第401話 限界突破の実

 話が終わり、高瀬は六層へ向かった。今回の競争における勝利者も分かったので、俺も地上へ戻る事にしよう。近道は転送ルームから一階へ移動し、地上へ戻るルートだ。


 俺は来た道を引き返す。こういう時はメティスのマップ能力が役に立つ。メティスは一度通った道を忘れず、それを基にマップを作る事ができるのだ。


『バステト神像のところで得たマップ情報というのは、十一層だけのものなんですか?』

「神様は、案外ケチなんだ。気前よく樹海ダンジョン全体のマップ情報をくれれば楽なのに」


 メティスの案内で転送ルームに戻った俺は、転送ゲートで一層へ戻った。一層の転送ルームから外に出ると、そこは小さな滝だった。滝を潜って外に出る。


 一層の見覚えのある山があった。あの山があるのなら、地上へ戻る階段は近くにある。階段まで行き地上へ戻る。樹海ダンジョンを管理している冒険者ギルドへ行くと、支部長に面会を求めた。


 支部長と会える事になり、支部長室へ行くと野崎支部長が待っていた。

「噂は聞いています。グリム先生ですね。報告なら急がなくても良かったのですよ」

 四十代後半だろう女性の支部長だった。


「いえ、樹海ダンジョンの四層で罠を起動させてしまったので、その事だけでも報告しようと思ったのです」


 野崎支部長の顔が厳しいものに変わる。

「罠……それは命に関わる罠でしょうか?」

「ある意味そうです。転送系の罠だったんです」


「それは危険ですね。どこにある罠だったのです?」

「俺とエルモアは、四層の地下通路でドラゴニュート亜種と遭遇して倒し、そこに宝箱が出て来たんです。その宝箱に罠が仕込まれていたのです」


「エルモアさんというのは?」

「シャドウパペットです」

 俺は影からエルモアを出した。それを見て、野崎支部長が目を丸くする。


「申し訳ありません。驚かせてしまいましたか?」

 普段からシャドウパペットの出し入れを当たり前のように行っているので、事前に伝えずに出してしまった。


「構いません。ところで、転送系の罠を起動させたというと、どこに飛ばされたのでしょう?」

「俺とエルモアが飛ばされたのは、十三層の廃墟エリアでした」

 具体的に罠が起動した時の様子を話した。野崎支部長が首を傾げる。


「それはおかしいですね。十三層に飛ばされて。もう戻って来たと言うのですか?」

「罠を起動させる切っ掛けになったコインは、転送ゲートキーだったのです」

「まさか、樹海ダンジョンに転送ゲートが有るのですか?」


 俺は転送ゲートキーのコインを取り出して見せた。

「済みません。少し調べさせてください」

 野崎支部長がコインに向かって『アイテム・アナライズ』を発動する。結果が分かったのだろう。支部長が納得したように頷く。


「なるほど、確かに転送ゲートキーです。十三層からの行動を教えてもらえますか?」

 俺は十三層の廃墟の街でブルーオーガゾンビを倒し十二層の草原エリアへ上がった事を伝える。それから宿無しらしいクィーンスパイダーを倒して階段を見付け十一層の砂漠エリアへ上がったと説明する。


「素晴らしい活躍ですね。十一層は砂漠だと言われましたが、どんな魔物と遭遇したのです?」

「魔物はキラーオストリッチや蒼銀ゴーレムだった。だが、そんな魔物はどうでもいい。少し驚いたのは小さなピラミッドがあった事です」


 ピラミッド自体は探せば、すぐに発見できるものなので隠さなかった。

「そのピラミッドの中に、何かあったのですか?」

「バステト神像がありました。そこでちょっと不思議な事があって、十一層のマップ情報を手に入れたんです」


 野崎支部長が不思議な事というのを具体的に教えて欲しいと言ったが、教えなかった。

「分かりました。冒険者として利益になる事が関連しているのですね?」

「まあ、そういう事です」


 十層に上がって中ボス部屋で中ボスを倒したと言うと、どんな魔物だったか質問される。

「悪魔の王子アメイモンでした。魔法が通用しない魔物でしたが、エルモアと協力して倒し、十層の転送ルームから五層を経由して一層に戻って来たんです」


「途中のマップ情報を提供して頂けますか?」

 俺は承諾した。それらを提供する事で、俺の実績として記録されるからだ。

「但し、転送ゲートキーの持ち主と転送系の罠に掛かったのが、俺だという事は他の冒険者に秘密にしてください」


「隠す必要はないと思いますが、いいでしょう」

 転送系の罠については、他にもあるかもしれないので、情報提供した方が良いと判断した。知らずに他の冒険者が罠に掛かったら、生死に関わる。


 報告を終えた俺は、渋紙市に戻ってアリサたちを呼び出した。屋敷に集まったアリサたちは、いきなり集合させた理由を知りたがる。


「実は遠征していたのだが、そこのダンジョンで『限界突破の実』というものを手に入れた」

 俺が『限界突破の実』について説明すると、千佳と由香里が目を輝かせた。二人とも生活魔法の魔法レベルが限界に達していたからだ。


 俺が千佳と由香里の二人に『限界突破の実』を譲ると言うと二人は顔を見合わせた。

「でも、先生が使った方がいいんじゃないですか?」

 千佳が言った。


「残念ながら、この実の有効期限は三日だ。俺の魔法レベルで限界に達しているものはないから、使う事はできない」


「だったら、私たちが買います」

 千佳と由香里は代価を支払うと言う。その意志は固そうだったので、承諾した。ただ相場が分からない。メティスに尋ねると、昔一千万円ほどで売買された記録が有るらしい。


「安いような気がしますけど」

 アリサが首を傾げる。

『賞味期限が迫っている食材が、安くなるのと同じ理由です』

 一億円出しても欲しいという冒険者も居るだろうが、二日以内に探し出して売るのは難しい。それに身元が確かな者にしか譲りたくなかった。


 結局、由香里と千佳に一千万円で売る事になった。俺は二人に『限界突破の実』を渡した。まず千佳が実を食べた。味は桃に似ているという。


 食べた直後から千佳の体温が上がり苦しそうにしていたが、五分ほどで平熱に戻る。アリサが千佳の才能を調べると、生活魔法の才能が『C』から『C+』に変わっていた。


 その結果を知った由香里が『限界突破の実』を食べて、生活魔法の才能を『D』から『D+』に変えた。


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