第833話 朱鋼ウルフ
「邪神とは何者なのだろう?」
ルドマンが呟くように言った。俺自身は『神の定義』を持っていないので、邪神ハスターが神なのかどうかは分からない。
だが、ダンジョン神に会って人智を超えた存在だというのは感じた。神威エナジーを扱えるようになってから、人間が知覚できる三次元の存在を超えた何かを感じるようになった。
ダンジョン神に会った時、それを強烈に感じたのだ。ダンジョン神は三次元だけではなく、それを超えた次元の世界にも存在していたのだ。
その翼を斬る時には、その三次元を超えたところにある翼も一緒に斬った。だから、成功したのである。
ステイシーが俺に目を向けた。
「この『邪神考察記』なのだけど、少しの間貸してくれないかしら」
「内容は把握していますから、構いませんよ」
すると、賢者全員が貸してくれと言い出した。それほど重要だと理解したのだろう。俺は承諾した。その後、ギャラルホルンを修理する事は人間には不可能であるという事と、ダンジョンが邪神ハスターとの戦いに参加する戦士を鍛えるための存在だという烏天使の言葉を伝えた。
賢者全員が真剣な顔で考え始めた。俺は口を閉ざし、烏天使の言葉が賢者たちの心に染み渡るまで待った。
賢者会議が終わり、俺は日本に帰った。本当は他の賢者たちと話をして親睦を深めたかったのだが、俺が出した情報のショックが強すぎて話をするような状態ではなかったようだ。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
グリムがインドへ行っていた頃、天音は中学時代の友人が結婚するというので、その結婚式の披露宴に出るために実家に帰った。
「お帰りなさい」
母親の
「忙しそうね。お母さん用の執事シャドウパペットを作ろうか?」
「それは、贅沢すぎるんじゃない」
天音は自分の執事シャドウパペットであるナデシコを影から出した。静恵はナデシコの事は知っているので、台所仕事を手伝わせ始める。
その様子を見て母親用の執事シャドウパペットを作りプレゼントする事にした。
「結婚するのは、誰なの?」
「
「全然覚えてない。どんな子なの?」
「七条高校へ行ってから、東京の大学に進学して銀行に勤めていた、と聞いているけど」
「ふーん、天音の友人で結婚する人が、多くなったわね。天音も見合いとかする?」
「絶対に嫌、見合い写真とか持って来ないでよ」
静恵は溜息を漏らした。
その翌日、落ち着いた服を着た天音は、披露宴に向かった。結婚する友人の相手は、地元で大きなスポーツジムを経営している人物の息子である。
ホテルに到着すると披露宴会場へ入った。天音の姿を見た中学時代の友人たちが、手を振っている。そのテーブルに向かうと、天音の席もあった。
「天音、最近は何をしているの?」
友人の一人が尋ねた。天音は名刺を友人に渡す。
「へえー、魔導工房を立ち上げたんだ。凄いわね」
「何を作っているの?」
別の友人が質問する。
「今多いのは、シャドウパペットのパーツよ」
それを聞いた友人たちは頷いた。
「そう言えば、最近シャドウパペットを購入する人が増えていると聞いた」
話は天音の仕事から恋バナに移り、ちょっとうんざりした。披露宴自体は良かったので、天音は結婚した美桜を羨ましく思った。
その帰りに
「ねえ、君たち。これから飲みに行くんだけど、一緒に行かないか?」
天音たちにも声が掛かった。天音たちは誘いに乗らずに帰ろうとしたのだが、三人組がしつこく声を掛けてくるので、天音が少し本気になって睨む。
その瞬間、天音から荒々しい気配が溢れ出す。それを感じた三人組は、
「申し訳ありませんでした」
と言って、逃げるように去っていった。
それを見ていた天音の友人たちが苦笑いする。
「天音、そんな風だと恋愛は無理ね」
「少し睨んだくらいで逃げるような男は、初めから対象外よ」
天音たちはそのまま帰った。
その翌々日、実家から渋紙市に戻った天音は、工房で黒魔石の在庫が少なくなっているのに気付いた。黒魔石は魔導職人が使う工具の材料となるのだが、最近需要が高くなって品薄状態らしい。
仕方ないので自分で取りに行く事にした。黒魔石<小>を落とす魔物で数が多いというと、朱鋼ウルフが天音の頭に浮かんだ。
朱鋼ウルフが居る上級ダンジョンは、茨城の那珂ダンジョンである。そこの十二層の荒野に多くの朱鋼ウルフが居ると知られていた。また朱鋼ウルフは群れる事もあり、チームでの狩りが推奨されている。
天音はバタリオンのメンバーに声を掛け、タイチから参加できるという返事をもらった。
「天音先輩、朱鋼ウルフ狩りに行くという話ですけど、どこのダンジョンに行くんです?」
グリーン館で打ち合わせをする事になり、タイチが天音に確認した。
「茨城の那珂ダンジョンよ」
「那珂ダンジョンか。千佳先輩がダイダラボッチを倒したところですね」
「ダイダラボッチは三十層の中ボスだったけど、朱鋼ウルフは十二層を棲家としている普通の魔物よ。ただ群れる習性があるので、多数の相手と戦う事になると思う」
「朱鋼ウルフは、ゴーレムの一種なんですよね。防御力が高い上に群れるのか、厄介そうだ」
タイチは厄介そうだと言う割に、楽しそうな顔をしていた。
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