第978話 ドンガラダンジョン

 鳴神ダンジョンの三層に行った俺は、影からエルモアを出した。

『海で試すのですか?』

「まずは、海で正確に指定した範囲に撃ち込まれる事を確認する。俺は新しい魔法の発動に集中するから、エルモアを使って確認してくれ」


『分かりました。それでどこを狙いますか?』

 沖にある岩礁を指差した。

「あの岩礁を中心に狙うつもりだ」

 エルモアが頷いて岩礁を確認した。俺が海を選んだのは、黒炎弾が着弾すると水柱が上がり着弾地点を確認しやすいからだ。


 俺は岩礁を睨んでから新しい魔法を発動した。指輪から膨大な黒炎エナジーが放出されるのが分かった。その黒炎エナジーが目の前に壁を作り出す。それは黒炎弾を一万五千発積み上げた壁だった。次の瞬間、壁のように積み重なった黒炎弾が一斉に撃ち出された。


 広がりながら飛翔した黒炎弾は、三百メートルほど離れた海面に突き刺さって水柱を上げる。一万五千本の水柱が一斉に生まれたのは、壮観な眺めだった。


『照準は正確なようです。岩礁を中心に正確に分布しています。それに岩礁はボロボロになって半分は海底に沈んだようです』


「威力もあるという事だな」

『かなり大きな岩礁でしたので、威力は間違いなくあります』

 その後、二度新しい魔法を発動して照準が正確な事を確かめた。問題なかったので、二層の岩山が連なる場所へ行く。ここで一万五千発の黒炎弾を集中した場合はどうなるか確かめようと思ったのだ。


 黒炎弾は最初は無条件に広がってから、指定した範囲に飛ぶように作られている。なぜ最初だけ無条件に広がるようにしたのかというと、攻撃範囲を三メートル四方というように狭くした場合、飛翔中の黒炎弾が別の黒炎弾とぶつかってしまうからだ。


 俺は岩山の側面三メートル四方を標的に定め、新しい魔法を発動した。一斉に黒炎弾が撃ち出されてラッパ状に広がってから軌道修正して三メートル四方に集まり始める。


 その時、直線的に飛んだ黒炎弾は早く着弾し、外に広がってから軌道修正した黒炎弾は遅れて着弾する事になる。岩に着弾した音が響き渡る。そして、一万五千発が狭い範囲に集中した結果、岩が削られて大きなクレーターが生まれた。


 <爆轟>の特性が付与されている『ホーリーファントム』より、狭い箇所に限定した新しい魔法の方が威力が大きいようだ。


『新しい魔法は、何と名付けますか?』

「そうだな……『ダークネスレイン』にしよう」

 試しているうちにいくつか気になる点を見付けたので、それを修正して『ダークネスレイン』は完成した。


『そう言えば、邪卒や邪神眷属に通用するクラッシュ系のような魔法を創る、という話がありました。黒炎エナジーを使えば可能なのではないですか?』


「俺も最初はそう思ったんだけど、黒炎エナジーを使うには黒炎リングが必要だから、クラッシュ系のように広まらないと思う」


『ですが、『クラッシュボール』のような威力があり、邪卒や邪神眷属に有効な魔法なら、創る価値があると思います』


 クラッシュ系に使われている<空間振動>という特性は、<聖光>などの特性と相性が悪かった。だが、<黒炎>は大丈夫なようだ。黒炎エナジーの特徴は膨大なエネルギーを手に入れられるという事と、そこに存在する魔力などを吸収し、使用者が望む力に変換するという事だ。


「黒炎を使う場合は、相手の魔力を吸収して燃やすというのが、一番有効そうだ」

『『バーニングショット』に似ているのかもしれませんね』

「そうかもしれない。ただ黒炎エナジーは桁違いの力だ。威力は何倍にもなるだろう」


 俺は黒炎エナジーについて研究する事にした。

「その前に、黒炎リングをバタリオンのメンバー分だけ作っておくか」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 グリムが『ダークネスレイン』を完成させた数日後、オーストラリアの西部にあるドンガラという町に上位冒険者が集まっていた。ここに新しい中級ダンジョンが出現したからだ。


 このドンガラダンジョンには躬業の宝珠という宝をドロップする魔物が居るという情報が広まったのが原因である。


 そのダンジョンの前で、上条と三橋師範が偶然会った。上条が三橋師範を見てニヤッと笑う。

「これは、運命の出会であいというものですかね」

「気色の悪い言い方をするな。お互いの狙いが一緒だったというだけだ」


「師範も躬業の宝珠を狙っているんですか?」

「そうだ。強力な力を与えてくれると聞いている」

「そうらしいですね。そのためには青龍を倒さなければなりませんけど」


「倒せる自信があるのか?」

 三橋師範が上条に尋ねると、上条が顔をしかめた。

「分かりません。今、どういう風に実力を伸ばすべきなのか、悩んでいるんです」

「そうなのか。魔装魔法と生活魔法の魔法レベルはどうなっているんだ?」


 尋ねられた上条が苦笑いする。そういう情報は冒険者として秘密にするものなのだが、相手が元師匠なので話す事にした。


「魔装魔法が『28』、生活魔法が『15』ですよ」

「……魔装魔法はレベルアップしているようだが、なぜ生活魔法は上がっておらんのだ?」

「仕方ないですよ。私の生活魔法の才能は『C』なんですから」


「『限界突破の実』や『才能の実』を探していないのか?」

「探してはいます。ですが、そのほとんどはA級上位の者しか入れないダンジョンにありますから」


「グリムに相談してみろ」

 上条は頷いた。

「A級二位のグリム先生なら、何とかなるかもしれないという事ですね」

「ああ、儂もグリムから『限界突破の実』をもらって、今は生活魔法の才能が『B+』だ」


 水神ドラゴン退治から戻った三橋師範は、グリムから『限界突破の実』をもらって『B+』になったのである。


「グリム先生のバタリオンに入れば良かった」

 今になって後悔する上条だった。


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