第585話 氷神ドラゴンのドロップ品
俺がエルモアたちを影から出すと、由香里たちも執事シャドウパペットを出してドロップ品を探させ始めた。まず目立つ紫魔石<小>が見付かり、それをアリサが拾い上げる。
次に為五郎が一冊の本を発見して、俺のところへ持って来た。マルチ鑑定ゴーグルで調べると、それが生命魔法の魔導書だと分かった。
「凄い、生命魔法の魔導書なんて初めて見ました」
由香里が目を輝かせた。生命魔法は幅広く使われるのだが、その魔法の数は少ない。生命魔法の賢者が魔法を創る時、医学に対する深い知識がないと創れないらしい。
なので、生命魔法の賢者は一年に一個ほど魔法を創れば、良い方だという。賢者の中には数年研究して一個の魔法を創るという者も珍しくないようだ。
という事で、ダンジョンが開発した生命魔法が載っているかもしれない魔導書は、貴重なものだ。これをオークションに出せば、いくらで落札されるか見当もつかない。
「アリサ、これを調べて」
次に千佳が一本の巻物を持って来て、アリサに渡した。アリサが『アイテム・アナライズⅡ』で調べると、西王母が創り出した『仙棍術』の巻物と分かった。
西王母は崑崙山上の天界を統べる母なる女王で、女性の仙人を支配する女神である。その女神が創り出した仙棍術は、修業すると万物の弱点が分かるようになり、その仙棍術の一撃で巨大な魔物を仕留められるようになるらしい。
たぶん仙棍術というのは、ダンジョンが創り出した棍術だろう。かなり怪しい代物だが、中々面白そうだ。魔物の構造を知り尽くしたダンジョンが、弱点が分かるようになるとしているのだから、修業すれば本当に分かるようになるかもしれない。
次にシュンが細剣を発見した。その剣をマルチ鑑定ゴーグルで調べると『アロンダイト』と表示された。ホワイトオーガを倒したA級魔装魔法使いのシンクレアが所有しているものと同じである。
神話級の魔導武器で、アーサー王物語に登場する騎士ランスロットの剣と言われている。その特別な機能は【飛翔突き】である。魔力を込めて突くと、その魔力を対物ライフルに匹敵する威力を持つ徹甲魔力弾として撃ち出し、敵に穴を開けるようだ。
最後にタイチが『マジックストーン』を発動して、指輪を回収した。その指輪をアリサが調べると、『オデュッセウスの指輪』と分かった。素早さを八倍、防御力を三倍にする指輪である。
由香里・天音・タイチ・シュンの四人は、話し合ってドロップ品を分配した。由香里が魔導書、天音が『仙棍術』の巻物、タイチがアロンダイト、シュンが『オデュッセウスの指輪』である。
「それじゃあ、戻ろうか」
俺たちは地上に戻り始めた。地上に出ると着替えて冒険者ギルドへ向かう。由香里たちが疲れた顔でギルドに到着すると、支部長がすぐに会いたいと言うので支部長室へ行く。
近藤支部長は四人だけで氷神ドラゴンを倒したと聞くと、信じられないという顔をする。氷神ドラゴンを倒すには、A級冒険者が四、五人は必要だろうと考えていたからだ。
「グリム君は、本当に戦闘に参加していないのかね?」
「ええ、参加していません」
「しかし、邪神眷属の氷神ドラゴンを、C級の四人だけで仕留めるなんて……」
「この四人は、B級昇級試験を受ける実力がある、と思いませんか?」
「四人で倒したというのが事実なら、確かに資格があると思う」
まだ疑っているようなので、今から見せるものを秘密にするという条件で、アリサが撮影した映像を支部長に見せた。
支部長室にあるテレビで戦いの様子を見た支部長は、納得したように頷く。
「この『プロジェクションバレル』と『アークエンジェルブレス』の組み合わせは、参考になりそうだ」
支部長は『アークエンジェルブレス』と他の魔法との組み合わせで邪神眷属を倒せる可能性に注目したらしい。
「数日前、オーストラリアのダンジョンで、アースドラゴンの邪神眷属が発見された。鳴神ダンジョンの氷神ドラゴンとオーストラリアのアースドラゴンは、倒せるのかどうか、世界が注目していたのだよ」
支部長は氷神ドラゴンが倒されてホッとしているようだ。
「四人のB級昇級試験に関しては、私が責任を持って上に掛け合おう。上も承諾すると思うぞ」
今回の戦いにおいて使用した魔法の中で、魔法庁に登録していないのは、『プロジェクションバレル』だけだった。近藤支部長には秘密にしてくれるように頼んだので、支部長から漏れるという事はないだろう。
登録しようかと思ったが、今登録しても誰も購入しないと分かっている。習得できるほど魔法レベルが高い者が居ないのだ。急いで登録する必要はなさそうである。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
その頃、グリムの友人でもある上条は、仲間と一緒にオーストラリアに居た。オーストラリアに邪神眷属のアースドラゴンが出現したと聞いて倒そうと遠征に来たという事ではなく、バカンスである。
「上条、そんなところで干物作りをしていないで、泳ごうぜ」
砂浜で日光浴をしていた上条に、チームリーダーの
青い海と綺麗なビーチが広がるリゾート地で、サングラスを掛けた上条がムクッと起き上がった。
「誰が干物作りだ」
南半球にあるオーストラリアは、日本と季節が反対になる。十二月から二月が夏になるので、今は真夏である。海では大勢の人々が海水浴を楽しんでいた。
そこに場違いな背広姿の男が姿を現した。
「ミスター・上条ですね」
英語で話し掛けられた上条は、英語で答える。
「そうだけど、私に何か用ですか?」
「はい。オーストラリアの冒険者ギルドを代表して、お願いに来ました」
上条は嫌な予感を覚える。もしかすると、バカンスが中止になるかもしれないという予感だ。
「お願いというのは?」
「ミッチェルダンジョンを知っておられますか?」
「ああ、邪神眷属のアースドラゴンが現れたダンジョンだろ」
嫌な予感が強まるのを上条は感じた。
「あなたに、討伐への参加をお願いしたいのです」
「私はB級冒険者でしかない。オーストラリアにだって、A級冒険者が居るだろう」
「ですが、生活魔法の魔法レベルが高い冒険者は、居ないのです」
彼らは『ホーリークレセント』が使える冒険者を探していたらしい。話を聞いてみると、オーストラリアの生活魔法使いの魔法レベルは、最高が『10』らしい。
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