第709話 キングセベク

 間近でレヴィアタンを見た俺は、まだ倒せない相手だと感じた。それは生活魔法の威力や生物としての格の違いを考え、そう思ったのである。


 そのレヴィアタンがこちらに視線を向けた。ブルッと身震いして逃げ始める。急加速して最高速度で島へ向かうと、レヴィアタンが追い掛けてきた。


 その速度は時速七十キロほど、俺の方が少し速い。それでも巨獣に追い掛けられるという状況は、恐怖でしかない。島に到着して砂浜に這い上がると、レヴィアタンは諦めて引き返したようだ。


『レヴィアタンは、海面に浮上しませんでしたね』

「海中以外で、人間と戦う不利を学んだのだろう」

『という事は、ヴェルサイユダンジョンで戦いがあった、という事ですか?』


「そうだと思う」

『レヴィアタンの事を、冒険者ギルドに報告するのですか?』

 その事は悩んでいる。正直に報告すると、アメリカの冒険者が乗り込んできてレヴィアタンと戦うだろう。だが、倒せるだろうか?


「アメリカに、巨獣レヴィアタンが倒せると思うか?」

『難しいと思います』

 俺としてはもう少し修業を行い『神威』を使った魔法を開発してから、レヴィアタンとは戦いたいと思っている。その時間を稼ぐのにレヴィアタンの報告は保留とする事にした。


「取り敢えず、出雲ダンジョンの三層の海には、レヴィアタンは居なかったと報告しておこう」

『レヴィアタンが見付からなかった場合、アメリカはどうするのかが、問題です』


 俺にもアメリカの動きは読めない。アメリカは邪神が脅威だと理解し、その対策を立てようとしている。巨獣討伐も、その一環だというのは分かる。


「アメリカの考えは、俺には分からない。それより、このまま戻るかどうか決めよう」

『そうですね。まず島を調べましょう』


 という事で俺はエルモアと為五郎を影から出し、島を調べ始めた。すると、島の中央にある山に洞穴があるのを発見した。その洞穴を調べるために中に入り、十五分ほど進んだところで分岐点に辿り着いた。


『どちらに行きますか?』

「右に行こう」

 俺たちは分岐点を右に進んだ。そして、小さな部屋に辿り着く。その部屋の壁には秘蹟文字で文章が刻まれていた。それを読んだ俺は、ニヤッと笑う。


「十層の主を倒すと、転送キーが手に入るらしい」

『出雲ダンジョンにも、転送ルームがあったのですか?』

「ああ、一層、五層、十層という感じで転送ルームがあるようだ」


 俺たちは分岐点まで戻り、今度は左に進む。すると、階段を発見した。

『この階段は十層に繋がっているのでしょうか?』

「たぶん、そうだろう」


 俺の予想通り、階段を下りると十層に到着した。十層は石と岩が多い荒野だった。所々に雑草が茂っているが、その数は少ない。俺たちはホバービークルを出して乗り込むと用心しながら進んだ。


 十メートルの高さをゆっくりと飛んでいると、前方にローマ帝国の円形闘技場のような建物が見えてきた。俺はホバービークルを円形闘技場へ向けて飛ばす。


 円形闘技場に到着し、降りたホバービークルを仕舞い入り口を探した。時計回りに回って反対側に入り口を見付けて中を覗く。中には頭がワニで首から下が人間という戦士たちが、隊列を組んでいた。


 マルチ鑑定ゴーグルで調べると『セベク族の戦士』と表示される。そして、隊列の後方に玉座のような豪華な椅子に座る魔物が居た。その魔物を調べると『キングセベク』だと判明し、その魔物が主だと分かった。


「このセベク軍団を倒して、転送キーを手に入れろ、という事なのか?」

『そのようですね』

 剣を持つセベク戦士は、八十匹ほど居る。セベク戦士は数が多いが、その一匹の実力はブルーオーガに相当するようだ。これは心眼で解析した事で判明した。


「セベク戦士とは、素早さを強化して戦うしかないか」

『『オートランチャー』が使えるのでは?』

 セベク軍団はまだ俺たちの存在に気付いていないようなので奇襲できそうだ。指輪や多機能防護服、バリアの準備をしてから、俺は『オートランチャー』を発動した。


 この『オートランチャー』は複数の敵に対して使える魔法だが、発動に時間が掛かるのが弱点だ。そういう点で言うと、励魔球を使う魔法は全て同じ弱点がある。


 D粒子で形成されたグレネードガンのグリップを握ると、俺は闘技場に飛び込んで聖光励起魔力弾を連続で発射する。直径五センチほどで青く輝く聖光励起魔力弾は、音速を超えたスピードでばら撒かれてセベク戦士に命中する。


 命中した聖光励起魔力弾は、爆発してセベク戦士の身体を吹き飛ばす。五十発の聖光励起魔力弾が発射され、その中の六割ほどがセベク戦士に命中した。


 俺が撃ち終わった直後、シャドウパペットたちが敵陣に飛び込んだ。エルモアが魔槍ルインでセベク戦士を串刺しにし、為五郎が戦斧リサナウトでセベク戦士を叩き切り、ネレウスが聖剣エクスカリバーでセベク戦士を切り捨てる。


 エルモアたちが道を作ってくれたので、俺はキングセベクへ向かって進んだ。キングセベクは身長三メートルほどで、手には青龍せいりゅう偃月刀えんげつとうのような武器を持っている。


 その偃月刀を一振りすると、俺に向かって走り出す。そのスピードを見た俺は『アキレウスの指輪』に魔力を流し込み素早さを上げる。俺が高速戦闘モードになったのに気付いたキングセベクが、スピードを上げた。


 俺はエルモアから返してもらったオムニスブレードからエナジーブレードを出し、キングセベクに振り下ろした。空気を切り裂いて迫る神威エナジーの刃をキングセベクが躱す。


 そして、キングセベクがお返しとばかりに偃月刀を薙ぎ払った。後ろに跳んで躱した俺は、七重起動の『パイルショット』を発動して攻撃。それに気付いたキングセベクが横に跳んで避けた。


 俺とキングセベクのスピードは互角のようだ。これ以上素早さを上げる事もできたが、そうすると使える生活魔法が少なくなる。素早さを速くするほど、簡単な生活魔法しか使えなくなるのだ。


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