第594話 励起魔力の調査

 『干渉力鍛練法』により干渉力を鍛え上げた俺は、励起魔力という新しいものを得た。但し、それがどういう性質のもので、何ができるのか分からない。


『『知識の巻物』を使って調べますか?』

「いや、もう少し地道に調べよう。調べたら、簡単に分かるかもしれない」

 という事で地道に調べる事にした。


「こういう調べ物は、冒険者ギルド本部の資料室だな」

 それを聞いたアリサが、顔を向ける。

「明日、東京へ行くの?」

「ああ、アリサも行く?」

「一緒に行きたいけど、天音たちと買い物に行く予定なの」

 仕方ない、一人で行く事にしよう。


 翌日、朝から東京へ向かった。冒険者ギルド本部へ到着すると、資料室へ行く。司書に魔力についての資料がないか尋ねると、案内してくれた。


「ここから向こうまでが、魔力についての資料になります」

 調べるには何ヶ月も掛かりそうな分量がある。一人じゃ無理だ。

「済みません。ここでシャドウパペットを出してもいいですか?」


 若い女性の司書は責任者の男性に確認してから、構わないと答えた。俺はエルモアを影から出した。それを見て司書が大きく目を見開く。たぶん小さなペット型のシャドウパペットを想像していたのだろう。


「エルモア、頼む」

『承知いたしました』

 エルモアは書棚から資料の束を抱えてテーブルに運び、立ったまま調べ始める。エルモアの体重は百五十キロなので、椅子に座るとギシギシと音が鳴る事があるのだ。


 壊れたら大変なので、エルモアはほとんど椅子を使わない。但し、グリーン館の椅子は頑丈なのものを揃えているので、大丈夫である。


 俺も資料の束を抱えてテーブルに運び、椅子に座って調べ始める。エルモアは資料を凄いスピードで調べ始めた。エルモアの目は高速戦闘にも対応できる『悪魔の眼』なので、速読の達人並みのスピードで調べられるのだ。


 四時間ほど調べて成果なし。一旦外に出て食事をしてから、戻ってくる事にした。エルモアを影に戻し、資料室を出る。


 近くにあるとんかつ屋で遅い昼食を食べて、冒険者ギルド本部へ戻った。資料室のある上の階へ行こうとした時、訓練場の方から大きな声が聞こえる。


 何だろうと思い、そちらへ行くと魔装魔法使いらしい男と攻撃魔法使いらしい男が言い争いをしているようだ。


「てめえ、魔装魔法使いが役立たずとは、どういう意味だ!」

「本当の事だろ。邪神眷属が出たら、魔装魔法使いは何もできないじゃないか」


 しょうもない事で言い争っているので、一気に興味を失くした。

「ふん、何もできないのは、お前も同じだろ。『ブレーキングイービル』を使えるのかよ」

「知らないんだな。ステイシー長官が『ブレーキングイービル』だけを創って、それで終わりとでも思ったのか。習得できる魔法レベルが『14』の邪神眷属用の攻撃魔法も発表したんだぞ」


 それは知らなかった。ステイシーは着々と邪神眷属用の攻撃魔法を増やしているようだ。口喧嘩で始まったものが、殴り合いの喧嘩になりそうだった。


 殴り合いの喧嘩は面白そうだったので、見てから資料室へ行く事にする。魔法や魔導装備なしで戦う事になった。こういう事は珍しいのだが、年に何回かは起きるのでルールなどが冒険者の間で決められている。


 魔装魔法使いの男が金森、攻撃魔法使いの男が岩屋というらしい。二人とも武道をやっているようだ。金森が夢断流格闘術で、岩屋が青眼流空手という武道らしい。


 夢断流格闘術は有名なので知っているが、青眼流空手というのは初めて聞いた。ちなみに、教えてくれたのは野次馬の一人である。


 魔装魔法使いの金森は背も高く逞しい、一方攻撃魔法使いの岩屋は身体が細いが武道の経験が長いらしい。戦いが始まり、最初に金森が仕掛けた。踏み込んでローキックを放つ。


 岩屋は足を上げて受け流し、上げた足で踏み込んでフックを腹に叩き込んだ。金森は腹筋を締めてパンチに耐えると、お返しとばかりに岩屋の顔にジャブを打ち込む。


 そのジャブを右腕で払った岩屋は、高速の三日月蹴りを金森の腹に叩き込んだ。これは受け止められないと直感した金森は、後ろに跳ぶ。


 金森と岩屋を比較すると、パワーが有るのは魔装魔法使いの金森だが、武道の技術だけなら攻撃魔法使いの岩屋が上回っている。攻撃魔法使いが格闘技や武道に強いというのは珍しい。


 岩屋はフェイントや高度な技を使って金森を攻め立て、追い込んでいく。苦しくなった金森は、魔力を体内で循環させ始めた。何の意味があるのかと考え、脳を活性化させ対応力を上げているのだと気付く。


「そういう使い方があるのか」

 ちょっと感心したが、ルール違反にならないのか気になる。野次馬の一人に聞くと、魔法を使っている訳ではないのでセーフらしい。


 だが、この金森のアイデアも岩屋の技量の前では、悪あがきでしかなかった。岩屋は左手で金森の鳩尾を狙う突きを出す。金森が手で突きを払おうとした時、岩屋の右足の回し蹴りが金森の顔面に叩き込まれた。長い練習により身体に叩き込んだ岩屋の技が決まったのだ。


「魔装魔法使いが、攻撃魔法使いに格闘戦で負けちまった」

 そんな声が聞こえてきた。

『グリム先生、励起魔力を体内に入れて循環させられるものなのでしょうか?』

 その戦いを見ていたメティスが質問した。

「それは危険だな。高圧電流を流すようなものだ」


『それができれば、励起魔力が身体に与える影響を調べられたのですが』

「そんな危険な真似はしないぞ」

『ええ、グリム先生に試してもらおうとは、考えていません。それをゴブリンに試してみたらどうなるでしょう?』


「何か怖い事を考えているんだな。今度試してみよう」

 俺は資料室へ行って、調査の続きを始めた。と言っても、調べた分量としてはエルモアが圧倒的に多い。エルモアは魔法文字と秘蹟文字を学習しているので、ほとんどの資料は読める。


『グリム先生』

 メティスが俺を呼んだ。

「どうした?」

『この資料に、一部の魔導武器において、高密度の魔力が特殊な機能を発動させるためのエネルギー源になる、と書かれています』


「これは励起魔力の事だろうか?」

『そうだとすると、思い当たるものがあります』

「神剣グラムか?」

『ええ、そうです。ただ神剣グラムだけでなく、絶海槍もそうです』


 マルチ鑑定ゴーグルで絶海槍を調べた時、機能のところに【……】という表示があったのだ。これは試してみなければ。


 調査は時間が掛かりそうなので、一時中断してダンジョンで神剣グラムと絶海槍を試す事にした。


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