第407話 樹海ダンジョンの巨大ガニ
それから十三層の隅から隅まで調べた。だが、十四層へ下りる階段は見付けられない。封鎖まで残り四日となった日、廃墟の街にある酒蔵を、スケルトンナイトが巡回しているのに気付いた。
その酒蔵は一度調査して、何もなかったのを確認している。なぜスケルトンナイトが警備している?
「もう一度、あの酒蔵を調べてみよう」
『それがいいでしょう。どこかに見落としが有るのかもしれません』
俺とエルモアは酒蔵の扉を開けて中に入った。ここの酒蔵には酒造りに使うのだと思われる大きな発酵槽が並んでいた。中身は空だが、酒造りの道具も残っているので間違いないだろう。
『前回は発酵槽の一部だけ調べましたが、今回は全部を調べましょう』
直径二メートルほどの発酵槽が十二個ほどある。それを一つずつ調べ始めた。七個までは何もなかったが、八個目の発酵槽をチェックすると、底に大きな穴が開いており下に地下道のようなものが見えた。
『私から入ります』
エルモアが先に入った。次に俺も暗視ゴーグルを装着してから入る。地下道はかなり長い。五分ほど歩いても終点に辿り着かなかった。
それから二分ほど歩いたところでスケルトンナイトに遭遇。神剣グラムの一撃で仕留めて進む。やっと終点に辿り着く。そこには大きな扉があり、その扉をエルモアが開けると階段があった。
「やっと階段か。時間が掛かったな」
俺たちは階段を下りて十四層に到達。
十四層は海だった。階段の向こうは海岸で広い砂浜があり、遠くに島がポツポツと見える。砂浜ではカニが波と
但し、そのカニは甲羅の横幅が二メートルほどもある巨大ガニだった。俺がジッと巨大ガニを見ているとメティスの声が聞こえた。
『顔から食欲が滲み出ていますよ』
俺は肩を竦めた。
「ただダンジョンエラーが起こらないかな、と思っただけだよ」
『残念ながら、あのメガクラブは大味で、普通のカニの方が美味しいそうです。カニの魔物で美味しいのは、甲羅幅が八メートルのタイタンクラブです』
という事なので、戦わずに近くの島へ飛ぶ事にする。エルモアを影に入れて、戦闘ウィングで飛び上がる。高度五メートルほどで島に向かって飛んでいると、前方の海から体長五メートルほどのサメのような魔物がジャンプしたので驚いた。
俺を目掛けてジャンプしたようだが、目測を誤ったようだ。ただ低空飛行では危険だと感じて、高度を二十メートルほどに変更する。これならジャンプしても届かないだろう。
島に到着すると、歩いて調査する事にした。エルモアと為五郎を影から出す。
『為五郎は、どういう風に強化するつもりなのですか?』
「そうだな。まず魔力バッテリーを三個ほど組み込んで、魔力消費が大きい『マグネティックバリア』や攻撃魔法が使えるようにしようと考えている」
『為五郎は魔法を使えるでしょうか?』
「メティスが教えれば大丈夫だと思う」
『私が為五郎を制御するという事ですか?』
「ああ、何度か実際に使わせれば、覚えると思うんだ」
魔導吸蔵合金に保管した魔法は使えるのだから、教えれば魔法回路コアCを使った生活魔法や攻撃魔法も使えるようになるだろうと考えていた。
『その他は、どうしますか?』
「十一層のピラミッドで手に入れた魔導コアに関する知識を使って、改良しようかと思っている」
『それは面白いですね。具体的にはどうするのです?』
俺が説明すると、まず蛙型シャドウパペットのゲロンタで試した方が良いとメティスが忠告した。ゲロンタなら、どうなっても良いと思っている訳ではないが、万一失敗したとしても精神的ショックは小さいだろうとメティスが言う。
俺たちが歩いている島の中央には大きな山があり、その周りに海岸線があった。この海岸にも多数のメガクラブが居て、俺たちを見付けると襲ってきた。
俺は神剣グラムを抜いて戦い始める。その戦いにおいても、神剣グラムは凄まじい切れ味を示して、硬い甲羅に覆われたメガクラブを斬り裂いた。
島を半周した時、山の中腹に展望台のようなものが建てられているのに気付いた。エルモアと為五郎を影に潜らせてD粒子ウィングで、その展望台まで飛んだ。
着地して展望台を調べると一メートルほどの石柱があり、その石柱の上部に金庫に組み込まれているようなダイヤルロックがあったのだ。
「これは何だろう?」
円形のツマミであるダイヤルの周りには、魔法文字で数字が書かれている。普通なら右に回したり左に回したりしながらロックを外すのだが、鍵になっている訳ではないようだ。ただ数字を選べるというだけらしい。
俺がダイヤルを『1』に合わせて押すと固定された。
『なぜ『1』なのです?』
「理由はない。何となくだよ」
島を調べたが何も見付からなかった。俺たちは次の島へ向かった。その島にも展望台のようなものがあり、そこにもダイヤルロックのようなものがあった。
訳が分からないままダイヤルを『0』に合わせ固定する。この海には七つの島があり、六つの島には同じようにダイヤルロックがあった。
俺は『1』『0』『9』『6』『0』『3』の順番で数字を選んだ。そして、七つ目の島には山の斜面に大きな扉があり、そこにはダイヤルロックが六つ組み込まれていた。
『六つの島で選んだ数字に合わせて、セットしろという事でしょうね。数字を覚えていますか?』
「もちろんだ。語呂合わせにしたからな」
俺は上から順にダイヤルを合わせる。最後の数字をセットした時、大きな扉が開き始めた。
中に入ろうとした俺は、何かが居るのに気付いて大きく後ろに跳び退いた。簡単に通してくれないようだ。中から出てきたのは、メティスが言っていたタイタンクラブである。
甲羅の幅が八メートルも有るような巨大なカニで、岩を真っ二つにできそうなハサミがあった。俺は連続で『クラッシュボール』を発動して、D粒子振動ボールを巨大ガニ目掛けてばら撒いた。
タイタンクラブは二つのハサミで器用にD粒子振動ボールを弾き飛ばす。軌道を逸らされたD粒子振動ボールは空間振動波を放射しながら、背後に有る山に衝突した。
メティスが影からエルモアを出して、戦いに参加させる。絶海槍をタイタンクラブの巨大な足に叩き付けると、頑丈な足の殻に当たって弾き返された。
絶海槍の攻撃は、大きな威力を発揮する時としない時がある。なぜそうなるのかは、まだ分かっていない。
俺はウォーミングアップを始めて体内を魔力で満たす。その状態で『フラッシュムーブ』で巨大ガニの背中に移動した。甲羅を押し潰すようなイメージを頭に浮かべながら、体内に溜め込んだ魔力を神剣グラムに流し込むと、その刃を甲羅に振り下ろす。
刃が甲羅を断ち切り深い傷を負わせる。その時、神剣グラムから何かの力が甲羅に流れ込む。すると、力が流れ込んだ甲羅に掛かる重力が数十倍となった。
神剣グラムを振り下ろした時に頭に浮かべたイメージは、甲羅の背中部分全体を押し潰すようなものだったので、甲羅の背中部分が重くなったようだ。
そのせいでタイタンクラブの全身を支えていた足がたわんでよろけた。俺は慌てて背中から地面に向かって飛んで、『エアバッグ』を使って着地する。
その直後よろけたタイタンクラブはコロンと転げた。腹を上に向けて転がった巨大ガニは、足をバタバタさせるが元に戻れなくなった。
背中側の甲羅が重くなり過ぎて起き上がれなくなったのだ。俺は七重起動の『ブローアップグレイブ』を発動して上に向いた腹にD粒子グレイブを叩き込んだ。
音速を超えたD粒子グレイブは、巨大ガニの甲羅を切り裂いて潜り込み爆発。巨大な足がピクンと反応した後、地面にバタッと倒れ巨体が消えた。
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