第551話 コカトリスの群れ

 俺たちが走り出したと同時に、コカトリスも気付いたようだ。コカトリスは体高が六メートルほどで胴体と翼がドラゴン、頭と足が雄鶏、尻尾が蛇というキメラである。


 その鶏の頭に付いている眼が、俺たちを睨む。頭の中でチリンチリンと音が聞こえた。精神攻撃が始まったと気付き、『鋼心の技』のスイッチを押す。精神の核の周りに二重障壁が構築された。


「メティス、精神攻撃だ。何か異常はあるか?」

『私の精神も、エルモアの精神にも異常はありません。魔導知能やシャドウパペットの精神には、効き目がないようです』


 前にも確認したが、やはりシャドウパペットには精神攻撃も石化の邪眼も効き目がないようだ。なら、問題は俺だけという事になる。石化の邪眼が効き目を表す前に決着をつけなければ、と思い『クラッシュステルス』を発動しステルス振動弾を放つ。


 ステルス振動弾はコカトリスの胸に向かって飛び、そのまま吸い込まれるようにドラゴンのような胸に叩き付けられた。空間振動波が放射されコカトリスの胸に穴が開く。


 怒り狂ったコカトリスが襲い掛かってくると予想していたが、完全にハズレた。コカトリスは後ろに跳び下がったのである。


『まずいです。仲間を呼ぶかもしれません』

 コカトリスを見ると巨大な鶏の頭が上を向いて鳴き声を上げようとしているように見えた。


「コッ……」

 コカトリスが鳴き声を上げようとした瞬間、為五郎が投げた雷鎚『ミョルニル』がコカトリスを襲い殴り飛ばした。


 くちばしから血を流したコカトリスが、頭を振りながら再び空を向いて鳴き声を上げようとする。

「コケッ……」

 その瞬間、エルモアが投げたブリューナクが稲妻に変化してコカトリスの胴体を掠めた。


 感電したコカトリスはよろっとしたが、立ち直ると鳴き声を上げようとする。俺は『ニーズヘッグソード』を発動し拡張振動ブレードをコカトリスへ向けて振る。それが当たる直前、

「……コーコケギョ」

 とコカトリスが鳴き声を上げる。それは広々とした草原に響き渡った。その直後に拡張振動ブレードがコカトリスの首を刎ね飛ばす。


 ちなみに、その鳴き声を聞いた俺は意外すぎてコケてしまった。

「中途半端な鳴き声を出しやがって」

 その一撃でコカトリスは死に魔石だけが残った。

『先ほどの鳴き声で、コカトリスが集まって来るかもしれません』

「その数が問題だな。手に負えない数だったら、撤退だ」


 何か聞こえた気がして、耳を澄ます。すると、遠くから多数のコカトリスが駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。その方向に目を向けると、十一匹のコカトリスの姿が目に入る。


「ちょっと多いな」

『撤退しますか?』

「……『グラビティストーム』を試してから、結論を出すよ」

 俺は神剣グラムを握り締め、膨大な魔力を注ぎ込み始める。俺が全力で魔力を注ぎ込むと、神剣グラムが唸るような音を響かせ始めた。


 頭上の大気が渦を巻き神剣グラムの真上に集まると、コカトリスの群れに向かって嵐のような暴風を吹き付け始めた。もちろん、コカトリスはそんな風で怯むはずがなく、スピードも落とさずに駆けて来る。


 しかし、その暴風の中に多数のグラビティスフィアが混じるようになると、様子が一変した。グラビティスフィアが暴風雨のようにコカトリスに叩き付けられ、その全身に穴が開き、血を噴き出させたのである。


 その威力は鳴神ダンジョンで試した時の比ではなかった。十一匹のコカトリスは、悲鳴を上げてバタバタと倒れていく。全てのコカトリスが倒れた時、俺は神剣グラムに注ぎ込む魔力を止めた。


『これは……凄まじいですね』

 俺は魔力が尽き掛けていると感じて、不変ボトルを出すと万能回復薬を飲んだ。

「ふうっ。あれ以上の数だったら、魔力が尽きていた」

 『グラビティストーム』の威力は凄まじいが、一回だけの切札のようだ。但し、不変ボトルの万能回復薬が有れば、数回繰り返せるだろう。


 さて、目的のドロップ品を探そう。俺の影に潜んでいるシャドウパペットたちを全て出して、手伝わせる事にした。


 まずは魔石が見付かり、その後に『石化無効の指輪』が発見された。

『この指輪は、バジリスクやコカトリスと戦う場合、切札になりますね』

「そうだな。これが有れば、余裕を持ってバジリスクやコカトリスと戦える」


 次に目的のドロップ品である『知識の巻物』を発見して喜んでいると、エルモアも同じ『知識の巻物』を発見する。貴重な『知識の巻物』を二巻も発見できるなんて、大収穫だ。何でコカトリス狩りが人気にならないんだろう、と一瞬考えたが、答えは簡単だった。


 コカトリスの群れというのは、非常に危険だからである。A級のチームでも全滅するかもしれないレベルなのだ。


『タア坊が何か見付けたようです』

 こちらの方に向かって何かを持ってトコトコで近付いてくるタア坊を見た。その手に持っているのは、アームガードや籠手と呼ばれている防具の一種らしい。


 調べてみると『朱鋼の籠手』と呼ばれるもので、防具としての性能は高いものだった。但し、俺は衝撃吸収服を装備しているので必要なかった。


 俺は拾って来たタア坊を褒めてから収納アームレットに仕舞う。ドロップ品はこれだけのようだ。『知識の巻物』を二巻も手に入れたので、満足して戻る事にする。


 階段のところでトニーと合流し、地上へ戻った。案内の仕事を果たしたトニーには、約束の代金の他に『朱鋼の籠手』をプレゼントした。喜んでくれたようだ。


 日本に戻った俺は、近藤支部長に戻った事を報告する。

「最近、世界中を飛び回っているようだね。いい事だ」

 ランキング上位の冒険者というのは、世界各地を飛び回ってダンジョンを探索するものらしい。


「ところで、何か面白い事はありましたか?」

「面白い事ではないが、アメリカのイリノイ州で、<邪神の加護>を持つレッドオーガが倒された。アメリカは、どうやら<邪神の加護>を持つ魔物を倒す方法を手に入れたらしい」


 それを聞いて光剣クラウ・ソラスを手に入れたのかもしれないと思った。本当に光剣クラウ・ソラスを手に入れたのなら、アメリカの行動力は凄いと感心するしかない。


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