第589話 上条とグリム

 ラドフォードにディクソンの具合を確認すると、何箇所か骨折しているという。中級治癒魔法薬でも骨折が治るのには時間が掛かる。


 ディクソンをどうやって運ぶか相談した。結局『フロートボックス』を使って運ぶしかないようだ。何とか地上に戻った時には、太陽が赤く輝き始めていた。


 救急車を呼びディクソンを乗せて送り出す。それから報告するために冒険者ギルドへ向かう。冒険者ギルドでは、マクローリン理事が待っていた。


「ディクソン君の姿が見えないようだが、まさか?」

 ラドフォードが苦笑いして報告する。

「ディクソンは、負傷して病院へ送りました」

「そうか、それで首尾しゅびは?」


「討伐は成功です。これは証拠の魔石」

 上条は白と紫のまだら模様の魔石をマクローリン理事に渡した。

「こ、これは素晴らしい。このような魔石は初めて見たよ」


 ドロップ品についての話が出た。神剣グラムについては、ラドフォードとケリーに了解をもらっている。ディクソンには事後報告となるが、命の恩人なのだから、拒否できないだろうとラドフォードが言っていた。


 シャインスピアと宝石は冒険者ギルドが買い取るという。その代金は四人で分配する事になる。シャインスピアは分析魔法使いが詳しく調べると、<邪神の加護>を無効化できると分かった。


 オーストラリアの冒険者ギルドは、シャインスピアを腕利きの魔装魔法使いに使わせて、邪神眷属を倒すつもりらしい。


 ラドフォードやケリーに使わせないのは、二人には引き続き生活魔法のレベル上げをしてもらいたいからだそうだ。報告を終えた上条は、ケアンズのビーチに戻った。


「おっ、戻ってきたな。邪神眷属は倒したのか?」

 日焼けした来栖が確認した。

「当たり前だ。お宝も手に入れたぞ」

「お宝だって? 何を手に入れたんだ?」

「神剣グラムだ」


 来栖が目を見開く。

「そいつは凄え。神話級じゃないか。確かにお宝だ」

 来栖が戦いの様子を聞かせてくれというので、上条はアースドラゴンとの戦いを話して聞かせた。


「邪神眷属用の魔法が必要だな。レベル上げして『ブレーキングイービル』を覚えるかな」

 来栖は『ブレーキングイービル』を習得するには、少し魔法レベルが足りないという。

「まあ、頑張れ」

 上条はバカンスを楽しんでから日本に戻った。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺がグリーン館の窓から外を眺めていると、金剛寺がお客様だと言う。誰かと思ったら上条だった。

「オーストラリアでの活躍は聞きましたよ」


 上条がニヤッと笑う。

「もう少し実績を上げたら、A級になれるかもしれない、と冒険者ギルドから連絡があった」

「凄いじゃないですか」

「やっとだよ。そこで頼みが有るんだが、新しく手に入れた剣について、知っている事を教えて欲しい」


 俺は武器について詳しい訳じゃないので首を傾げたが、その剣というのが神剣グラムだと聞いて納得した。


 その神剣グラムを借りてマルチ鑑定ゴーグルで調べてみた。すると、【封印】【重力強化】【……】という機能が備わっている事が分かった。俺が持っている神剣グラムとほとんど同じだが、俺の神剣グラムには【グラビティストーム】が追加されている。


 【封印】は邪神チィトカアを封印していた機能だろう。そして、【重力強化】は斬った相手の重力を増加させる機能である。この【重力強化】の機能を発動させるには、魔物を斬って一定のダメージを与えなければならない。


 そして、【……】はマルチ鑑定ゴーグルでも調べられない機能だ。使い方が分からないので、謎のままである。


「へえー、その謎の機能というのが、気になるな」

「そうなんですけど、調べる方法さえ分からない」

 俺は神剣グラムについて知っている事を教えた。上条は【重力強化】と岩でも切れるという点が気に入ったようだ。


 上条が今使っている魔斬刀は、魔力を注ぎ込むと切れ味が増すというものだ。岩を切るためには魔力を消費しなければならない。神剣グラムは魔力を必要としないところが良いと言う。


「ところで、邪神についての新しい情報はないか?」

「そうですねぇー、フランスでディオメルバの幹部が一人、逮捕されたそうです」

「へえー、それで何か分かったのか?」


「洗脳されていたので、逆に洗脳して情報を引き出した、と聞きました」

「無茶する。一歩間違えば発狂するだろう」

「賭けだったみたいですが、成功して情報を聞き出したようです」


「それで?」

「ディオメルバの目的は、外なる神の一柱であるハスターを解放して、取引する事のようです」

「取引だって! 何を取引すると言うんだ?」

 上条が興奮して身を乗り出す。


「それは創始者であるピゴロッティしか知らないそうです」

「肝心なところなのに……」

「ただピゴロッティは、ハスターと出会った時に、『不老』という能力と一冊の神書を得たそうです」


「神書というと、神の事が書かれている書物か。何が書かれていたんだろう?」

「想像も付きませんね。それより問題は、ディオメルバがハスターを解放しようとしている点です」


 夕方になったので、上条と食事をしながら邪神とディオメルバの組織について話した。

「邪神を何とかしないと、邪神眷属は生まれ続ける。早く邪神を倒すか封印を強化しないと」


「でも、封印している場所も分からないし、巨獣のベヒモス・レヴィアタン・ジズを合わせたより強い、と言われているんですよ。勝てないですよ」


 上条が盛大に溜息を漏らす。

「そうだな。巨獣の中の一匹さえ、倒すのは難しいからな。そう言えば、なぜハスターの強さを表現する時に、巨獣と比較するのだろう?」


 なぜだろう? ハスターと巨獣には何らかの関係があるのだろうか?

「もしかすると、巨獣を倒すとハスターの事が何か分かるのかもしれないな」

 上条が気になる事を言ったが、理由があって言った訳ではない。そんな気がするという程度なので、気にする必要はない。


 だが、なぜか気になった。そこで巨獣について調べる事にした。


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