第584話 ブリザードトルネード
由香里たちのホバーキャノンは、危険を承知で氷神ドラゴンの正面に向かった。背中側が防御力が高いと分かったからだ。
由香里は次弾に『アークエンジェルブレス』を掛けて、磁気発生バレルで攻撃する準備をする。一方、天音はホバーキャノンを操り、氷神ドラゴンの正面に回ると砲撃態勢を取ろうと、磁気発生バレルを敵に向けようとする。
それに気付いた氷神ドラゴンが大きく息を吸い込み大口を開ける。その仕草でブリザードブレスだと分かった天音は、準備していた魔力バリアをホバーキャノンの周りに展開する。
ブリザードブレスが吐き出され、魔力バリアに衝突。魔力バリアは、ブリザードブレスを受け止められる防御力を持っていた。
天音の展開した魔力バリアがブリザードブレスを防いでいる間に、ホバーキャノンは氷神ドラゴンから離れた。ブレスが届かない地点まで離れると、旋回して今度は氷神ドラゴンの脇腹を狙って接近する。
由香里は狙えるぎりぎりの距離で引き金を引いた。黒鉄製砲弾が極超音速で磁気発生バレルから飛び出し、氷神ドラゴンの脇腹に命中する。但し、由香里が狙った場所より外側だった。
白銀色の閃光と爆発が起きて、氷神ドラゴンの脇腹が削れたが、ダメージは大きくない。だが、その痛みは氷神ドラゴンを激怒させたようだ。
氷神ドラゴンが咆哮してホバーキャノンを睨む。
「ヤバイよ。またブレスが来るかも」
「天音、離れよう」
由香里の声で、天音はホバーキャノンを右旋回させる。すると、氷神ドラゴンが脇腹から血を噴き出しながら追って来た。
天音たちのピンチである。その時、タイチが上空から攻撃する。『ホーリークレセント』で氷神ドラゴンの頭を狙ったのだ。タイチが放った聖光分解エッジが、ドラゴンの頭に命中して頭蓋骨まで達した。だが、そこで止まり致命傷にはならなかった。
「頭はダメか。頭蓋骨が頑丈過ぎる」
タイチはそう思ったが、攻撃自体は無駄ではなかった。頭への攻撃の御蔭で、天音たちは逃げる事ができたのだ。
天音たちはホッとしたが、今度はタイチが危ない状況になった。タイチの戦闘ウィングを狙って、氷神ドラゴンがブリザードブレスを放ったのだ。
タイチは左旋回して逃げようとした。だが、執拗にブリザードブレスが追って来て戦闘ウィングの後部を掠めた。その瞬間、魔法が凍りついたように機能を停止し解除された。
タイチは当然落下する。そんな状況になってもタイチは冷静だった。『フラッシュムーブ』を発動して百メートルほど離れたところに移動すると、『エアバッグ』を使って雪原に着地する。
そのタイチに向かって氷神ドラゴンが雪を蹴散らして突進する。それを見たタイチは、なぜか笑う。氷神ドラゴンの背後にシュンが迫っていたのだ。
シュンは『ホーリークレセント』を発動し、聖光分解エッジを氷神ドラゴンの首に叩き込んだ。聖光分解エッジが巨大な首を切り裂き骨に当たって止まる。
首から盛大に血を噴き出して氷神ドラゴンが雪原に倒れた。シュンは迷わず追撃するために氷神ドラゴンを追った。その時、空気を切り裂く音を聞いたシュンは、右に視線を向ける。
大きな柱が自分に向かって迫っているのに気付いた。D粒子ウィングの高度をガクンと落とし、ゆらゆらと揺れながら左旋回する。これはシュンが開発した『旋風落とし』という技だ。
本当は後ろから敵に追われた時の起死回生の技なのだが、今回はこれで助かった。ちなみに大きな柱というのは、氷神ドラゴンの尻尾である。
シュンはヒヤッとしたが、由香里たちとタイチはチャンスだと考えた。タイチと天音が『ホーリークレセント』を発動し、聖光分解エッジを氷神ドラゴンの腹に叩き込む。
二つの聖光分解エッジは氷神ドラゴンの腹を切り裂いて、内臓にまで傷を負わせた。その直後、由香里が磁気発生バレルを氷神ドラゴンの胸に向けて引き金を引く。
極超音速の砲弾が巨大な胸に命中して、そこに大きな穴を開けた。シュンとタイチは、その穴を狙って連続で『ホーリークレセント』を発動し、聖光分解エッジを放つ。
氷神ドラゴンの心臓や肺が切り裂かれ、そのまま死ぬだろうと四人が思った時、氷神ドラゴンが立ち上がった。そして、天を睨むと咆哮を上げた。その咆哮と同時に膨大な魔力が氷神ドラゴンから放出され、その頭上に竜巻が発生する。
単なる竜巻ではなく『ブリザードトルネード』と名付けられそうな凶悪な竜巻だった。四人は自分たちの身体を魔力バリアで包み込んで氷点下二百度ほどのトルネードに耐えた。
由香里は魔力バリアを自力で展開できないので、天音に守ってもらう。そのブリザードトルネードが収まった時、奇跡的に二十二層の雪がやんだ。
氷神ドラゴンを見ると、光の粒となって消えるところだった。その瞬間、由香里の生活魔法の魔法レベルが上がって『13』になり、シュンの魔法レベルも上がって『14』になる。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺は氷神ドラゴンが消えるのを見て、ホッとした。ヒヤリとする場面もあったが、何とか全員無事に生き延びた事だけで嬉しかった。
「皆、おめでとう。よくやった」
俺が四人に声を掛けると、四人は嬉しそうな顔をする。アリサが心配そうな顔で天音と由香里に近付き、怪我はないか確かめる。
「アリサは心配性ね。怪我なんてしてないから大丈夫よ」
「でも、ヒヤッとする事が何度かあったじゃない」
「タイチ君とシュン君が、ちゃんとサポートしてくれたから」
俺は気になった事を尋ねた。
「ところで、誰が氷神ドラゴンにトドメを刺したんだ?」
タイチが手を挙げた。その手の甲には、今までなかったタトゥーがあった。
「僕です。転送ゲートキーもゲットしています」
「グリム先生、これでB級昇級試験を受けられますか?」
「近藤支部長に確認したんだが、たぶん大丈夫だと思う。ただシュンだけは実績が足りないかもしれない、と言われた」
シュンの顔が強張った。それを見た俺は、シュンの肩を叩く。
「心配するな。今日の戦いを見て確信した。十分にB級になる実力があると俺が推薦する。それに君らが倒したのは、邪神眷属の氷神ドラゴンだ。実績は十分だと思う」
氷神ドラゴンが最後に放ったブリザードトルネードも、防いで生き残ったのだ。シュンの実力は十分だ。さて、次はドロップ品探しだ。シャドウパペットたちを出して手伝わせよう。
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