第364話 バジリスクゾンビと生活魔法

 南禅ダンジョンの一層~十層では、それほど手強い魔物とは遭遇しなかった。なので『心頭滅却』チームが倒してくれた。


「グリム先生が戦った中で一番強かった魔物は、何ですか?」

 チームの中で最年少らしい魔装魔法使いの北川が尋ねた。

「そうですね。シルバーオーガかな」


「ドラゴンも倒していると聞きましたが、ドラゴンじゃないんですね」

「シルバーオーガほど素早い魔物だと、戦いの一挙一動が命取りになるので、神経をすり減らしながら戦う事になるんですよ」


 その答えを聞いたリーダーの熊本が苦笑いする。

「おれたちが年上だからって、丁寧な言葉遣いをする必要はないんですよ。あなたはA級冒険者なんだから」


「俺の弟子とかだったら、そうするけど、同じ冒険者で年上ですから、このままで」

 熊本が肩を竦めると、北川が感心したように頷いた。

「ところで、バジリスクゾンビを倒せる自信が有るんですか?」


「ええ、準備はしてきましたから」

「ん、準備というのは?」

「バジリスクゾンビに通用する武器や魔法を用意したんです」

「へえー、バジリスクゾンビに通用するような生活魔法が有るんですか?」


「俺の奥の手なんで、皆さんには言えませんけど」

「知りたいけど、仕方ないか。僕たちとしては、早くバジリスクゾンビが討伐される事が、一番重要なんで協力しますよ」


 北川たち京都の冒険者は、バジリスクゾンビが十五層に居座っているせいで、それより先の階層へは行けなくなり困っているらしい。


 十層の中ボス部屋で一泊してから、十五層へ向かう。このままバジリスクゾンビのところまで行けそうだ、と考えた時、十三層の森林エリアでメタルコングと遭遇した。


 身長五メートルの金属の鎧を纏ったような巨大ゴリラである。手練揃てだれぞろいの『心頭滅却』チームでも手子摺りそうな相手だ。


「ちょっと時間をください。おれたちで倒します」

「いや、俺が倒します。少しは戦わないと、勘が鈍るからね」

 そう言うとメタルコングに向かって、スタスタと歩き始める。その俺に気付いたメタルコングが吠えながら襲い掛かって来た。


 『クラッシュボール』を連続で発動すると、迫って来るメタルコングに三個のD粒子振動ボールを放つ。


 D粒子振動ボールがメタルコングの胸に命中し、大きな穴を開ける。それが致命傷となって、メタルコングは消えた。


 魔石だけでドロップ品はなかった。

「防御力が高い魔物だったのに、メタルコングを瞬殺ですか。さすがA級ですね」

 北川が感心したように声を上げる。


 それ以降は強力な魔物を俺が倒す事が何度かあったが、順調に進み十五層へ到達。そこは荒野と墓地だけがあるエリアのようである。元々アンデッドが出るエリアらしいが、バジリスクゾンビ以外はほとんど居ない。


「バジリスクゾンビは、ここの中ボスという事じゃないんですよね?」

「ええ、違います。宿無しに分類される魔物だと思います」

 熊本が教えてくれた。


 この上級ダンジョンには転送ゲートがないらしい。バジリスクゾンビを倒しても、転送ゲートキーは手に入らない。だが、以前にバジリスクゾンビが倒された時には、高価な魔導装備と『知識の巻物』がドロップしたと記録に残っているので、期待できそうだ。


 まずは偵察である。このエリアの中ボス部屋の位置を教えてもらう。エリアの奥にある中ボス部屋に下へ行く階段があるらしく、その前にバジリスクゾンビが居る。


 俺たちは岩陰に隠れながら、バジリスクゾンビを観察した。

 全長十五メートルほどの巨大なトカゲだった。頭に王冠のような鶏冠とさかが有り、足からは長く凶悪そうな爪が伸びている。口にはワニのように牙が並んでおり、噛みつかれたら即死だろう。


「あいつのスピードはどれくらいなんです?」

 俺が尋ねると、熊本が教えてくれる。

「およそ時速二十キロというところです。足の速い者なら逃げられます。但し、バジリスクゾンビの体力は無限だと考えた方が良いです」


 魔装魔法使いなら素早さを上げ、攻撃魔法使いなら『フライ』の魔法で逃げられそうだ。俺にはもう一つ確かめたい事があった。


 通常の生活魔法がバジリスクゾンビには効かないのかという事だ。そのためにはバジリスクゾンビを攻撃しなければならない。


「バジリスクゾンビを少し攻撃したいんだが、離れてもらえないか」

「えっ、偵察だけじゃないんですか?」

「本格的には戦わないつもりです。威力偵察という感じかな」


 『心頭滅却』チームが離れると、俺はどの魔法を使うか選択した。『クラッシュボール』『サンダーソード』『トーピードウ』『デスクレセント』の四つを選ぶ。


 『クラッシュボール』と『デスクレセント』は同じ空間振動系の魔法なので被っていると思ったが、威力が桁違いなので試す事にした。


 熊本たちが五百メートルほど離れたのを確かめて、岩陰から飛び出す。『クラッシュボール』『トーピードウ』『デスクレセント』『サンダーソード』の順番で次々に魔法を発動する。


 最後の『サンダーソード』は八十メートルほどまで近付いてからD粒子サンダーソードを放つ。どの魔法もバジリスクゾンビの周囲十五メートルに入ると、形を失い消滅した。


「……ダメか」

 俺に気付いたバジリスクゾンビが走り始めた。その様子はゾッとするほど怖い。特にバジリスクゾンビの爪が岩に当たると、岩が切り裂かれるのを見て恐怖した。慌ててホバービークルを出して乗り込むと逃げ始める。


 バジリスクゾンビが追い駆けてくるが、ホバービークルの方が速いので、次第に距離が開く。熊本たちに追い付いた。


「こいつに乗るんだ」

 俺が指示すると、熊本たちが素早く乗り込む。それを確かめてホバービークルを飛ばす。二キロほど飛ばすと、バジリスクゾンビが追い駆けて来なくなる。


「グリム先生、無茶しないでくださいよ」

 北川が文句を言う。

「普通の生活魔法が通用しないのを、確かめたかったんだ」

 俺の弟子たちがバジリスクゾンビに遭遇した時の事を想定して、確かめたかったのである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る