第710話 キングセベクとの戦い

 俺とキングセベクは、高速戦闘による激しい戦いを繰り広げていた。こういう高速戦闘では、視覚から入る情報とD粒子センサーから入る情報を統合して脳内に一つの映像として再構築する【超速視覚】を使っているので、耳から入る情報が抜け落ちてしまう事がある。


 この時も音を正確に判断する事ができず、単なるノイズと化した音を聞きながら戦っていた。だが、キングセベクが口を大きく開けて叫ぶような仕草を見せた時、俺は何か衝撃を受けて気が遠くなった。


 その瞬間、キングセベクが偃月刀を振り上げて飛び掛かってきた。俺はふらつく身体を気力で支えて七重起動の『オーガプッシュ』を発動し、高速回転するオーガプレートをキングセベクに叩き付ける。キングセベクの身体が弾き飛ばされ、五メートルほど宙を飛んで地面に叩き付けられた。


 その間に『アキレウスの指輪』の効果が切れて素早さが元に戻ったようだ。俺は気力を振り絞って『ガイディドブリット』を発動し、キングセベクにロックオンするとD粒子誘導弾を放った。


 立ち上がろうとしていたキングセベクが、D粒子誘導弾に気付いて横に跳んだ。それをD粒子誘導弾が追い掛け、キングセベクの右足に命中し空間振動波を放射。キングセベクの右足首から先が粉々になって消えた。


 絶叫を上げるキングセベクに向かって、俺はオムニスブレードのエナジーブレードを叩き付ける。次の瞬間、神威エナジーの刃がキングセベクの首を切り飛ばし、空中にワニのような頭が舞った。


 キングセベクの死体が光の粒となって消えると同時に、俺の右手の甲に痛みが走った。右手の甲を見ると、鳴神ダンジョンの転送キーに似ているタトゥーが刻み込まれている。


 俺はタトゥーを確認してから、エルモアたちに目を向けた。エルモアたちとセベク戦士の戦いは終盤になっていた。残っているセベク戦士は二匹だけ、その二匹が仕留められるのも時間の問題だろう。


 セベク戦士が全滅すると、エルモアたちが俺のところに駆け寄った。

『あの叫びでダメージを受けたようでしたが、大丈夫ですか?』

「あれは何だったんだ?」

『たぶん超音波のようなもので、攻撃したのだと思います』

 もしかすると、俺の三半規管がダメージを受けて身体がふらついたのかもしれない。


 俺たちはドロップ品を集め始めた。セベク戦士とキングセベクの魔石、そして、小さな宝箱と巻物を回収した。マルチ鑑定ゴーグルで巻物を鑑定すると『キャプチャー』という生活魔法の巻物だった。


 この魔法は対象とするものをD粒子で包み込んで捕縛するという魔法らしい。と言っても、それほどパワーがある魔法ではなく多重起動もできないので、捕縛できるのはオークくらいまでのようだ。


『面白そうな魔法ですね』

 メティスは興味を持ったらしい。弱い魔物の捕縛には使えるだろうが、他にどんな応用が考えられるだろう?


『その宝石箱のような宝箱は、何が入っているのでしょう?』

 俺は宝箱をチェックしてからエルモアに開けさせた。中に入っていたのは、十層までの地図だった。これを見ると、転送ルームの位置が分かる。


 地図を頼りに十層の転送ルームへ行き、タトゥーの転送キーを使って中に入る。そこから一層へ移動し、地上に戻った。


 ダンジョンハウスで着替えた俺は、東京の冒険者ギルド本部へ行って出雲ダンジョンの三層にレヴィアタンが居なかったと報告した。その報告を聞いた慈光寺理事長がホッとしたような表情を見せる。


「理事長は、レヴィアタンが居ない方が良かったのですか?」

「まあ、そうだ。レヴィアタンが日本に居ると分かったら、アメリカの巨獣討伐チームを受け入れる準備をしなければならんから、大変なのだよ」


 報告を終えた俺は、渋紙市へ戻った。そして、ドロップ品の母神スパイダーの糸をバタリオンのメンバーに配って、何に使えるか意見を聞く事にした。三十メートルほどもある糸が数百本もあるので、手袋だけでは使い切れないと思ったのだ。


 『キャプチャー』の巻物を使い、新しい魔法も習得した。賢者システムで調べると魔法レベルが『6』で習得できるようだ。俺の名前で魔法庁に登録しておこう。


 その後、レヴィアタンと戦う事を考え、修業と新魔法開発を始めた。修業は精神的にも鍛えられると分かった『鋼心の技 奥義』に従った訓練を行う。そして、『並列思考のペンダント』を使い熟すための修業も始めた。


 新魔法開発は神威エナジーを使った魔法になる。その他にも手に入れた財宝をどうするかアリサと一緒に考えたが、良いアイデアが浮かばず保留という事になった。


 それに為五郎に渡した『地母神の戦鎚』だが、アリサが天音に貸し出してはどうかと言い出した。天音は自分が作る魔道具の材料を、ダンジョンへ潜って手に入れているそうで、月に何度かダンジョンに潜るらしい。結構深くまで潜るそうなので、金剛棒より強力な武器が必要になっているという。


 天音が思っていたより頻繁にダンジョンに潜っていると聞いて、『地母神の戦鎚』を天音に渡す事にした。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 アメリカの巨獣討伐チームは、魔法庁の管理下から軍の管理下に移された。邪神封印の鍵となるギャラルホルンを奪われた軍が、邪神対策は軍が行うべきだと主張したのだ。


 その主張を聞いたステイシーは、ギャラルホルンを奪われたのに、と思った。だが、本気で邪神の存在を信じる気になった軍は、巨大な組織である軍こそ、邪神対策を行うべきだと強力に主張したらしい。


 世界はD粒子の影響で高度な電子機器を使った兵器が使えなくなり、アメリカ軍を含む各国の軍は弱体化した。その一方、なぜか国家間の争いが減ったので、以前より平和になっている。


 つまりアメリカ軍の仮想敵国が減ったのだ。そのせいで軍への予算が削減された。軍は予算を確保するために、敵を探しているという状況だったようだ。


 巨獣討伐チームが軍の管理下に移った時点で、ステイシーとの関係は切れたのだが、ステイシーが『魔儺』の躬業を手に入れたと知った軍は、ステイシーに協力を求めた。巨獣討伐に使える攻撃魔法を開発してくれと依頼したのである。


 ダンジョン対策本部のオフィスで、ステイシーは溜息を漏らした。

「軍の連中は、勝手すぎる。巨獣討伐チームを取り上げた上に、私にまで協力を要請するとは」


 ステイシー自身も巨獣討伐用の攻撃魔法は考えていたが、もっとじっくりと『魔儺』を研究してから創りたかった。


 『魔儺』の躬業を手に入れたステイシーは、その魔儺を作り出す方法を知った。魔力を加工する事で魔儺を作り出す事ができるのだ。それを賢者システムに取り込む事で魔儺を使った攻撃魔法を創れるようになった。グリムが励魔球を使って励起魔力を生活魔法に取り入れたのと、同じ事ができるようになったのである。


 神威エナジーは魔力やD粒子とは関係のないパワーなので、『神威の宝珠』を使った者しか手に入れられない。だが、励起魔力や魔儺はD粒子や魔力を使って手に入れられるので、汎用性が高いようだ。


 但し、魔儺を使った攻撃魔法は、魔法レベルが高くないと修得できないだろうとステイシーは思った。


 そして、新しい攻撃魔法の開発が進み、第一弾として『ペネトレイトドゥーム』という魔儺を使った攻撃魔法を開発した。これは徹甲魔力弾を発射する『デスショット』を基に魔儺を組み込んだ魔法である。その貫通力は、巨獣にも通用すると考えた。


 その頃になって、巨獣レヴィアタンが消えたという情報が入り、各国に協力を仰いで行方を探したが、見付からなかった。アメリカ軍は、巨獣以外に躬業を手に入れる方法を探し、特級ダンジョンで入手する方法を見付けた。


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