第832話 『邪神考察記』
「それは『覚醒の間』で得た成果というものなのか?」
エミリアンが尋ねた。
「そうです。それについて纏めた資料を配りますので、後で読んでください」
俺は『魔法構造化理論』を纏めた資料を賢者たちに配った。その資料を手に取った賢者たちは、ざっと目を通してから興奮した様子で食い入るように読み始める。
「……後で、と言ったんですけど」
俺の言葉は耳に届かないようだ。会議場は資料を
仕方ないので、皆が読み終わるのを待った。全員が読み終わり、最初から読み返しを始める者、賢者システムを立ち上げる者に気付いた。
「皆さん、今は会議中です。『魔法構造化理論』は会議が終わった後にしてください」
賢者たちから睨まれた。俺は失敗したらしい。『魔法構造化理論』は最後に出すべきだったのだ。
俺を睨んだバグワンが、何かに気付いたような顔をして咳払いする。
「ああ、済まない。皆さん、グリム先生が言うように、会議を進めましょう」
バグワンが言ってくれた事で、ようやく賢者たちが正常に戻った。
「これは素晴らしい。君は天才だよ」
シュナイダーが最大級の褒め言葉を口にした。
「私もそう思うわ」
ステイシーも同意する。
「いえ、この『魔法構造化理論』を作れたのは、『覚醒の間』があればこそです」
「『覚醒の間』ね。興味深いわ」
ステイシーが目だけが笑っていない笑顔を見せながら言った。
「さて、邪卒の件に戻りましょう。現在出現した邪卒は、下級兵の黒武者だけです。それでも生活魔法使いが居ない地方では、倒すのに苦労しています」
バグワンが現状を分析して言った。それを聞いた魔装魔法と攻撃魔法の賢者が顔をしかめる。
「邪卒用の魔法については、その開発に努力している。しかし、どうしても習得できる魔法レベルが、高くなりすぎる点が解決できなかった……と言うのは昨日までの事。『魔法構造化理論』があれば、完成できそうです」
エミリアンが言った。エミリアンが開発している魔装魔法は、鬼神力に破邪の
鬼神力を使うので威力が絶大で、黒武者の剣ごと切断できると考えているようだ。ステイシーが言っていた『巨大なパワーで防御を破壊する』パターンの魔法である。ちなみに、意念というのは生活魔法の特性みたいなものである。
「威力は絶大でも、使い難そうな魔法ですね」
ジーナが感想を言った。それを聞いたエミリアンが苦笑いする。
「ご指摘の通り、魔装魔法使いが使い熟すには厳しい鍛錬が必要でしょう。ですが、威力は保証します」
シュナイダーがエミリアンに顔を向ける。
「エミリアン殿は、威力に拘りすぎる傾向があるようだ。儂としては『ラセツウィップ』のような魔法を創って欲しかったのだが」
それを聞いた生命魔法の賢者であるルドマンが、賛同するように頷いた。
「ラセツ系は、素晴らしい発想だ。もう少し種類を増やして欲しいと思っている」
付与魔法使いや生命魔法使い、分析魔法使いのほとんどが、そう考えているとルドマンが言った。
「ラセツ系は、グリムとその弟子たちが考えたものです。その基本的な考えを理解すれば、ルドマン殿でも創れますよ」
エミリアンが言うと、ルドマンが嬉しそうに頷いた。
「それなら、資料が欲しい。頼めるかね?」
「グリムが許可すれば、私がラセツ系の基本を記述して渡しましょう」
俺はもちろん許可した。
「ありがとう。感謝する」
次にステイシーが開発状況を話し始めた。ステイシーは魔儺を『鬼神力鍛錬法』の仕組みを使って凝縮できないか試しているそうだ。ただ開発に時間が掛かりそうなので、『ソードフォース』に<破邪光>の効能を付与した魔法の開発も行っているという。
但し、新しい攻撃魔法は<破邪光>の効能を付与した一つの魔力刃を飛ばすのではなく、三つの魔力刃を違う角度で飛ばす魔法だそうだ。
一つの魔力刃なら黒武者の剣で弾かれてしまうが、同時に三つの魔力刃が襲い掛かれば、対処できずにダメージを負うだろうと考えたのだろう。ただ黒武者が剣で受けずに三つの魔力刃を避けた場合は、面倒な事になる。複数の攻撃魔法使いが協力して逃げ道を塞ぐように攻撃するというのも考えなければならない。
レベッカやジーナも研究しているらしいが、成果は上がっていないようだ。俺の番になったので、最近創った『ホーリーキック』について説明した。
魔装魔法の賢者であるエミリアンが身を乗り出して質問した。
「なぜキックと連動する魔法を、考えたのかを教えて欲しい」
「この魔法は、高速戦闘ができる邪卒が現れた場合を想定して、創ったものです。高速戦闘中でも発動しやすいようにコンパクトな構造になっており、邪卒のバリアを破壊できる威力もあります」
レベッカが首を傾げた。
「パンチの方が扱いやすいと思うけど、なぜキックにする必要があったの?」
「邪卒の武器による攻撃を、こちらも武器で受け流して踏み込んで攻撃する、というパターンを考えた時、手には武器を持っているのでキックという選択になったんです」
一番の理由は三橋師範用にと考えたからだが、それは言わない方が良いだろう。他の賢者たちは納得したようだ。
最後に俺は邪神について話す事にした。
「これから話す事は、賢者だけの極秘扱いとしてください」
賢者たちは同意した。ただステイシーが理由を尋ねた。
「人間にとって衝撃的な話が含まれているからです」
それで賢者たちが納得するはずもないが、取り敢えず話を聞く事にしたようだ。
「最近、ダンジョン神の神域に行きました」
「ダンジョン神の神域というのは?」
「文字通りダンジョン神が居る神域です」
行く方法については秘密にした。神威エナジーが関係するので、俺以外で行ける者は居ないと思ったからだ。
それを聞いた賢者たちが息を飲んだ。
「君はダンジョン神に会ったというのかね?」
シュナイダーが信じられないという顔で確認した。
俺は頷いて神域に行く前に調べた事を話す。ダンジョン神が邪神の『呪詛の一撃』を受けてしまったという話である。
「それについてはイギリスから取り寄せた資料があるので、確認してください。それよりも神域に行ったという話を続けます」
俺はある方法で神域に行って烏天使に会い、『代神様』と呼ばれているダンジョン神の翼を斬った事を伝えた。
ルドマンが青い顔を俺に向けた。
「神の翼を斬っただと……君は並外れた度胸を持っているようだ」
それを聞いた俺は、その言葉が褒めているのかどうか迷った。たぶん宗教観の違いも含んでいるように思える。
俺は仙丹の事を省いて、<代神の加護>の事や邪神の事について話した。
「その邪神について書かれた本というのを、見せてもらえないかしら」
ステイシーが頼んだので、俺は本を取り出してステイシーに渡した。
その本を鑑定すると『邪神考察記』と表示される。そして、著者に神の御使いイエランシャという名前が出てくる。たぶん烏天使の名前がイエランシャなのだろう。
神殿文字が読めるというシュナイダーが、冒頭部分を読んで顔を強張らせる。そこには邪神が星を侵略し植民地化するやり方が書かれている。シュナイダーの様子を見たステイシーが何が書かれているのか尋ねた。シュナイダーが説明すると、会議室に沈黙が広がった。
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