第596話 ゴブリン実験
神剣グラムをマルチ鑑定ゴーグルで調べ直すと、【……】と表示されていた部分が【ダークブレード】となっている。【ブラックブレード】じゃないんだ、と思いながら神剣グラムを仕舞った。
『それじゃあ、一層へ移動しましょう』
「まさか、ゴブリンの実験をするつもりなのか?」
『もちろんです。実験をすれば、何か分かるかもしれません』
あまり気が進まなかったが、メティスは必要な実験だと考えているようなので承知した。
二十層へ戻って、そこの転送ルームから一層へ移動する。俺はエルモアと為五郎を連れてゴブリンを探し始めた。
「ゴブリンを大人しくさせておく必要があるが、どうする?」
『それは魔装魔法使いの方法を採用しましょう』
収納アームレットの中に、野営する時に使うかもしれないと入れておいたロープがあったので、それを取り出して適当な長さに切る。
『私が捕まえます』
俺はロープをエルモアに渡した。しばらく歩くとオークと遭遇する。為五郎が雷鎚『ミョルニル』を投げて一撃で倒す。
為五郎が誇らしそうな顔で振り向いた。俺は苦笑いしてから為五郎を褒める。ゴブリンでなくオークでも実験は可能だったのだが、為五郎に教えるのを忘れていた。
そのまま探していると、三匹のゴブリンと遭遇する。
「一匹だけ生かして、残りは始末してくれ」
為五郎は一気に間合いを詰めると、先頭のゴブリンを右手で張り飛ばす。そのゴブリンは地面に叩き付けられて死んだ。次のゴブリンを蹴り上げると空中に舞い上がり、そのまま光の粒となって消える。
そして、最後に残ったゴブリンにエルモアが襲い掛かった。一瞬で地面に押し倒して縛り上げる。
『実験の準備ができました』
「分かった」
その鮮やかな手並みに驚きながら、励魔術を行い励魔球を作り出した。縛られたゴブリンに近付き励起魔力を、その肉体に流し込む。すると、ゴブリンが苦しそうに暴れ始めた。
「ダメそうだな」
『もう少し続けてみましょう』
メティスがそう言うので、励起魔力を流し込み続けるとゴブリンが変化を始めた。
「もしかして、進化をするのか?」
『進化というと、ハイゴブリンになるのでしょうか?』
どうだろうと思いながら、ゴブリンの様子を観察する。一回り大きくなったゴブリンは、何になるのかと思っていたら、ゴブリンメイヤーになった。
「なぜだ? なぜゴブリンメイヤー?」
『ダンジョンの神秘ですね』
メティスの答えはいい加減なものだった。真剣に考えると馬鹿らしくなる事を、時々ダンジョンはする。そういう時は『ダンジョンだからね』で済ますしかないのだ。
『人間に試したら、進化するのでしょうか?』
「いやいや、人間は進化しないだろう」
『分かりませんよ。人間だって進化して、今の姿になったのですよ』
「それはそうだけど、人間は次の世代が進化するのであって、生きている間に進化なんかしないぞ」
俺はゴブリンメイヤーを始末した。すると、ドロップ品としてマジックポーチが残った。
「ドロップ品を残すようになるんだ」
『となると、マジックポーチが取り放題になりますね』
しかし、このマジックポーチは大量の在庫があるし容量が小さいので、励魔術を使ってゴブリンを進化させてまで回収する気になれない。
レッサードラゴンが残すマジックポーチⅠのように千リットルの容量があれば、積極的に回収しようという気になるのだが。
知りたい事は分かったので、俺は地上に戻った。冒険者ギルドに寄ってからグリーン館に戻って着替えると、作業部屋へ行く。そこにはアリサと姫川が居た。アリサが生活魔法の『ホーリーソード』について教えているようだ。
「お帰りなさい。鳴神ダンジョンはどうでした?」
アリサが俺の顔を見て質問する。まあ、挨拶みたいなものだ。
「あまり変わりはないよ。ただ鳴神ダンジョンの五年ルールがもうすぐなくなると冒険者ギルドで話題になっていた」
鳴神ダンジョンが発見されて、もうすぐ五年が経過する。これで細かい報告の義務はなくなり、各冒険者が発見した情報を秘密にする事も多くなるので、ダンジョンの攻略は遅くなるだろう。
「もう五年……これで鳴神ダンジョンも普通の上級ダンジョンになるのね」
鳴神ダンジョンで有名になったのは、十一層の
俺はそのガラガラで神威の使い方に関する情報を得たが、その後に他の冒険者も守護鬼を倒してガラガラを回したらしい。その結果、かなり豪華なものが出たので有名になったようだ。
聞いたところによれば、後藤もガラガラを回し勇者シュライバーが所有している『カラドボルグ』と同じものを手に入れたらしい。
アリサが『ホーリーソード』に関する説明の続きを始めたので、俺もソファーに座りながら耳を傾ける。ぼんやりと外を見ていると、解体工事中の隣の土地が目に入った。
最近購入した物流センターだった土地は、更地にする作業が進められている。建物は壊され、大きな地下練習場を作る場所は掘り返している。
アリサの講義が終わったようだ。
「明日は、ちょっと遠征しましょうか?」
「どこへです?」
「群馬県の妙義ダンジョンです。あそこでシャドウウルフが発見されたの」
犬好きのアリサは、犬型シャドウパペットを作製するために影魔石を集めたいらしい。
「シャドウパペットの作り方を、教えてもらえるのですか?」
「ええ、習いたいのならいいですよ」
アリサが俺の方へ顔を向けた。
「いいでしょ?」
「構わないけど、邪神眷属には気を付けて」
俺は一言だけ注意した。日本では邪神眷属を一ヶ月に一匹くらいの割合でしか発見していないので、たぶん遭遇しないと思う。ただ遭遇した時に慌てると危険なので注意したのだ。
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