第732話 宇喜多電機の将来
メガスキャラが消えると、天音と千佳は十二層へ向かった。そして、十二層にある鉱脈を探し出し、朱鋼を採掘する。この鉱脈は最近になって発見されたもので、鉱石に含まれている朱鋼の含有量が多かった。
三日掛けて四百キロほどの朱鋼を採掘する予定だ。ここでも地母神の戦鎚が良い働きをした。【重撃】を使って鉱脈に戦鎚を打ち付けると、大量の鉱石が飛び散り、それを掻き集める事で朱鋼の鉱石が手に入ったのだ。
手に入れた鉱石は、中ボス部屋で『ピュア』を使って朱鋼だけを抽出した。そうして集めた朱鋼が四百キロとなったので、天音たちは採掘を終了して地上に戻る事にした。
中ボス部屋で後片付けをしている時、入り口から声が聞こえた。
「行くぞ」
その声と同時に、中ボス部屋に四人組の冒険者チームが入ってきた。そのチームのリーダーである
「お前たちは誰だ?」
「ただの冒険者よ。あなたたちは、ここの中ボスを倒しに来たの?」
千佳がチラリと園田を見て確認した。
「そうだ。だが、遅かったようだな」
「ええ、私たちが倒しました」
その声が聞こえたのか、入り口から別の冒険者チームが入ってきた。姉川ダンジョンに入る時に一緒だった若山のチームである。
「なんて無茶な事をしたんだ。ここの中ボスは正体が分からなかったんだぞ。運良く君たちでも倒せる弱い魔物だったらしいけど、もしかすると死んでいたかもしれないんだ」
若山という冒険者が叱るように言った。その声を園田は聞いていたが、天音と千佳の顔を確認するように見て思い出したような顔になる。
「ま、待て」
園田が慌てたように若山を止めた。
「でも、こういう時には叱ってやるのが、二人のためなんです」
「違う。少し黙っていてくれ」
園田が天音と千佳に顔を向けると尋ねた。
「もしかして、母里天音さんと御船千佳さんですか?」
天音がニコッと笑う。
「あたしたちの事を知っているの? 嬉しいわね」
「写真でしか見た事がなかったので、気付くのが遅れました。グリム先生の直弟子である二人に会えて光栄です」
若山もグリムの事は知っていたようだ。天音と千佳に向けた顔には、『やっちまった』という後悔の表情が浮かんでいた。
それを無視して園田が質問する。
「ここの中ボスは、どんな魔物だったんですか?」
園田が真面目な顔で尋ねた。
「厄介な魔物だった。まず中ボス部屋に霧が充満していたの」
園田は周りを見回した。
「しかし……」
「ええ、今は霧なんてないけど、その中ボスが居た時は白い霧で満たされていたのよ。そして、中ボスは真っ白なゴーレムだった」
「真っ白なゴーレム……記憶にありませんね」
園田の言葉に千佳が頷いた。
「たぶん白輝鋼製のゴーレムだったのだと思う。名前は『ホワイトゴーレム』よ」
「白い霧の中に、白いゴーレムか。戦い難い相手ですね」
若山が首を傾げた。
「でも、ゴーレムはノロマですから、園田さんたちなら倒せますよ」
「いえ、そのゴーレムは素早かった。たぶんイエローオーガ程度のスピードがあったと思う」
千佳が教えると園田が難しい顔をする。視覚が使えず気配だけで素早い敵と戦う事になるのを想像したのだろう。
「それだけじゃないのよ。そのホワイトゴーレムは、邪神眷属だった」
天音が教えると、
「マジかよ」
と天音と千佳の二人以外が声を上げた。
「我々は命拾いしたようです。二人には感謝します」
天音と千佳は笑って感謝の言葉を受け入れた。それから片付けを終えて地上に向かう。来たばかりの冒険者チームは、中ボス部屋で一泊してから帰るそうだ。
地上に戻った二人は、冒険者ギルドへ行って報告した。中ボスが邪神眷属だと知った支部長は驚いていた。そして、B級である二人が邪神眷属を倒したと聞くと、もの凄く感謝する。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
天音と千佳が姉川ダンジョンへ行っていた頃、宇喜多電機の株を買い集めるように頼んだ仲介会社が、変な事を言ってきた。
「宇喜多電機の社長が、持ち株を売りたいと言っているのですか?」
仲介会社の
「そうなんです。それで宇喜多社長を調べました」
宇喜多社長は、父親である前社長が病死したので会社を継いだが、経営者としては最低の人物だったようだ。その宇喜多社長は投機に失敗して多額の借金を作ったらしい。
俺は宇喜多社長の言い値で買うように指示した。
「よろしいのですか? 宇喜多社長は相場の五割増しの値段を要求しているのですよ」
「構いません。それより公開買付けに踏み切りましょう。宇喜多電機を支配できるだけの株が欲しいんです」
そのタイミングで、柴田電機の勝浦社長が宇喜多電機の株を買い集めているという情報が入ってきた。勝浦社長は、励起魔力発電システムの事を知っているので、宇喜多電機に俺が関連していると知って儲かると思ったのだろう。
勝浦社長に儲けさせるのは嫌だったが、早めに宇喜多電機の支配権を手に入れたかったので、あり余る資金を使って宇喜多電機の株を買い集めた。
そして、買い集めた株が過半数を超えた時、俺は宇喜多電機に乗り込んだ。宇喜多電機の応接室で、社長の宇喜多と専務の
「
菅沼専務が尋ねた。
「このままでは、宇喜多電機は倒産するかもしれません。ですが、御社の技術が消えてしまうのは惜しい」
その言葉を聞いた宇喜多社長が、不機嫌そうな顔になる。
「倒産……誰がそんな事を?」
「世間では、そういう噂が流れています。ここ数年の実績が赤字でしたからね」
「それは柴田電機のせいです」
「柴田電機のせいだとしても、赤字の会社はいずれ倒産します」
宇喜多社長が憎しみの籠もった視線を向けてきた。こいつ持ち株を全部売っているくせに、そう思いながら鋭い視線を返す。すると、宇喜多社長が目を逸らした。
「榊さんは、宇喜多電機をどうするつもりなんですか?」
菅沼専務が質問する。
「経営陣の一部を変更して、新しい事業を立ち上げたいと思っています」
「その経営陣の一部というのは?」
「宇喜多社長です。業績不振の責任を取って、退任してもらいます」
「馬鹿を言うな。業績不振は私のせいじゃない」
宇喜多社長が机を叩いて怒鳴る。それを聞いて溜息が出た。社長なのに、業績不振の責任が自分にないとでも言うつもりなのだろうか? 俺は大株主の権限でクビにする事もできると言うと、怒って出ていった。
「これで静かになった。それでは宇喜多電機の将来について話し合いましょう」
俺は菅沼専務に言った。
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