第706話 財宝部屋

『驚異的な再生能力です』

「それより、今がチャンスだ。総攻撃するぞ」

 俺が『クロスリッパー』、エルモアが『デスクレセント』、為五郎が『クラッシュボールⅡ』、ネレウスが『ホーリークレセント』を使って攻撃する。


 怪我の回復に集中していたキングスコーピオンは、攻撃に気付くのが遅れた。それでも避けようとしたので、『デスクレセント』と『クラッシュボールⅡ』が外れ、俺とネレウスが放ったクロスリッパー弾と聖光分解エッジが命中する。


 聖光分解エッジでキングスコーピオンの尻尾が切り離され、頭に命中したクロスリッパー弾は空間ごと頭を四つに切り分け、キングスコーピオンの息の根を止める。


「あまり手強くはなかったな」

『巨獣と比べているから、そう思うのでしょう』

 キングスコーピオンの肉体が消えるのを見届けてから、エルモアたちにドロップ品を探すように指示する。


 白魔石<大>が発見され、次にエルモアが複雑な形をした鍵を見付けた。それを見た俺は首を傾げる。


「どこの鍵なんだ?」

 砂漠を見渡したが、建物は地下鉄の入り口のようなものしかない。確かめてみるしかないようだ。俺たちは地下鉄の入り口のようなところから入ると階段を下りた。


 長い階段が続いており、その途中に踊り場のような場所があった。そこのドアをネレウスに開けさせる。すると、奥に通路が見えたので先に進むと大きな扉に辿り着いた。


『この扉には鍵穴があります。先ほどの鍵を使うのでは』

「試してみよう」

 俺はドロップ品の鍵を鍵穴に差し込んで回す。キチキチキチッという機械音がして何かの装置が動き出した気配がした。その後、大きな扉が天井に吸い込まれるように消える。扉と一緒に鍵も消えた。何度も使えないという事なのだろう。


『大掛かりな仕掛けですね』

「ダンジョンでは珍しいんじゃないか」

 扉の向こうには階段があり、そこを上ると広い部屋があった。そして、そこには財宝が置かれていた。財宝というのは貴金属のインゴットを積み上げた山である。金だけでも十数トンはありそうだ。


「他に銀やプラチナもある。凄い量だ」

 俺は時間を忘れて財宝を見惚れてしまった。

『グリム先生、貴金属を仕舞って、先に進みましょう』


 メティスの冷静な言葉に、夢から覚めたような気分になる。俺は為五郎に仕舞うように命じた。為五郎に組み込んである巾着袋型マジックバッグは、俺が持っている収納アームレットの四倍ほどの収納容量がある。全部を仕舞えるはずだ。


 為五郎は全ての財宝を巾着袋型マジックバッグに仕舞った。そして、空になった財宝部屋を見て疲れを感じた。


『グリム先生、疲れたという顔をしていますよ。ここで一泊しますか?』

 メティスは俺の表情を見て提案した。階段の途中にある財宝部屋は魔物が入って来ないようなのでセーフティエリアになると考えたようだ。


「そうだな。今日はここに泊まろう」

 俺が野営の荷物を出すとエルモアたちがテキパキと準備する。俺は財宝の使い道を考えていた。あれだけの貴金属を換金すれば、一千億円を超す金額になるだろう。


「だけど、税金があるからな」

 俺は溜息を吐いた。国税・地方税などを考えると憂鬱ゆううつになる。冒険者の中には税金対策のために法人化するものも居るが、実は俺も法人化している。


 まあいい。それよりレヴィアタンを見付けたら、どうするかな? そのまま戦うのは無理だろう。今回は確認するだけにしておくか。


 翌日に目を覚ますと、エルモアたちが見張りをしているのが目に入る。

「おはよう」

『おはようございます』

 それから朝食を食べ、支度をしてから財宝部屋の外へ出た。すると、上から扉が下りてきて閉ざされた。鍵穴に差していた鍵も消えている。


 俺たちは階段を進み六層へ下りた。六層は山岳エリアで緑に覆われた山が連なっていたが、ソルジャーマンティスやブルーオーガが棲み着いているようだ。


「問題は、主だな」

『冒険者ギルドの資料によると、黒竜フェルニゲシュというネームドドラゴンが主であり、このドラゴンは空中戦が得意らしいですね』


「ああ、冒険者が攻撃すると、すぐに飛んで空中からブレス攻撃をするようだ」

 フェルニゲシュの体格は、体長六メートルとドラゴンの中では小柄である。だが、空中での動きが機敏で魔法を命中させるのが、難しいようだ。


「空中戦になるのなら、始めから『フライトスーツ』を使った方がいいのだろうか?」

『『フライトスーツ』は発動に時間が掛かりますから、それがいいかもしれません』


 エルモアたちが影に潜ったので、俺は『フライトスーツ』を発動する。集めたD粒子の一部が励魔球に変化して胸に移動。そして、残ったD粒子が小さな葉っぱのようなフライトリーフに変化し、俺の全身を覆う。


 その瞬間、重力が遮断され身体が軽くなった。俺は六層で一番高い山に目を向ける。フェルニゲシュは最も高い山を棲み家としているらしいので、その山を目指して飛び始めた。


 励魔球から溢れ出る励起魔力が、俺の身体を加速すると、身体を覆っているフライトリーフが締め付けて身体を固定する。短時間で目的の山まで飛ぶと、フェルニゲシュに気付かれたようだ。山頂からフェルニゲシュが飛び立ち、俺に向かって来る姿が見えた。


 最初は小型の竜くらいなら楽勝だろうと考えていた。追尾機能がある『クロスリッパー』や『スキップキャノン』で仕留められるだろうと思ったのだ。


 しかし、自由自在に飛び回るフェルニゲシュは簡単にロックオンさせてくれる相手ではなかった。そこで最も簡単にロックオンできる『ガイディドブリット』のD粒子誘導弾で攻撃する。


 D粒子誘導弾がフェルニゲシュに命中すると、その肉体に直径二十センチほどのクレーターを刻んだ。その痛みでフェルニゲシュが苦しげな叫びを上げる。


 俺はこの調子だと思い、連続で『ガイディドブリット』のD粒子誘導弾をフェルニゲシュに叩き込む。確実にダメージが蓄積しているはずだ。この調子だともう少しで仕留められそうだ。


 俺がフェルニゲシュを追い掛けて飛んでいると、突然フェルニゲシュが長い首を曲げて顔を後ろに向けた。嫌な予感を覚えた俺は、軌道を変えようと考えた。その瞬間、フェルニゲシュが衝撃波のブレスを吐き出す。その衝撃波がフライトリーフで防御していない手に命中し、全身に痺れるようなショックが走る。


 そのショックで一瞬気が遠くなった俺は、落下を始めた。地面に墜落する直前、気が付いた俺は全力で制動を掛けて止まった。


「ふうっ、危なかった」


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