第628話 ジズのドロップ品

 巨大なジズが海に向かって倒れた。そして、光の粒になって消える。その瞬間、俺の体内でドクンドクンという音がした。魔法レベルが二つ上がって『27』になったようだ。二つも上がるなんて、巨獣は凄いと思う。


 俺は影からエルモア、為五郎、ネレウスを出し、ドロップ品を探させた。当然ネレウスは海中を探してもらう。


 最初に為五郎が瑠璃色るりいろの魔石を見付けて持って来た。瑠璃色というのは青に濃い紫を加えたような色である。その魔石をマルチ鑑定ゴーグルで調べると、『巨獣ジズの魔石』と表示された。ただどんな役に立つのかは分からなかった。


 次にエルモアが水晶球を持って来た。

「まさか、躬業みわざの水晶球か?」

『外見は『神威の宝珠』に似ています。たぶん躬業に関係するものだと思います』

 マルチ鑑定ゴーグルで調べてみると『心眼の宝珠』と表示される。物事の本質を見抜き、先読みの力を持つという説明があった。


「『心眼の宝珠』だそうだ」

『やはり躬業だったのですね。巨獣のドロップ品に相応しいものです』

「これが邪神を倒す方法なんだろうか?」

『邪神を倒すには、心眼も必要だという事だと思います』


 俺はメティスの言葉に頷いた。邪神を倒すためには、その本質を見抜いて先を読んで行動する事が必要なのだろう。


 俺とメティスが話していると、海からネレウスが上がってきた。その手にはヤシの実のようなものと、三十センチほどの細長い懐中電灯のよう形をした棒がある。


 ヤシの実のようなものと変な棒を受け取った俺は、まず変な棒を鑑定した。結果『オムニスブレード』という魔導武器だと分かった。これはダンジョン神が作ったもので、『すべての刃』という意味らしい。


 これは地神級に近い神話級の魔導武器だった。刀身はなく、注ぎ込んだエネルギーが刃を形成する仕組みが組み込まれていた。その刃の長さは三十センチから十二メートルまでに制御できるらしい。何らかのエネルギーさえ用意できれば、万能の武器になる。


 しかも、このオムニスブレードの中にエネルギーを溜め込めるという。それが本当なら、前もって神威エナジーを溜め込んでおけば、いつでもエナジーブレードを使える事になる。


「これは凄いな。たぶん神威エナジーを使って戦うために創ったんじゃないかな」

『エナジーブレードなら、神威刀があります』

「神威刀は、巨大な魔物を倒すにはリーチが短いからな」


 最後にヤシの実のようなものを鑑定した。

「……」

 意外なものすぎて言葉が出ない。

『何だったのですか?』

「初級ダンジョンの種だそうだ」


 エルモアの動きが止まった。制御しているメティスが思考停止してしまったのだ。

『……そんな馬鹿な』

 いつも冷静なメティスが混乱している。自分がなるはずだったダンジョンへ成長する種が、目の前にあるからだろう。この種の中にはメティスと同じ魔導知能が入っているのかもしれない。


 いろいろと考えていると、為五郎が巨大な羽根を持って来た。間違いなくジズの羽根である。確か神薬ネクタンシアの材料だったはずだ。


「お手柄だ」

 俺は為五郎を褒めた。神薬ネクタンシアは、人間をゆっくりと地神にまで進化させるという薬である。何を犠牲にしても、ネクタンシアを手に入れたいと考える人たちが居るらしい。


「メティス、ジズを倒したと正直に報告するべきだろうか?」

 ようやく立ち直ったメティスが、冷静な感じで答えた。

『報告はやめるべきです。ジズと戦って逃げたと報告する事をお勧めします』


「その理由は?」

『『心眼の宝珠』とジズの羽根です。特にジズの羽根は、碌でもない連中の関心を惹くでしょう。第二のパルミロが現れないとも限りません』


 パルミロの名前を聞いて嫌な気分になった。だが、メティスが言う事も理解できる。それにジズを倒した事を知ったアメリカは、邪神を倒す方法がどういうものなのか聞き出そうとするだろう。


 それが『心眼の宝珠』だと分かれば、それを手に入れた俺を仲間に引き入れて利用したいと考えるかもしれない。それは勘弁して欲しいものだ。


「そうだな。倒した事は言わないでおこう」

 報告しない事によるデメリットは、ジズ討伐の実績が冒険者ギルドの記録として残らないという点だけだ。A級ランキングはあまり気にしてないので、それも大したデメリットではない。


 俺は地上に向かった。地上に戻ると冒険者ギルドへ行って、ジズと戦った事を報告する。但し、仕留めた事は言わず、勝負はつかなかったと伝える。一方、シーサーペントを倒した事はきっちり報告した。


 ホテルで一泊してから、翌日渋紙市に戻った。グリーン館の作業部屋に入ると、ソファーの上で横になる。


「疲れたな。でも、大きな収穫はあった」

『『心眼の宝珠』の事ですか?』

「それもあるけど、初級ダンジョンの種が気になっている」

「どういう事でしょう?」

「新グリーン館の敷地に、ダンジョンが出来たら凄いと思わないか?」


 専用のダンジョンを持つバタリオンというのは、世界初だと思う。初級ダンジョンなので手強い魔物は居ないだろうが、新しい魔法を気軽に試せるようになる。


『確かにそうですね。少し気になるのは、グリム先生が初級ダンジョンの種を植えたら、ダンジョンマスターみたいな存在になるのでしょうか?』


 俺も考えてみたが、違うような気がする。

「たぶん違うと思う。ダンジョンマスターは魔導知能の役目だろう。俺は好きなところにダンジョンを作る権利を得ただけだと思う」


 初級ダンジョンの種は後で植えるとして、俺は『心眼の宝珠』を取り出した。

「これを試さなければならない」

『前回は気を失ってしまったので、気を付けてください』

 『神威の宝珠』を使った時は、気を失ったのではなく身体から魂が離れたのだ。幽体離脱みたいな状態で、魂に神威の力が刻まれたのである。今回も同じだろうか?


 俺は影からシャドウパペットたちを出すと、ソファーに座り『心眼の宝珠』に魔力を注ぎ込んだ。そこで意識が途切れ、気付いた時には作業部屋の空間に浮いていた。


 また幽体離脱みたいな現象が起きたらしい。そして、『心眼の宝珠』から心眼に関する膨大な知識が流れ込み、俺の魂に刻まれた。


 心眼とは高次元の存在を見る事ができる眼であり、その眼で見た情報を処理する解析能力のようなものらしい。そして、その解析能力を利用すれば未来予測が可能だという。


 とは言え、可能性が高い予測は数秒先の未来くらいで、年単位の予測は漠然としたものになるようだ。手に入れた心眼で作業部屋の中を見回す。


 すると、作業部屋の中にある様々な物に含まれる大量の情報が意識の中に流れ込んできた。意識が大量の情報に溺れそうになる。だが、この状況には覚えがあった。『霊魂鍛練法』の鍛錬だ。


 俺は『霊魂鍛練法』で魂に構築した解析システムを起動した。心眼がその解析システムを改造し、大量の情報を処理し始める。俺は情報の洪水から抜け出した。


 解析した結果を見てみたが、大したものではない。俺は心眼の機能を止められる事に気付き、停止させる。エルモアたちが俺に話し掛けているようなので魂を身体に戻した。


『しっかりしてください。目を覚まして』

「大丈夫だ。躬業を習得する時は、いつもこうなるらしい」

『そうなのですか。安心しました』


 俺は心眼というのは何なのだろうと考えた。物事の本質を見抜くというのは、鑑定みたいなものかと考えていた。だが、違ったようだ。


 マルチ鑑定ゴーグルは、ダンジョンや魔法に関連する情報や知識を集めた貯蔵庫であるダンジョンアーカイブの情報を検索するだけで、そこにない情報を知る事はできない。


 だが、心眼は一つ一つの存在に刻まれた情報を読み取って解析するものらしい。


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