第570話 邪神眷属の影響

 根津は『ホーリーソード』と『ホーリーキャノン』を習得している。相手は邪神眷属と言ってもスケルトンナイトだ。倒すのは難しくないだろう。


 根津が前に進み出てスケルトンナイトと対峙する。根津は本当に邪神眷属かどうかを試す事にした。まず『クラッシュソード』を発動し、空間振動ブレードをスケルトンナイトに叩き付けた。


 空間振動ブレードは<邪神の加護>に拒絶されて消滅。続けて七重起動の『オーガプッシュ』を発動しオーガプレートを叩き付ける。結果は同じだった。オーガプレートが命中した瞬間、オーガプレート自体が消滅する。


「へえー、<邪神の加護>というのは、凄いんだな」

「根津さん、呑気に試している場合じゃないですよ」

 ヒロトの声が聞こえた根津は、分かっているというように手を振って応えた。


 スケルトンナイトが、槍で根津を突こうとした。素早く避けて『ホーリーソード』を発動し、聖光ブレードをスケルトンナイトの頭蓋骨に叩き付ける。


 その一撃がトドメとなってスケルトンナイトは消えた。残ったのは魔石とロングソードだった。持ち帰って、冒険者ギルドで調べてもらう事にした。


 ヒロトが近寄ってきた。

「凄いですね。どんな魔法を使っても、ビクともしなかった邪神眷属が一撃だなんて」

「邪神眷属用に創られた新しい生活魔法だからな」


 根津と魔法学院の生徒たちは、地上に戻り冒険者ギルドへ向かった。邪神眷属の報告をするためである。ギルドに到着して事情を受付で話すと、支部長室へ行くように言われた。


「邪神眷属を発見して、倒してくれたそうだね。よくやってくれた。誰が倒したのかね?」

「僕です」

 根津が返事をすると、納得したように支部長が頷いた。


「さすが、グリム君の弟子だ。しかし、まだ中級ダンジョンだから良かった。これが初級ダンジョンだったら、邪神眷属用の魔法を習得している者は居ないだろうし、死者が出ていたかもしれない」


 支部長が言うように、未熟な冒険者が活動している初級ダンジョンで邪神眷属が出たら、犠牲者が出たかもしれない。


 報告が終わり、根津はドロップ品のロングソードを調べてもらった。武将級の魔導武器で『アンデッドソード』という名前がある剣らしい。これはアンデッドに対して特別な威力を持つという。


 魔導武器のドロップ品は二度目だが、それでも嬉しかった。根津はグリーン館へ戻り、グリムに水月ダンジョンでの出来事を知らせる。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺は根津から話を聞いて、邪神眷属用の生活魔法を増やさなければならないと考えた。本当は<邪神の加護>の大本おおもとである邪神を倒す事ができれば良いのだが、どこに居るのかも分からないし、現在の自分には邪神を倒すだけの実力もない。


「そうだ。魔法学院のヒロトという生徒が、バタリオンに入りたいと言っていましたよ」

「それは嬉しいけど、直接会って話をしてからじゃないと、判断できないな。ここに連れて来てくれないか?」


「分かりました」

 根津がシャワーを浴びに行ったので、俺は食堂で紅茶を飲みながら、初級ダンジョンで活動する冒険者には、どんな邪神眷属用の魔法が良いのか考えた。


「メティス、初級ダンジョンで活動する冒険者でも習得できる魔法レベルというと、どれくらいだろう?」

『そうですね。理想を言えば、魔法レベルが『1』というのが、ベストなのです。しかし、特性一つを増やしただけで、魔法レベルは二つか三つくらい上がりますから』


「そうだよな。『ホーリーソード』でもぎりぎりの線だったからな」

 『ホーリーソード』は『ブレード』より長さを二メートルほど短くする事で魔法レベルを抑えたが、リーチが短くなったので一撃を外した場合の対処が難しくなった。


『『プッシュ』に<聖光>を付与するというのは、どうでしょう?』

「防御用の魔法という事?」

『そうです。それに『コーンアロー』を小型化して、<聖光>を付与するというのも良いと思います』


「小型化すると威力が落ちる。大きさは『コーンアロー』と同じじゃダメなのか?」

 俺も『プッシュ』や『コーンアロー』に<聖光>を付与するというアイデアを考えなかった訳ではない。だが、上級や中級ダンジョンで使うのを想定すると、威力が足りないと思ったのだ。それなのに小型化するのでは、益々威力が落ちる。


『重さが減った分を、スピードでカバーします。その分、素早い魔物には有効です』

「スピードか。でも、貫通力は増すだろうが、大型の魔物を仕留めるのが難しくなる」

 大型の魔物になると、小さな穴が開いたくらいでは死なない魔物も居るのだ。


『これらの魔法は、初級ダンジョンで使う事を想定しています。ゴブリンやオークが相手ですから、十分だと思いますよ』


 それを聞いて納得した。賢者システムを立ち上げ、まず『プッシュ』を基にして<聖光>を組み込む。ぎりぎり魔法レベルが『3』で習得できる魔法が出来上がった。


 次に『コーンアロー』を基にして<聖光>を組み込む。それだけで習得できる魔法レベルが、『4』になった。今回の魔法は、魔法レベルが『3』の冒険者が使う事を想定して創っているので、やはり大きさを小さくする事にした。


 大きさを『コーンアロー』の半分ほどにすると、魔法レベルが『3』にまで下がった。だが、威力がガクッと落ちたようだ。そこでライフル弾くらいまで小さくしてから、スピードを倍に上げる。


 魔法レベルはそのままで、スピードが増し貫通力が強化された魔法となった。メティスがスピードを重要視したのは、リッパーキャットや大蜘蛛などの素早い魔物を仕留めるためにスピードを上げたかったらしい。


 俺は初級の草原ダンジョンへ行って、新しい魔法の威力を確かめる事にした。久しぶりに行った草原ダンジョンには、冒険者の姿がなかった。


「何で若い冒険者の姿が見えないんだ?」

『水月ダンジョンに邪神眷属が現れた事で、警戒しているのではありませんか?』


 初級ダンジョンにも邪神眷属が現れるかもしれないという噂が流れ、対策が打たれるまで、魔法学院などはダンジョンでの実習を中止していると後で知った。


「新しい魔法を登録して、それを習得した生活魔法使いは戻ってくるだろうけど、他の冒険者たちはどうするかだな?」


『ステイシー長官が、低レベルの攻撃魔法を創ると思いますよ。後は魔装魔法使いですが、エミリアン殿が、賢者ジュリアーナ殿が残した資料から、有効な魔法を探り出す事を願うばかりです』


 エミリアンからは、目的の魔法を探し当てたという報せはない。エミリアンがフランスではなく日本に居たら、俺も手伝うのだが。


 そう言えば、日本に付与魔法の賢者が居たという話を聞いた事がある。その賢者は何か残していないのだろうか? ちょっと調べてみようと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る