第377話 ホバーキャノン

 エルモアを影から出して、一緒に神殿の内部を調査する。

『グリム先生、ここにも秘蹟文字の文章が有ります』

 神殿の壁の一部に文字が刻まれていた。俺は写真を撮ってから、文章を読む。そこには蜘蛛の神『アトラク=ナクア』の従者『灰色の織り手』が封印されていると刻まれていた。


 メティスに文章の内容を伝えると、メティスは黙ったまま考え始める。

「蜘蛛の神……そんな神話があったか?」

 俺は首を傾げた。あの洞穴で倒したアラクネと関係が有るのだろうか?

『『アトラク=ナクア』は、クトゥルフ神話に出て来る架空の神です』


「そんなものまでダンジョンは取り込んでいるのか」

 俺は溜息を吐いた。クトゥルフ神話は、ラヴクラフトを始めとする作家たちが創り上げた創作神話である。そのうち日本の昔話も取り込んで、赤鬼とか青鬼が出て来るかも……と考えた時、レッドオーガとブルーオーガを思い出した。


 いや、オーガは西洋の魔物だ。赤鬼や青鬼とは違うものだろう。それより、灰色の織り手とは何だろう? 蜘蛛の神の従者だから、蜘蛛の化け物なのだろうか?


『それで全部ですか?』

「いや、最後に警告みたいなものがある」

『どういうものですか?』

「邪悪なる神を封印せし剣を抜くべからず、抜いた者は死の報いを受けるであろう。そう刻まれている」


 俺とエルモアは疫病神でも見るような目で、『神剣:グラム』を見た。

「これは絶対神話級の魔導武器だろうな」

『抜きますか?』

「ここまで警告されて抜くような者は、よっぽどの自信家か、アホだな」


『最後の警告は、神剣グラムを抜いたら、封印されている邪神が出て来て殺されるという事でしょうか?』

「たぶん、そうだろう」

『神剣グラムでも倒せない化け物という事ですね』


 そう言われて、神剣グラムは神話級のメジャーではなく、シングルAかダブルAかもしれないと思った。


「この事は冒険者ギルドへ報告して、この剣を抜かないように、徹底してもらわなきゃならないな」


『しかし、神剣グラムでも倒せない邪神の従者とは、どういう化け物なんでしょう?』

「それを確かめるには、剣を抜くしかないけど……そんな馬鹿をやったら、近藤支部長に叱られる」


 俺は地上に戻る事にした。地上に戻った俺は、冒険者ギルドへ行って支部長に報告する。

「なるほど、熊仰山には蜘蛛の神の眷属が封印されているという事か?」

「そうです。あの剣には誰も触れないように、ギルドから警告文を出してください」


 近藤支部長は承知した。警告文が出されると、それを読んだ冒険者たちは神剣グラムの話題に盛り上がる。魔装魔法使いは神剣グラムを欲しがったが、封印されている邪神の存在を恐れ、手を出そうと思う者は現れなかった。


 冒険者たちの間で、神剣グラムに手を出すのなら邪神も倒さなければならないという暗黙のルールが出来上がったからだ。A級の冒険者である長瀬やモンタネールも見物に行っただけで、そのまま引き返した。


 冒険者たちが神剣グラムの話題で盛り上がっている頃、俺は中断していたホバーキャノンの開発を再開していた。


 爆風と衝撃波から砲手を守る盾を作製するために必要な<ベクトル制御><衝撃吸収>の特性を付与した白輝鋼、全体を浮かせるために必要な<ベクトル制御><反発(地)><反発(水)>を付与した蒼銀、それに推進装置とブレーキを作製して工場に渡す。


 推進装置とブレーキは、天音に手伝ってもらい作製した。工場で給弾装置と照準装置が完成し組み立てられ、ホバーキャノンが出来上がる。


 ホバーキャノンは二人乗りの乗り物となった。給弾装置や照準装置、磁気発生バレルを操作する砲手が前方に座り、ホバーキャノンを操る操縦者が後方に座るという形である。


 俺は磁気発生バレルの操作をしないといけないので砲手となり、エルモアを操るメティスが操縦者となる。ホバーキャノンを試すために、鳴神ダンジョンの二層へ行った。


 岩山を標的にして、ホバーキャノンの試射を行う事にする。俺は『プロジェクションバレル』を発動して、磁力発生バレルをホバーキャノンと接続した。


『問題ないようですね』

 磁気発生バレルとの接続部分は、精密に作られている。その御蔭で照準もそれほど誤差がないようになっている。但し、若干の微調整は必要だった。


 俺とエルモアがホバーキャノンに乗り、俺は照準装置を使って大きな岩山に狙いをつけた。引き金を引くと給弾装置が砲弾を磁気発生バレルに押し込む。


 その瞬間、磁気発生バレルの先端から砲弾が極超音速で飛び出した。その反動は接続部分に組み込まれた衝撃吸収装置によって吸収される。これは<衝撃吸収>の特性を使って機能するものだ。


 磁気発生バレルだけの時はバレル自身が反動を吸収していたのだが、完全には吸収できずに照準が狂うという欠点になっていた。


 俺は五連続で砲弾を発射してみた。砲弾が岩山に命中し爆発するたびに山の形が変わる。

『威力は凄まじいとしか言いようがないですね。これで邪神を吹き飛ばせないでしょうか?』

「どうだろう。どんな化け物か分からないからな」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 鳴神ダンジョンの十三層にある神剣グラムの噂は、渋紙市の冒険者が考えていた以上に世界に広まった。そして、その噂を聞いた海外のC級冒険者チームが、渋紙市へ遠征してきた。


「グナワン、本当に神剣グラムを抜くつもりなのか?」

 チームメイトの攻撃魔法使いハルタントが、チームリーダーの魔装魔法使いグナワンに確認する。

「当たり前だ。神話級の魔導武器が簡単に手に入るんだぞ」


 もう一人のチームメイトである魔装魔法使いのシャハブが、納得できないという顔をする。

「簡単じゃないだろ。封印されている邪神と戦う事になるんだぞ」

 グナワンがニヤッと笑う。


「それについては対策を考えている。邪神と戦おうとせず、初めから逃げる事を前提に対策を考えれば、逃げ切れるはずだ」

「そんな簡単に思いつくような対策が有るのなら、何で日本人は神剣グラムを抜かないんだ?」


「日本人は臆病なんだ。邪神が怖いんだよ」

 グナワンは日本人を馬鹿にするように言った。


 グナワンたちは渋紙市に到着し、冒険者ギルドで鳴神ダンジョンで活動する事を報告してから、ホテルで一泊する。そして、翌日に鳴神ダンジョンへ向かった。


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