第701話 新しい躬業の宝珠
バハムートは空中でバランスを崩して落下した。地面に叩き付けられたバハムートの口から、また血が吐き出される。それでも致命傷ではなかった。この化け物は想像以上にタフで、驚くべき再生能力を持っているのだ。
レベッカが起き上がり、バハムートに向かって何か魔法を仕掛けた。すると、彼女の前に黒い空間が発生する。
「『ブラックホール』か」
疑似ブラックホールはバハムートへ飛翔。それに気付いたバハムートは起き上がると、青炎ブレスを吐き出す。疑似ブラックホールは、青炎ブレスも呑み込んで吸収する。ブレスが効果がないと分かったバハムートは、巨大な翼を疑似ブラックホールに叩き付けた。
そんな衝撃で弾き飛ばされる疑似ブラックホールではなく、逆に翼を呑み込もうとする。叫び声を上げたバハムートは、無理やり翼を引き抜こうとする。巨体に秘められた信じられないほどのパワーに、自身の翼が耐えられずに引き千切られた。
俺は空中から見ていたが、バハムートに対しては『凄まじい』という言葉しか頭に浮かばなかった。バハムートの上空を旋回しながら見守っていると、疑似ブラックホールが維持できる限界の時間を過ぎて空中に消える。
バハムートがレベッカを睨む。まずいと思った俺は、『クロスリッパー』を発動してロックオンしてからクロスリッパー弾を放った。追尾機能付きなので外れる事はないが、バハムートは長い尻尾でクロスリッパー弾を弾き飛ばそうとした。
尻尾がクロスリッパー弾に命中した瞬間、向きが少しずれて狙った胸には当たらず空間ごとバハムートの尻尾を切り取った。俺は着地して『フライトスーツ』を解除。俺は空中戦より地上戦の方が得意なのだ。空中から攻撃する方が有利な場合があるのは分かっているが、地上で魔法を発動した方が早く命中率が高いのも事実なのである。
追尾機能がある『クロスリッパー』や『スキップキャノン』なら、命中率は考えなくて良いとも思うのだが、バハムートのような大型の魔物なら、どの部位に当てるかまで地上なら制御できそうな気がするのだ。
レベッカがもう一度『サリエルクレセント』を発動し、サリエルブレードを放った。その三日月形の刃を、バハムートが前足で叩き落とそうとする。だが、攻撃魔法の刃はバハムートの手に食い込んだ。バハムートは手が切られるのにも構わず振り切った。
そして、レベッカに向かって青炎ブレスを放つ。バハムートの執念とも思える青い炎が、レベッカの身体を包み込んだ。
しかし、その炎の中でレベッカはバハムートを睨んでいた。レベッカは攻撃魔法の中で最高の防御力がある『ブルーアーマー』を使って身体を守っているようだ。
「まずい」
俺は急いで『スキップキャノン』を発動し、バハムートの胸にロックオンするとスキップ砲弾を放つ。スキップ砲弾はバハムートの百メートル手前で消え、その巨大な胸に飛び込んだ。そして、爆発して内臓を破壊する。
青炎ブレスが途切れ、青い炎の中からレベッカが姿を現す。レベッカは急いで深呼吸をした。やはり炎の中では呼吸ができなかったようだ。
バハムートの方を見るとまだ死んでいなかった。だが、もう一撃加えれば、仕留められそうだ。俺は再び『スキップキャノン』で攻撃した。同時にレベッカが『ドラゴンキラー』を放つ。
ほとんど同時に俺とレベッカの攻撃がバハムートに着弾し、致命傷を与えた。バハムートが地面に倒れ、その巨体が光の粒となって消える。
体内からドクンという音が聞こえ魔法レベルが上がったのを知った。これで『30』になるはずだ。たぶん、悪魔の大公爵アスタロトとバハムートという大物を倒したので、魔法レベルが上がったのだろう。
レベッカがバハムートの魔石を拾い上げた瞬間、俺は
俺の目の前に小さな宝箱があった。そして、レベッカの目の前にも同じような宝箱がある。俺は宝箱を調べてから開けた。すると、中に躬業の宝珠のようなものが入っていた。中に手を入れて取り出す。
レベッカの方を見ると同じような宝珠を手にしている。二人でバハムートを倒したので、躬業を一個ずつという事らしい。そんな事があるのか?
俺はマルチ鑑定ゴーグルを取り出して宝珠を鑑定する。すると、『
「グリム、それは鑑定の魔道具なの?」
レベッカの声がしたので、俺はマルチ鑑定ゴーグルを付けたまま声の方へ視線を向けた。すると、偶然レベッカが持つ宝珠をマルチ鑑定ゴーグルが鑑定した。
結果、それが『
俺は宝珠を仕舞い、マルチ鑑定ゴーグルを外す。
「ええ、そうです」
レベッカの手には鑑定モノクルがあるのに気付いた。鑑定モノクルでは宝珠の鑑定はできないのかもしれない。
「少し貸してくれないか?」
「いいですよ」
俺はマルチ鑑定ゴーグルをレベッカに貸した。それから手に入れた『界理の宝珠』について考え始める。躬業は神の力もしくは権能の一部を取り出したものだが、どれを取り出したかにより、優劣があるように思えた。例えば、神の力を木と仮定すると、『神威』は幹の部分になり、『界理』は枝葉の部分になると思う。
レベッカが宝珠を調べている間、俺は破壊したフェンリルの像を見に行った。像は真っ二つになって地面に転がっているはずなのだが、消えている。残っていたのは像を載せていた台座だけだった。
フェンリルの像は復活するのだろうか? もしかすると、あのバハムートが復活した時に像も復活するのかもしれない。
その時になってエルモアたちとオルランドたちが中ボス部屋に入ってきた。エルモアたちはオルランドたちと一緒に外で待っていたらしい。エルモアたちは俺の影に戻った。
「良かった、無事でしたか」
オルランドが俺たちの無事な姿を見てホッとしたような顔をする。
「ええ、何とか無事に戻りました」
エルモアから事情を聞いたので、俺たちがどこかに飛ばされたのは知っていたらしい。
鑑定が終わったらしいレベッカが、マルチ鑑定ゴーグルを返してきた。
「目的は果たしたわ。戻りましょう」
レベッカの言葉で俺たちは、地上に戻り冒険者ギルドへ向かった。そこで石碑の写真を撮った事を報告し、そのフィルムを支部長に渡す。渡したのはオルランドたちが撮影した分である。
冒険者ギルドは写真を現像してから、研究者に頼んで石碑に刻まれた文字を解読する事になる。神殿文字の研究者も増えているので、時間を掛ければ解読できるだろう。
レベッカが拾った魔石は冒険者ギルドで換金して二人で分けた。その後に話があると言われたので、俺たちは近くのカフェに行く。席に座るとレベッカが話し始めた。
「私のスポンサーの一つは、アメリカなの」
レベッカ自身はイタリア人なのだが、アメリカと組んでいるらしい。
「それがどうしたんですか?」
「アメリカは躬業について、強い興味を持っている。一つでも多くの躬業を集めたいらしいのよ」
『神言の宝珠』をディオメルバに奪われ、あれだけの犠牲者を出す事件が起きた。それで躬業に対する評価が変わったようだ。レベッカは俺が手に入れた躬業の宝珠を売ってくれと頼んだ。もちろん、買うのはアメリカである。
「残念ですが、売るつもりはありません」
「あなたの躬業は、ダンジョン活動に役立つものなの?」
そう質問され、俺は首を傾げた。ダンジョン活動に役立つと判断できなかったからだ。
「たぶん、直接には役立たないと思います」
レベッカが残念そうな顔をする。
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