第807話 水月ダンジョンの新参者
ベヒモス用の魔法は『
<空間圧縮>は予想以上に魔法レベルを上げる原因となるようだ。アリサに習得できる魔法レベルを告げると、溜息を吐かれた。
「『神威迅禍』にステルス機能が必要だったの?」
音速の二十五倍というスピードがあるのだから、それほど素早くないベヒモスは避けられない。それを理解しているアリサは、疑問に思ったようだ。
「対ベヒモスとしては、必要ないと思う」
「だったら、どうして?」
「創っている途中で、強力な邪卒や邪神に対して使えるんじゃないかと、考え始めたんだ」
「もう、ベヒモスを倒した後の事を考えているの。早すぎない」
「簡単に勝てるとは思っていないけど、負ける事なんて考えていないぞ。ポジティブシンキングだ」
「ポジティブシンキングはいい事だと思うけど、それが油断に繋がったらと思うと……」
「油断なんかしないよ。死にたくないからね」
「それならいいけど。そうだ、ベヒモス用の魔法は、もう一つ用意した方がいいんじゃない」
「そうだな。一つの魔法に全てを賭けるというのは、確かに危険だ。考えてみよう」
俺たちは地上に戻り、ダンジョンハウスで着替えてから帰宅した。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
早く一人前の冒険者になりたかったからだ。ヒロトは生活魔法の才能が『B』、魔法レベルは『11』である。
その日、グリーン館に行くとタイチとシュンの姿が目に入った。
「先輩、何をしているんですか?」
タイチが振り返ってヒロトを見る。
「ああ、シュンがモージハンマーを返すそうなんだ」
ヒロトがシュンに目を向ける。シュンは収納リングからモージハンマーを取り出してヒロトに見せた。
「これが一番使い慣れた武器だから、手放したくはなかったんだけど、ずっと借りている訳にはいかないからな」
「バタリオンに返すのなら、次はおれが借りてもいいですか?」
「構わないけど、モージハンマーは使い方が独特だから、慣れるまでに時間が掛るぞ。それより<貫穿>と<斬剛>の特性が付与された白輝鋼製の剣がいいんじゃないか」
「その白輝鋼製の剣を使っているんですが、何かしっくり来なくて、武器を変えようかと迷っているんです」
「なるほど、試すというのならいいんじゃないか」
ヒロトたちはグリーン館の武器庫へ行って、係の人にシュンがモージハンマーを返し、ヒロトが借りる手続きをした。
バタリオンの運営資金は、基本的にスポンサーからの寄付金で賄っている。武器庫の係員を雇えるのも寄付金があるからだ。但し、スポンサーも冒険者ギルドを通さずに直接バタリオンの冒険者に依頼ができるので、利益になるようだ。
モージハンマーを手に入れたヒロトは、資料室へ行ってアーマーベアを倒す方法を調べる。D級の昇級試験の課題になっているのが、アーマーベアだったからだ。
調べ終わると鍛錬ダンジョンへ向かった。そこの三層へ行くとモージハンマーの威力を試す事にした。ヒロトが森の中を進んでいると、ゴブリンに遭遇した。
ゴブリンはヒロトに気付かず、スタスタと左の方へ進んで行く。ヒロトは背後から忍び寄ると、モージハンマーを力一杯投げた。モージハンマー自体に加速する機能があるようで、予想以上のスピードで飛んだ。そのままゴブリンの頭に命中すると、ドガッという音が響いてゴブリンの頭が陥没する。
ゴブリンは倒れて消える。モージハンマーは生き物のように弧を描いてヒロトの手に戻ってきた。
「なんて威力だ。シュンさんが手放したがらない訳だ」
それからハイゴブリンやオーク、リザードマンなどを相手に試してみたが、魔力を込めない一撃で倒してしまった。
しばらく森の中を歩いていると、アタックボアと遭遇。オークやリザードマンよりは頑強なアタックボアなら、一撃で仕留められないだろうと思いながら、ヒロトはモージハンマーを投げた。
クルクルと回転しながら飛ぶモージハンマーは、最初の頃よりスピードが増したようだ。回転させるような投げ方をするとスピードが増すらしい。飛翔したモージハンマーがアタックボアの頭に命中する。アタックボアは一瞬だけよろっとしたが、耐えてヒロトを目掛け突進を開始する。
迫ってくるアタックボアを見たヒロトは、『カタパルト』を発動して身体を右斜め上に投げ上げた。アタックボアは目標を見失って急ブレーキを掛ける。
「本気の一撃で行くか」
ヒロトはモージハンマーに魔力を流し込むとヒョイと投げた。クルクルと回転しながら飛んだモージハンマーがアタックボアの背中に命中した瞬間、稲妻が上空へと走った。同時にアタックボアにも強烈な電気が流れたはずだ。
アタックボアはその一撃で倒れた。
「おおっ、これならアーマーベアにも有効かもしれないな」
ヒロトは早速試したくなって地上に戻ると、水月ダンジョンへ向かう。水月ダンジョンに入ったヒロトは、十五層を目指して進み始めた。
ヒロトはホバービークルやホバーバイクを所有していなかったので、空を飛べるエリアは『ウィング』を使って飛んだ。ただ魔力消費を考えると頻繁には使えなかった。
半日掛けて九層まで辿り着いたヒロトは、中ボス部屋に先客が居るのに気付いた。三人組のチームでヒロトが知らない冒険者たちだ。
「ん、新米か?」
「……ええ、魔法学院を卒業したばかりです。他の町から来られたんですか?」
「ああ、ここの支部から、またA級が出るというじゃないか。ここで活動して、おれたちも上に行くつもりさ」
「A級というのは、
「そんな名前だった。ここは凄いな。若い女なのにA級だっていうじゃないか」
こいつら勘違いしているとヒロトは思った。二人がA級になれるのは、それだけの実績を上げたからだ。ここの支部に居たからA級になれる訳じゃない。
「ところで、どこまで行くんです?」
「十二層の城だ。オークの宝物があるんだろ」
「ええ、宝物庫があるそうです」
「行った事があるのか?」
「いえ、ありません」
ヒロトがそう言うと、三人はヒロトへの興味を失ったようだ。感じの悪い連中だとヒロトは思った。
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