し色目を使いまくるのだから、当然と言えば当然。
何かと理由を付けて突撃訪問してくるフェレメン国王太子グレーグに、カスティア国の貴族たちは迷惑極まりないと心底辟易していたのだ。
だがここ一年ほど、彼が自国で女性問題を起こし謹慎されていた為に、この国にも束の間の精神的平和が訪れていたというのにアドルフ達の所為で台無しである。
アドルフと婚約者のリリアは、このなんとも言えない雰囲気に全く気付いていないのか、周りに愛想を振りまきながら別次元の美しさをみせる国王夫妻に、ギラギラと肉食獣の如く欲に塗れた眼差しを向けていた。
リリアは媚びる様な眼差しをチラチラとブライトに向け、アドルフは物憂げな流し目を常にアウロアに送っている。
それらをまるっと無視しつつ、失礼にならない程度に相手をする国王夫妻に、徐々に苛立ちを見せるアドルフとリリア。
何故自分達に関心が向かないのかわからない、そんな表情を浮かべては取り繕う様にほほ笑むのだ。
フェレメン国王太子で経験値を上げているこの国の貴族たちは早々に、この先何が起きるのか容易に想像が出来て、美味しそうな食事すら霞む位に重々しい溜息を吐くのだった。
誰もが不安を感じていた晩餐会は、拍子抜けするほど何事もなく終わった。
晩餐会での彼等を見れば、あきらかに何かを仕出かしそうだったのに。
だからこそ尚更、明日彼等がこの国を発つまではと緊張感が高まっていく。
そして、最重要課題の夜の警備。その名も「グレーグ包囲網」を展開。
何故、その名が付いたかというと、彼がこの国に来るたびに王妃を守る為の強固な警備が出来上がっていったからだ。
その包囲網とはその名の通り、彼等を包囲するもの。
二人一組で貴賓の部屋を包囲するのだ。
本来は扉を背に外敵を警戒するのだろうが、「グレーグ包囲網」は一人は扉を一人は周囲を警戒する。部屋の中から誰も逃さぬように・・・と。
それは思いのほか威力を発揮し、これまで幾度かの訪問があったが、グレーグを一歩も部屋から出すことはなかったという。
「アウロア、今晩の警備も厳重だ。だから安心して眠るといい」
ブライトがアウロアを部屋まで送り、その手の甲に口付けた。
「えぇ・・・わかってはいるのだけれど・・・・」
不安そうに眉根を寄せるアウロアに、ブライトは少し緊張しながら口を開いた。
「アウロア・・・そんなに不安なら、その・・・今晩、い・・・一緒に、眠らないか?」
ブライトの言葉に、意外にもアウロアはパッと顔を輝かせ「いいのですか?」と今だ握られている手に力を込めてきた。
いつもの様に却下されると思っていたブライトは、驚きの後からじわじわせり上がる歓喜に「勿論だよ」と満面の笑みを向けた。
アウロアもほっとした様に胸を撫で下ろし「本当は、不安だったのです」と、呟いた。
そして、その後に続いた言葉に、ブライトは彼女の本性の片鱗を見る事となる。
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