第1050話 ダークセベクとの戦い(2)

 俺はトンネルの入り口に駆けつけた。入り口は金属製の扉で塞がれており、簡単には入れそうにない。


「ダークセベクは、ここに入ったのか?」

 ハインドマンが近付いて来て尋ねた。

「まずい事に、そうなんです」

 ジョンソンが複雑な表情を浮かべて答えた。失敗したという後悔とまずい事になったという不安が顔に出ているようだ。


「あいつは、明らかにダンジョンコアに用があるようだった」

 俺が言うと、ハインドマンが顔をしかめる。

「何をするのか分からんが、阻止しなければならんようだ。……攻撃魔法で扉を壊せるか、やってみよう」


 俺たちは扉から離れた。そして、ハインドマンが『サリエルクレセント』を発動し、分子分解の力を持つサリエルブレードを扉に向かって飛ばした。そのサリエルブレードが扉に命中しようとした瞬間、強制的に魔法が解除される。


 扉にそういう仕掛けが組み込まれているようだ。

「クソッ」

 ハインドマンが珍しく罵った。攻撃魔法がダメだったので、試しに『クラッシュボール』で攻撃してみたが、それも魔法が強制的に解除された。


 嫌な予感を覚えた俺は、ジョンソンとハインドマンに岩山から離れてもらい、神剣ヴォルダリルを構えた。体内を循環している神威エナジーを神剣ヴォルダリルに注ぎ込み、振り下ろしながら『神威閃斬』を発動する。神剣の刃から神威エナジーで形成されたエナジーラインが放たれ、岩山に向かって飛ぶ。


 驚異的な破壊力を持つエナジーラインは、内部にあるトンネルを切断するように岩山を切り裂き、爆発したように岩の破片を飛び散らした。


「な、なるほど、考えたな。扉ではなく岩山を切り崩したのか」

 斬り裂かれた岩山を見るジョンソンの目が丸くなっている。

「あそこから入れそうですよ」

 俺はトンネルの一部が見えている場所を指差した。俺は急いで近付くとそこに入り込んだ。トンネル内部は、それほど壊れてはいなかった。内部を確認していると、ジョンソンとハインドマンもトンネルに降りて来る。その後ろからエルモアと為五郎がトンネルに入った。


「ダークセベクは?」

 ハインドマンが尋ねる。

「奥に居るようです」

 俺たちは急いで奥に向かった。すると、大きな空間に出た。空間の奥にはダンジョンコアが組み込まれた柱があり、その前に血塗ちまみれのダークセベクが立っている。


「やめろ!」

 ダンジョンコアを取り外そうとするダークセベクに向かって叫んだ。魔法で不意打ちすれば良いのではないかとも考えたのだが、躱された場合にダンジョンコアを巻き込みそうだった。取り敢えず、叫んで俺に注意を向けさせた。


 その間にエルモアたちが脇に回り込んだ。ダークセベクは俺たちが来る事は分かっていたようだ。まあ、あれだけ盛大に岩山を壊したのだから、気付かない訳がない。なのに、振り向きもせずにダンジョンコアを取り外す作業を続けている。


 俺、エルモア、為五郎、ジョンソンが走り出し、ダークセベクに迫る。やっとダークセベクが作業を中止して振り向き、戦斧を振り回す。邪気の刃が飛んで来た。その軌道上には、俺とジョンソンが居たので『カタパルト』で上に跳んで避ける。


 次の瞬間、エルモアが斬り込んだ。神威エナジーの刃がダークセベクのバリアを斬り裂き、脇腹に食い込んで大ダメージを与える。次に為五郎がオムニスグレイブでダークセベクの首を狙ったが、それは戦斧で防がれた。


 ダークセベクは片足がなく全身から血を噴き出している状態である。それでも戦意をなくしてはおらず、また強烈な邪気を爆発するように放った。


 後方に居るハインドマンを除いた全員が吹き飛ばされる。それを見たハインドマンが魔儺を使った魔法『ペネトレイトドゥーム』で攻撃した。徹甲魔儺弾がダークセベクに命中して胸を貫通すると同時に、ダークセベクを弾き飛ばして柱に叩き付けた。


 全身から血を流すダークセベクが柱に指を食い込ませて起き上がると、その柱に組み込んであるダンジョンコアに噛み付いた。


「はあっ? あいつは何を?」

 俺は思わず驚きの声が上げた。ダークセベクは鰐のような口に生えている鋭い牙を柱に食い込ませ、岩を噛み砕いた。そして、柱の一部だった岩と一緒にダンジョンコアを呑み込む。


 その直後、ダンジョン全体の空間が捻じ曲がった。内部に居る俺たちは、嵐に巻き込まれたように振り回され、ダンジョンから弾き出されて地上に戻った。ダンジョンが消滅した瞬間を経験したのだ。


 頭がグルグルして吐き気がする。ダンジョンから弾き飛ばされた衝撃がダメージとなっているようだ。周りを見回すとエルモアたちとジョンソン、ハインドマンが地面に倒れている。気を失っているらしい。


 ダークセベクを探す。すると、少し離れたところに倒れていた姿が目に入る。それを見た瞬間、強烈な危機感を感じ、一刻も早くダークセベクにトドメを刺そうと決意した。


 藻掻くように立ち上がり、ふらつく身体でダークセベクに近付く。その時、倒れたままのダークセベクが薄い紫色の光を放ち始めた。


 何をしているのか調べようと、心眼を使う。すると、衝撃的な事が判明した。この邪卒と思っていた化け物が邪神の分体であり、この紫色の光は邪神を召喚しようとしているのだと分かった。


 ダークセベクから放射される紫色の光が強くなり、ダークセベクの周りに奇妙な模様が生まれた。それは魔法陣に似ているが、もっと禍々まがまがしいものだった。


 その奇妙な模様から強力な力が発生して空間に干渉する。それは空間を捻じ曲げ、遠い宇宙空間を飛んでいる邪神にまで届いた。


「そんな事をさせるか!」

 神剣ヴォルダリルにありったけの神威エナジーを注ぎ込み、ダークセベクに全力で叩き込んだ。膨大な力を持つ神威エナジーがダークセベクが発生させている力とぶつかり、お互いを喰らい合う。


 俺が放った神威エナジーが、捻じ曲げられた空間を通って宇宙の彼方へと突き進んだ。そして、邪神と接触した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る