第838話 ダークウルフ討伐チーム

 一層の草原を奥へと進み始めたダリオたちは、ダークウルフについて話し始めた。

「ダリオ、ダークウルフの事をどう思う?」

 魔装魔法使いのレナートがリーダーのダリオに尋ねた。

「質問が抽象的すぎる」

「この討伐チームで仕留められると思うか?」


「ダークウルフがどれほど賢いかによると思う。積極的に影に潜る能力を使う邪卒だと、仕留めるのは難しいかもしれない」


「そんな事じゃ、仕留められるものも仕留められないわよ」

 攻撃魔法使いのジルベルタがダリオに言う。ジルベルタはA級四十八位の冒険者で、三人の攻撃魔法使いの中で一番の腕利きだった。ちなみに、ダリオはA級三十八位の魔装魔法使いで、レナートはA級四十二位だ。


「威勢はいいけど、ダークウルフの素早さについていけるのか?」

 レナートがジルベルタに尋ねる。それを聞いたジルベルタが鋭い視線をレナートに向ける。


「ダークウルフの動きを止めるのが、魔装魔法使いの役目じゃなかったの?」

「止めてやるさ。だが、そんなに長い間止められないかもしれんのだぞ」

「一瞬でも止まったら、仕留めるわよ」


 ダリオがチームメイトの言い合いを聞きながら、愚痴のように言う。

「我が国に破邪の剣が一本でもあればなぁ」

 イタリアのダンジョンでも、破邪の魔導武器がドロップする事はあった。だが、邪神眷属が現れるまでは、アンデッド用の魔導武器としか思われておらず、換金する冒険者が多かったようだ。


 不運な事に逸早いちはやく邪神眷属の出現を知ったイギリスが、アメリカを真似て破邪の魔導武器を買い占めたので、イタリアからは一本もなくなった。


 これは情報戦でイタリアが負けたという事である。しかも愚痴っているダリオ自身も、所有していた破邪の剣を高値でイギリスに売った冒険者の一人だった。


 それを知っているレナートがジト目でダリオを見る。

「その目はやめろ。考えなしに破邪の剣を売った自分が、馬鹿だって事は分かっているさ」


「レッドタイガーよ」

 ジルベルタが声を上げた。ダリオは彼女の視線の先に目を向けた。そこには体長三メートルほどの赤と黒の縞模様の虎が居た。


 かなり距離があるが、レッドタイガーもダリオたちに気付いたようだ。

「ねえ、打ち合わせで話に出た『ホーリーキック』を見せてくれない」

 ジルベルタが要望した。

「レッドタイガーは、アンデッドでも邪神眷属でもないぞ」


「魔装魔法使いの二人が、使い熟せない魔法だと聞いたから興味が湧いたのよ。高速戦闘中でなければ使えるんでしょ」


「分かったよ。私が見せてやる」

 ダリオは『ホーリーキック』を発動して待機状態にすると、魔装魔法で筋力を強化してからレッドタイガーに向かって走り出した。瞬く間にレッドタイガーとの距離が縮まり、交差する寸前にレッドタイガーが跳躍してダリオに襲い掛かる。


 ダリオは横にステップして避け、レッドタイガーが着地した瞬間に踏み込んで、その腹を蹴り上げた。足の甲がレッドタイガーの腹にめり込むと同時に眩しい光が発生し、聖光貫通クラスターが虎の腹を貫通した。


 その一撃でレッドタイガーは光の粒となって消える。それを見ていたジルベルタは首を傾げた。

「理解できないわね」

 それを聞いたレナートがジルベルタに顔を向ける。

「何が理解できないと言うんだ?」

「あの魔法を創ったのが、魔装魔法の賢者ではないという事よ。ああいう魔法こそ魔装魔法らしいじゃない」


 レナートが苦笑いする。

「生活魔法の賢者が、高速戦闘中に使える強力な魔法を創ろうと工夫した結果が、『ホーリーキック』なんだ。魔法をシンプルに纏めようとした場合、何かを犠牲にするしかないから『ホーリーキック』は射程を犠牲にしたと聞いている」


「日本の賢者は、柔軟な考えをしているようね」

 ジルベルタが感心したような顔になる。

「邪神眷属や邪卒が現れた時、最初に対策を打ったのがその賢者だったそうだから、日本は幸運だよ。もし、その賢者がイタリア人だったら、イタリアもこんな状況にならなかっただろう」


 ダリオたちはダークウルフを探しながら、下の層へ向かった。そして、七層に辿り着いた時にダークウルフと遭遇する。


 ダークウルフは体長が二メートル半ほどで真っ黒な毛並みをしていた。外見は巨大な狼なのだが、その眼だけは異様なほど印象的だった。まるで数百年を生き抜いた妖魔のような狡猾な印象を覚えさせる眼だったのだ。


 ジルベルタはまだ動き出していないダークウルフを見てチャンスだと思った。『セイクレッドガン』を発動し、大量の魔力を魔儺に加工すると<破邪光>を付与した砲弾を撃ち出した。


 その瞬間、ダークウルフがニヤリと笑い高速戦闘モードに変わった。ダークウルフが居なくなった場所に砲弾が着弾し、土煙が舞い上がる。


 その時にはダリオとレナートも高速戦闘に入っていた。ダリオは魔導武器であるイフリートソードを手に持って走り出した。


 ダークウルフはジルベルタへ向かって走っていたので、横から攻撃を加えた。ダリオはイフリートソードをダークウルフの背中に叩き付けた。しかし、ダークウルフの周りにはバリアのようなものがあり、その攻撃を弾き返す。


 だが、ジルベルタに向けられていた敵意がダリオに向けられ、ダークウルフが攻撃先をダリオに変えた。凶悪な牙や鋭い爪を使った攻撃がダリオを襲う。だが、その攻撃を受け流すか躱す技術をダリオは持っていた。


 ただダークウルフの連続攻撃により、ダリオの精神力は削られていく。そこにレナートが参戦した。二人でダークウルフの攻撃を防ぎ、何度かダークウルフへの攻撃も行う。だが、全く通用しなかった。


 その時、攻撃魔法使いたちの準備が整ったので、ジルベルタが合図を送る。それを見たダリオとレナートが生活魔法の『ホーリーソード』を発動し、聖光ブレードをダークウルフに叩き付ける。<聖光>が付与されたD粒子の刃がダークウルフを斬り付ける。


 バリアに命中して力比べとなり、ダークウルフの動きが止まる。次の瞬間、ダリオとレナートが跳び退いたと同時に、攻撃魔法使いたちの『セイクレッドガン』が発動する。三本の光の帯が狼型邪卒へ伸びると、ダークウルフは必死に跳躍した。


 だが、<破邪光>の効能を付与された砲弾の全てを躱す事はできず、一発の砲弾がダークウルフの腰を貫いた。ダリオとレナートはトドメを刺すためにダークウルフに向かって跳躍した。次の瞬間、ダークウルフの姿が消える。


 ダリオとレナートは周囲を探したが、ダークウルフの姿は見えず気配さえ感じられない。二人は高速戦闘モードを解除した。


「ダークウルフは倒せたの?」

 ジルベルタがダリオに確認した。

「分からない。邪卒が何も残さないのは聞いているが、黒い霧のようなものを吐き出すという話だった」


 討伐チームは五層の中ボス部屋で一泊する事にした。そして、次の日に七層へもう一度行ってダークウルフを探した。影に潜って逃げたのかと推測したのだ。しかし、見付からなかったので、倒したのだと考え地上に戻る事にした。


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