第402話 樹海ダンジョンの五層
「先生、これで魔法レベル15まで上げられるんですよね?」
由香里が確認した。
「ああ、『C+』は魔法レベル20まで、『D+』は魔法レベル15まで上げられるらしい。但し、三倍ほど魔法レベルが上げ難くなるようだ」
「なるほど、『限界突破の実』は魔法レベルを五つ分だけ制限を引き上げるんですね」
アリサが納得したように頷いた。天音が難しい顔をしている。
由香里が天音の顔を見て尋ねた。
「天音、どうしたの?」
「『C+』になって、魔法レベル20まで上げてから、また『限界突破の実』を食べたら、どうなるんです?」
俺は首を傾げた。『限界突破の実』自体が希少なもので、実際に食べた者は少なかったからだ。メティスに確認すると、そんな事をしたという人物の記録はないと言う。
『『才能の実』よりも、『限界突破の実』の方が希少なので、そんな事を試した者は居ないのでしょう』
メティスの言葉を聞いて、天音は頷いた。ただ納得したという顔ではない。アリサが俺の方へ目を向ける。
「この『限界突破の実』は、どこのダンジョンで手に入れたんですか?」
その質問が来る事は予想していた。俺は苦笑いして答える。
「それは教えられないんだ。知りたければ、A級の百位以内になるしかない」
それを聞いたアリサたちが、驚いた顔をする。
その日はアリサたちと一緒に夕食を食べて、楽しくお喋りをして過ごした。
翌日、樹海ダンジョンへ向かう。ダンジョン近くのホテルで一泊してから、次の日の朝早くからダンジョンに潜った。
俺は三層の岩山があるところへ、シャドウオーガ狩りをするために向かう。岩山の近くで乗って来たホバービークルを止め、岩山が連なる地帯をシャドウオーガを探し求めて歩き始める。
俺はエルモアと並んで歩きながら、D粒子センサーの感度を最大にしてシャドウオーガを発見しようと集中していた。五分ほど歩いたところで、D粒子センサーが反応する。
近くの岩山の山頂で何かが動くのを感知したのだ。俺がパッと目を向けると、シャドウオーガが岩を持ち上げて落とそうとしているのが見えた。
そのシャドウオーガにロックオンして『ガイディドブリット』を発動しD粒子誘導弾を放つ。同じタイミングでシャドウオーガが岩を投げ落とした。
「避けろ!」
と叫んだ直後に岩の落下地点から逃げて、岩山を見上げる。D粒子誘導弾が命中したシャドウオーガが、岩山から転げ落ちるのを目にした。
落ちたシャドウオーガは、脇腹に深い傷を負っていた。頭を狙ったD粒子誘導弾が、手で払い落とされた事で脇腹に命中したようだ。
エルモアが絶海槍を握って飛び出し、シャドウオーガの頭を薙ぎ払うように振る。槍の穂先をシャドウオーガが右腕で受け止める。絶海槍から何らかの力が放出され、シャドウオーガの腕が折れ巨体が横に弾かれた。
バランスを崩したシャドウオーガの懐に跳び込んだ俺は、神剣グラムを叩き込んだ。袈裟懸けに振り下ろした神剣グラムの刃がシャドウオーガの胸を斬り裂き、大量の血を噴き出させる。
そこにエルモアが駆け寄り、トドメの突きを放つ。絶海槍の切っ先がシャドウオーガの胸を貫通する。シャドウオーガは影魔石<中>を残して消えた。
俺は影魔石を拾い上げてニコッと笑う。
「この調子でいこう」
それから三日間、シャドウオーガ狩りをして、十八個の影魔石と三百二十キロのシャドウクレイを手に入れた。
『シャドウオーガは狩り尽くしたようですね』
「そうだな。少し休んでから、五層のミカン山へ行ってみよう」
他の冒険者が五層でミカンの木が大量にある山を発見したという報告がされたのだ。そのミカンを持ち帰って調べてみると、美味しいだけではなく皮膚の若返り効果がある成分が含まれているという事が分かった。
『近藤支部長へのお土産にするのがいいかもしれません』
「俺もそう思ったんだ」
皮膚の若返り効果は、頭皮にも有効で、これを食べれば毛が生えてくるという噂が流れている。
早く行かないと取り尽くされてしまう事もあり得るので、俺たちは一層の転送ルームから五層へ移動した。五層の転送ルームから迷路を通って中ボス部屋へ行き、そこから外へ出た。
五層は山岳地帯で、大小様々な山が連なっていた。緑が豊かで多種類の魔物が棲息しているらしい。その中で手強いのが、バンディットウルフである。
体長四メートルほどの狼なのだが、頭に一本の角を持ち、その爪は鉄を引き裂くほどの威力があった。この狼は山の中を素早く移動し獲物に飛び掛かる事ができる。
もう一種脅威となる魔物が居る。体長五十センチほどの鉄のように頑丈な毛を持つネズミである。厄介な事に、このアイアンマウスと呼ばれるネズミは群れで行動する。
数十匹で襲い掛かり冒険者に跳びついて、その肉体を齧り取ろうとするらしい。一、二匹なら問題ない魔物でも数十匹だと対応が難しい。このアイアンマウスに齧られて怪我をする冒険者も居るようだ。
エルモアは影に潜ってもらい、俺はD粒子ウィングで空を飛んでミカン山に向かう。三キロほど飛んだ時、前方で爆発が起きた。
誰かが魔物と戦っているようだ。俺は様子を見に行った。中々激しい戦いのようで何度も爆発音が聞こえた。そして、その爆発音が途絶えて静かになる。
俺は近付いて着陸すると、エルモアを影から出して一緒に探す。冒険者が負傷しているかもしれないと思ったのだ。
周りは爆発でいくつものクレーターが出来ている。そこで魔石を見付けた。冒険者は魔石を拾う余裕がなかったようだ。負傷している可能性が高くなったと思い探す。
痕跡を探して追跡すると洞穴を見付けた。
『この中に居るんでしょうか?』
「探してみよう」
俺とエルモアは洞穴に入った。その時、中から
洞穴の奥に賢者バグワンが身体を横たえ苦しんでいた。両手で喉を押さえ、断末魔のような声を上げ地面で藻掻いている。
「ど、どうしたんです?」
俺はバグワンに近付き介抱しようとした。急いで負傷箇所を探す。だが、怪我をしているようには見えなかった。骨折でもしているのだろうか?
バグワンが上半身を起こし、俺の肩をガシッと掴んだ。
「ま……」
何か言おうとしているので、俺は耳を近付けた。
「……ま、不味い」
意外な言葉を聞いて、脳がストップする。すると、バグワンの傍に空の瓶が転がっているのが目に入る。あれは魔力回復薬GGZの瓶だ。
真実が分かった俺は、思わず脱力した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます