第564話 サンダードラゴンvsグリム

 光り輝くD粒子で形成された聖光分解エッジが、サンダードラゴンの頭に向かって飛翔する。聖光分解エッジに気付いたサンダードラゴンは、本能で危険を察して立ち上がって避けようとした。


 その動きで聖光分解エッジの狙いが外れ、頭ではなく巨大な翼を切り裂いた。一撃で仕留められなかったのは残念だが、これで得意ではない空中戦は無しである。そう思った時、サンダードラゴンの口が開いた。今度は咆哮ではなさそうだ。


 俺は『マグネティックバリア』を発動しD粒子磁気コアを首に掛けると同時に、乗っている戦闘ウィングを急旋回させた。それを追い掛けるように、サンダードラゴンが口の向きを変える。


 サンダードラゴンの口の周りに稲妻のような放電現象が見えた直後、その口から白い光線のようなブレスが吐き出された。ホワイトブレスと呼ばれるもので、正体は白く発光するプラズマだった。このブレスのせいで、サンダードラゴンは、シャインドラゴンと呼ばれる事もある。


 そのホワイトブレスが戦闘ウィングを掠めた。そのせいで魔法が解除され、身体が宙に投げ出される。俺は『フラッシュムーブ』を二度使って地面に着地した。


「ふうっ。避けられると思ったんだが、空中戦はまだまだか」

 空中機動で躱すより、磁気バリアを展開して防御した方が良かったようだ。気付くとD粒子磁気コアも消えていた。衝撃で『マグネティックバリア』も解除されたらしい。


 ブレスに備えて、『マナバリア』を発動しD粒子マナコアを腰に巻く。サンダードラゴンは口の周りから火花放電を放っている。


 よく見ると口の周りにある髭から火花が飛び散っているようだ。その口がまた開きブレスを吐きそうな仕草に気付いた。俺は魔力バリアをドーム状に展開する。


 その直後、ホワイトブレスが魔力バリアを直撃。俺の周りは白い光で覆われ目を開ける事もできないほどとなったが、そのブレスをバリアは耐えしのいだ。<耐熱>と<耐雷>の特性が付与されているので大丈夫だと思っていたが、こういう場合は不安になる。


 ホワイトブレスが途切れた瞬間、魔力バリアを解除して『ホーリークレセント』を発動し、聖光分解エッジをサンダードラゴンへ放つ。


 動きを止めるためにドラゴンの足を狙い、地面と並行するように放たれた聖光分解エッジを、ドラゴンの巨大な前足が上から叩き潰すようにして砕いた。鋭くなっている刃先を触らずに、横から強烈な力を加えると砕けるらしい。


『魔法を砕かれたのは、初めてですね』

「やはり遅いのが原因か」

『タイミングなどを、工夫する必要が有るのです』


 『アキレウスの指輪』を使って素早さを数倍にすれば、有利に戦えるが、高速戦闘中はレベルの高い魔法を使うのが難しくなる。ならば、『ヘラクレスの指輪』で筋力を数倍に上げれば……と思ったが、練習もなしにぶっつけ本番は危険すぎる。


 俺が迷っている間に、サンダードラゴンが全身を捻って長い尻尾を振り回した。その尻尾が俺を襲う。咄嗟に『カタパルト』を発動し身体を上に放り投げる。


 上空で魔法が解除されると、俺はサンダードラゴンを睨みながら、『ホーリークレセント』を発動し聖光分解エッジをサンダードラゴンの胸に向かって放つ。


 この攻撃を避ける時間がないと判断したサンダードラゴンは、前足で聖光分解エッジを掴もうとした。聖光分解エッジはドラゴンの手に当たり、<邪神の加護>と<聖光>が力比べを始める。それは一瞬で決着し<聖光>が勝ち、三日月形の刃がドラゴンの手に食い込んだ。


 <聖光>は弱まっていたが、今度は<分子分解>の特性が力を発揮して硬いドラゴンの皮を分解して強靭な肉体にめり込む。骨まで切断したところで<聖光>と<分子分解>の特性が力尽き、最後には<斬剛>の力だけで切り裂き力尽き消えた。


 サンダードラゴンが苦痛の叫びを上げた。音の圧力だけで二、三歩後退りするほどのものだ。サンダードラゴンの前足は切り裂かれ使えない状態になっている。チャンスだと思った俺は、『フラッシュムーブ』でドラゴンの足元に飛び込んだ。


 着地した瞬間、ドラゴンの首を目掛けて聖光分解エッジを放つ。俺に気付いたサンダードラゴンが、睨んでホワイトブレスを吐こうとする。その直前に聖光分解エッジが、ドラゴンの首を切り裂いて反対側から飛び出した。


 目の前で巨体が光の粒に変わり消えた。

『お見事でした』

「はあっ、戦っていた時間は短かったけど疲れたよ」

『ドロップ品は、エルモアたちに探させましょう』


 俺は影からエルモアと為五郎を出すと、その場に座り込んだ。ドロップ品は白魔石<中>と剣、それにゴルフボール大の万納粒子の結晶だった。


「いいね。万納粒子はいくらでも欲しかったんだ」

『その剣は、何ですか?』

 俺はマルチ鑑定ゴーグルを取りだすと剣を調べた。すると『光の剣:クルージーン』と表示された。ケルト神話に出てくる半神半人の英雄クー・フーリンが所有した剣らしい。


『邪神眷属のドロップ品が、光の剣というのも不思議ですね。どういう機能が有るのですか?』


「全てのものを切り裂く、破邪の剣だそうだ。邪神眷属にも効きそうだから、エルモアが使えばいい」

 俺はクルージーンをエルモアに渡した。これでエルモアも邪神眷属と戦えるようになる。


 エルモアたちを影に戻し、『ブーメランウィング』を使って転送ルームまで飛び、田所と一緒に地上へ戻った。


 そのまま冒険者ギルドへ行って、サンダードラゴンを倒した事を報告する。その時、厄介事になりそうなニュースを聞いた。


 イタリアで政府高官を対象にして『マインドリサーチ』を使った検査を抜き打ちで行ったところ、五人の洗脳された人物が見付かったようだ。


 それを知った各国政府は、もう一度検査を行う事にしたらしい。バタリオンのメンバーには、『鋼心の技』を習得させているので大丈夫だろうが、問題は精神攻撃を誰が管理しているのかだ。


 そんな危険な魔法は、魔法庁に登録されていない。誰かが魔法陣を管理しているはずなのだ。その人物を見付けて魔法陣を廃棄しない限り、また同じような事が起きるだろう。


 ちなみに、錬金丹を使ったカルローネとランドルは、洗脳が解けて正常に戻ったようだ。但し、ここ一年ほどの記憶が消えたようで、何の情報も得られなかったという。


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