第14話

「「お父様!お母様!」」


イーサンとシャーロットが、ブライト達夫婦の寝室に満面の笑みでやって来た。

「今日は、いっしょにねてもいいの?」

「みんな、いっしょよね?」

キラキラとした眼差しを向けられ、ブライトは嬉しそうに、アウロアは諦めたように笑う。


家族四人がいる部屋は本来、ブライト夫婦が数年前まで使っていた寝室だ。

ベットは大きく、家族四人位は余裕で眠れる。

夫婦の営みが無くなってからは、四人で寝る時だけ使う部屋となっていて、年に数回しか使う事はない。

だが今日ブライトは夕食時、子供達に声を掛けたのだ。

「今晩は、みんなで寝ないか?」と。

大喜びの子供達とは反対に、アウロアは渋い顔を作る。

そんな反応は想定内でもあったため、ブライトはめげなかった。

と言うのも、この計画の入れ知恵は、ヴィルトとエルヴィンなのだから・・・・


執務室で彼等に頭を下げ、知恵を借りた。


「まずは使えるは何でも利用しなくてはね」


を合言葉に、まずは子供達を味方につける事にする。

元々子供達は味方だ。両親が大好きなのだから。

アウロアも子供達には弱い。だから、そこから攻める事にしたのだ。

卑怯と言われようが関係ない。何故なら、ブライト一人で頑張っても進展はみられないと二人に言われたから。

いや、二人に言われなくてもブライトも今日一日で、アウロアの言葉から態度から、身を持って感じていた。

だから、利用できるものは何でも利用する。大人げないと言われても、利用する。


自分自身の為に。いてはこの国の平和の為に!


そんな決意の元、子供達に声を掛けた。

子供達も当然の事ながら協力的で、こっそりと「お父様、がんばって」と耳打ちされるほどだ。

心配かけてしまった事に申し訳なく思い、四人で寝る機会をもっと増やそうと密かに心に決める。

そうでもしないと、アウロアと同じ部屋で眠る事が出来ないし、距離が全くもって縮まらないから。

明日から同じ執務室で仕事をする事にしている。

謁見や視察も同行出来るよう、調整をおこなうことになっている。

アウロアも王妃としての視察などがあるので、ブライトが同行できるものは予定をなるべく合わせるようにもした。

妻一人の機嫌を取るために、回りを巻き込み此処までするのかと批難されそうだが、アウロアを失う事はこの国の平和を失う事と同義である。・・・と、ブライトは思っている。


いや、むしろ俺の心の平和の為だ・・・・俺の心の平和は国の平和。うん、そういう事にしておこう。


ブライトは自分に言い聞かせるように心の中で呟き、一人頷く。

そんな父親を見たイーサンは「どうしたの?」と、小首を傾げながら可愛らしく抱っこしてとばかりに、両腕を広げた。

「何でもないよ。さぁ、ベッドへ行こうか」

イーサンを抱っこしシャーロットの手を引いてベッドへと向かった。

広い広いベッドの上でその弾力を楽しみ、そして布団へと潜り込む子供達はとても愛らしい。

イーサンとシャーロットを挟む様にブライトとアウロアが横になる。

そしてしばし、双子達の話を聞いたり本を読んだりと親子の触れ合いをしてから、眠そうに目をこすり始めた彼等を寝かすのだ。

「「おやすみなさい、お父様、お母様」」

「おやすみ。イサ、シャル」

「おやすみなさい。良い夢を」

二人にお休みのキスを送れば、そう時間もかからず安らかな寝息が聞こえてきた。

ブライトも目を閉じ、子供達の寝息に耳を澄ませていると、もう一つ・・・アウロアの寝息をとらえた。

彼女も眠ったのだろうか・・・と、目を開ければ、暗がりでも浮かび上がる様なアウロアの美しい寝顔。

魅入られたかのように、目を離せずじっと見つめる。


女神の様に美しい事は百も承知だ。

だが今、目の前にいる彼女は、今まで以上に美しく見えるのは何故なのだろうか。

美しい他にも可愛らしく見えるのは、何故なのだろうか。

可愛らしいよりも美しいと言う言葉の方が適切だというのに。


食事中、子供達に向ける優しい笑顔。

離婚猶予の承諾をした時の、不本意を隠すことのない表情。

子供達と寝ようと声を掛けた時の、渋い顔。

寝物語にと絵本を感情込めて読み聞かせする、その声。

全てが可愛らしくて愛しい。


―――・・・・参ったな・・・・


出会った頃からアウロアに惹かれていた事は自覚していた。

だが、今現在のこの感情は、惹かれていたなんて気持ちが何だったのかと思われるほどに、全てをアウロアに奪われてしまった。

初めての経験だった。

そして、これが恋であり愛なのだと自覚する。

これまでに好意だと思っていた気持ちとは全く違う。初めての感情。


ブライトはゆっくりと身体を起こし、アウロアに手を伸ばし頬にかかった髪をそっとよせた。

毎日のように顔をあわせていたのにもかかわらず、初めて見たかのようにアウロアの表情は今日一日、眩しいものだった。

不思議でしょうがない。気持ちのありどころ一つで、こうも全てが違うものに見えてくる。


アウロアが愛しくて、しょうがない・・・


ブライトはゆっくりと慎重にアウロアに顔を近づけると、滑らかな頬に口付けた。

そして「アウロア、愛している。愚かな俺で、ごめん」と切なげな声で囁き、愛しそうに髪を撫で離れていった。

大切な人達の寝息を子守歌に目を閉じれば、ようやくブライトの長い一日が終わったのだった。





少しして、ブライトが穏やかな寝息を立て始めると、今度はアウロアがカッと目を見開き狼狽える。

暗がりで見えないが、その顔は熟れた林檎の様に真っ赤だった。

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