第629話 初級ダンジョンの種

 心眼が鑑定ゴーグルの代わりになるのではないかと考えたが、鑑定ゴーグルの代わりにはならないようだ。鑑定は魔導武器などの使い方も分かる事があるが、心眼による解析では使い方までは分からないようだ。


 心眼には物の本質を見抜く力がある。だが、その使い方や利用方法は自分で考えねばならないらしい。例えば、ここに一台のガソリンエンジンがあったとする。それを心眼で調べると、ガソリンを燃焼させる事によってピストンを動かし、そのピストンの動きを回転エネルギーに変えるという事を解析して知らせる。


 つまり、心眼はエンジンの構造や仕組み、原理などを見抜くが、それをどう利用するかは教えてくれないのだ。


『その心眼で、天逆鉾や初級ダンジョンの種を調べたら、何が分かるのでしょう』

「調べてみよう」

 まず天逆鉾を解析した。すると、天逆鉾は武器ではないかもしれないという結論に達した。これは魔力を流し込みながら突くと、魔力を特定の波長に調整して相手に流し込むようだ。


 その事をメティスに告げると、メティスも何の意味があるのか分からないと言う。仕方ないので、初級ダンジョンの種を調べる。種には内部に魔導知能が組み込まれていた。そして、これを植える者がダンジョンを何層にするか、どんなエリアにするかを選べる仕組みが組み込まれていると分かった。


 但し、ダンジョン全体の広さが決まっているので、層を多くすると一つの層が狭くなるようだ。

『疲れた顔をしていますね。心眼はそれほど疲れるのですか?』

 俺が疲れた様子を見せたので、メティスが尋ねた。


「慣れないせいだろう。精神的に疲れるみたいだ」

 まだ心眼に慣れないせいで疲れるし、その結果も浅いものになるようだ。初級ダンジョンの種を解析したが、その育て方は分からない。


『育て方が分からないのなら、『知識の巻物』を使ってはどうでしょう』

「しかし、もう少し調べたら分かるかもしれない」

 俺の中で『知識の巻物』を使うのは勿体ないという気持ちがあった。それを見抜いたメティスが質問する。


『『知識の巻物』は、それほど貴重なものでしょうか?』

「どういう意味だ?」

『我々には魔物探査球があります。『知識の巻物』をドロップする魔物の居場所を探して、それを狩る事は難しくないと思うのです』


「なるほど。だから、ためらわずに使えと言うんだな」

 俺は『知識の巻物』を使う事にした。東京にある冒険者ギルド本部の資料室で長い時間を費やして調べても、突き止められるか分からないからだ。


 その日は疲れていたので、翌日になってから『知識の巻物』を使って初級ダンジョンの種の育て方を調べた。その時に出て来た選択肢は、魔力法陣・細胞活性化魔力循環・ダンジョン通信網・励起魔力転換法・ダンジョン育成法というものだった。


 俺はダンジョン育成法を選んで、その知識を得た。すると、天逆鉾が関係する事が分かった。


 天逆鉾は国生みの神話に関係する魔導武器である。天逆鉾に魔力を流し込みながら穴を掘り、そこに初級ダンジョンの種を植えれば良いという。それと植える時に魔力を種に流し込み何層にするかと、どんなエリアにするかを選び、土を被せば良いらしい。


 その他にも育てるのに必要な条件やどういう風に育つかも分かった。この種からは巨木が育つらしい。ジービック魔法学院の巨木ダンジョンのような感じに育つようだ。


『天逆鉾が、初級ダンジョンの種を植える時に使う道具だ、というのは意外です』

「俺もそう思う。しかし、天逆鉾がある一定の波長に調整した魔力を放出するのは、初級ダンジョンの種を発芽させるために必要だからだ、と言うのには驚いた」


 俺が天逆鉾を手に入れたから、ジズのドロップ品として初級ダンジョンの種が出たのかもしれない。


『種については、冒険者ギルドに報告した方がいいのでは?』

「ダンジョンの所有権を主張するためには、事前に報告しておくべきだと言うんだな?」

『そうです』


 事前にダンジョンの所有権を認めさせてから育てた方が良いかもしれない。もし冒険者ギルドや国が認めないなら、種と天逆鉾をセットでオークションに出すと言ってやろう。アメリカなら高値で落札するかもしれない。


 ちなみに、各国のダンジョンの数だが、一番がブラジルで、次がオーストラリア、中国、アメリカ、インドとなっている。領土の面積が広くても寒い地域が多い国は、ダンジョンが少ないようだ。


 但し、ダンジョン産の産物が多いのは、中国、インド、アメリカの順番になる。これは人口が関係しているのだろう。それだけ冒険者が多いという事である。


 俺は冒険者ギルドの慈光寺理事に連絡して会う約束をした。東京へ行き、冒険者ギルド本部へ入る。受付で名前を言うと理事の部屋に案内してくれた。中に入ってソファーに座ると、秘書らしい女性がコーヒーを出してくれた。


「いろいろと活躍しているようだね。A級ランキングが十四位になったと聞いたよ。おめでとう」

「ありがとうございます。ところで特級ダンジョンで手に入れたドロップ品の事で、相談に乗ってください」


 理事が何の事だろうという顔をする。普通ドロップ品は売るか自分で使うかなので、相談するような事はないからだ。


「出雲ダンジョンで、初級ダンジョンの種を手に入れたんです」

 理事が首を傾げた。

「すまん、もう一度言ってくれ」

「だから、初級ダンジョンを発生させる事ができる種を手に入れたんです」


「そんな!」

 驚いた慈光寺理事が、急に立ち上がった。

「落ち着いてください」

 俺が落ち着くように言うと、理事が頷いて座る。

「間違いないのかね?」

 俺は初級ダンジョンの種とマルチ鑑定ゴーグルを取り出し、理事に渡した。理事自身に確かめるように伝える。


 理事はマルチ鑑定ゴーグルを装着して初級ダンジョンの種を鑑定する。

「間違いないようだ。これをどうするつもりなのだね?」

「もちろん、ダンジョンを育てます。そこで所有権が俺にある事を保証して欲しいのです」


「アメリカでは、個人所有のダンジョンというのが存在するが、日本では初めてになる。政府に承認してもらう事になるが、少し時間が掛るかもしれんよ」


「分かりました」

「ところで、その種はどこに植えるのかね?」

「新グリーン館の敷地に、ダンジョンを作ろうと思っています」

 慈光寺理事に相談してから、しばらく経った頃に政府の許可が下りたという連絡があった。そして、初級ダンジョンの種を植えると連絡した日に、慈光寺理事と魔法庁の松本長官、それにアメリカのステイシーがグリーン館へ来た。


 初級ダンジョンの種を植えるところを見学したいのだという。


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