第365話 バジリスクゾンビとの戦い
俺たちは十四層へ戻り、そこで野営してから出直す事にした。
「ここで野営するんですか?」
十四層で野営すると言うと、北川が驚いた。
熊本が俺に顔を向けて、分かったと言うように頷く。
「明日、バジリスクゾンビと本気で戦うという事ですね?」
「ええ、今日の偵察で、バジリスクゾンビの動きやスピードが分かったので作戦も決まったんです」
十四層は草原エリアである。このエリアは恐竜系の魔物が多く、二足歩行の素早いハンターサウルスや四足歩行のアンキロドンなどが草原をうろついている。
階段の近くで野営の準備を始めた熊本たち。俺は影からエルモアや為五郎、タア坊を出した。それを見た熊本たちは、素早く身構える。
「シャドウパペットですよ」
「そうか。でも、こんなに大きなシャドウパペットは初めて見ました」
北川が羨ましそうな顔をしている。
野営をしながら、明日の戦いについてプランを練った。
翌日起きると、『心頭滅却』チームと一緒に十五層へ行く。階段近くで熊本たちは待機してもらう事にして、俺とエルモアは、中ボス部屋へ向かう。
バジリスクゾンビは、昨日と同じく中ボス部屋の前でうろついていた。
「あいつの横に回り込もう」
『分かりました。『プロジェクションバレル』の命中率は、良いとは言えませんから、横に回り込んだ方が的が大きくなりますね』
バジリスクゾンビが俺に気付く前の一撃目でダメージを与えたい。ただ二百メートルほどの距離からの一撃なので、正確に命中させられるか不安だ。
敵に気付かれないように慎重に近付く。俺の指には『効率倍増の指輪』『韋駄天の指輪』『治療の指輪』『状態異常耐性の指輪』の四つが嵌められ、耳には『気配消しのイヤリング』が付けられている。
その中の『気配消しのイヤリング』が効果を発揮しているはずだ。エルモアは一時的に影の中である。
『プロジェクションバレル』を使うのに絶好の位置に到達。俺はエルモアを影から出して『プロジェクションバレル』を発動する。
磁気発生バレルが形成されると、その先端をバジリスクゾンビの胴体中央に向ける。収納アームレットから安定翼付き砲弾三つと盾を取り出す。
砲弾をセットして磁気を発生させた瞬間、極超音速の砲弾が衝撃波を発生させながら撃ち出された。俺とエルモアは盾を使って衝撃波を防ぎ、結果を確かめる。一発目はバジリスクゾンビの後ろ足の付け根に命中して爆発したようだ。
片方の後ろ足と腰の半分が吹き飛び肉片と骨が飛び散る。普通の魔物なら死ななくとも、動けなくなるはずだが、アンデッドは違った。俺の攻撃だと気付いて、残った足で這い進んでくる。
急いで照準を調整して、次の砲弾を磁気発生バレルに押し込む。二発目は的を外して、地面に着弾して盛大に土砂を舞い上げた。
その舞い上がった土砂の中を、バジリスクゾンビが這い進んで姿を現す。俺の背中に嫌な汗が噴き出し流れ落ちる。
三発目の砲弾を押し込む。衝撃波を発生させて飛翔した砲弾は長い尻尾の付け根に命中して、尻尾と残っていた後ろ足を吹き飛ばした。
これで動けなくなるだろうと予想したが、バジリスクゾンビの異常な行動で裏切られる。
『ダメです。前足だけで這ってきます』
胴体をずりずりと地面に擦り付けながら這いずって来るバジリスクゾンビの姿を見ると、心の中に恐怖が湧き起こる。
すでに遠距離攻撃の間合いではなかった。このまま撃てば爆風で俺まで吹き飛ぶ。その時、魔力を吸われるのを感じた。かなりの勢いで魔力が減少している。
一撃で仕留めなければ、まずい。光剣クラウ・ソラスを取り出して構えると魔力を流し込む。
光剣クラウ・ソラスの二本の剣身の間に、光が生まれ本当の剣身である光の刃『フォトンブレード』が形成される。俺はフォトンブレードをバジリスクゾンビの頭に叩き付けた。
フォトンブレードは聖光で構成されているので、バジリスクゾンビはそのエネルギーを吸収する事ができなかった。やはり聖光とアンデッドは相容れないものだったようだ。
フォトンブレードは一撃で巨大なトカゲの頭を真っ二つにしても勢いが止まらず、地面をも斬り裂く。バジリスクゾンビは頭を真っ二つにされても即死した訳ではなく頭から体当りしてきた。そこに盾を持ったエルモアが飛び込んで頭を受け止める。それは作戦通りの行動だった。
盾に付与されている<衝撃吸収>の特性が効果を発揮して、バジリスクゾンビの突進を止めた。フォトンブレードを地面から引き抜いた俺は、もう一度バジリスクゾンビの頭にある鶏冠に振り下ろす。
王冠のような鶏冠が切り裂かれると、バジリスクゾンビは動きを止め消えた。その瞬間、俺の体内でドクンという音がする。魔法レベルが上がって『21』となったらしい。俺はふらふらとして、地面に座り込んだ。
頭がボーッとして身体に力が入らない。これは魔力が急激に減少した時に出る症状だ。『エナジードレイン』は思っていた以上に強力だったらしい。
不変ボトルを取り出し万能回復薬を飲むと、その効果で頭がはっきりする。エルモアが近寄ってきた。
『大丈夫ですか?』
「ああ、御蔭で助かったよ」
『それではドロップ品を探しましょう』
俺たちはドロップ品を探し始めた。最初に白魔石<小>が見付かり、次に巻物が見付かった。鑑定モノクルを取り出して鑑定する。
「期待していた『知識の巻物』だったよ」
『あの情報は本物だったようですね。おめでとうございます』
倒した時に『知識の巻物』が出たという情報を知ったから、バジリスクゾンビを倒そうと思ったのだ。『知識の巻物』が出なかったら、ガッカリしていただろう。
他にドロップ品がないか探すと、バジリスクゾンビの爪が落ちていた。刃の部分が五十センチほどもある大きな爪である。
「あの岩を切り裂いていた爪だな。武器として使えそうだ」
『ドロップ品は、これで終わりでしょうか?』
「これだけの魔物のドロップ品にしては、しょぼい気がする」
『『マジックストーン』を使ってみてはどうでしょう』
俺が『マジックストーン』を発動すると、指輪が飛んできた。また指輪だ。魔導装備の中で指輪が一番多いと言われているので、仕方ないのかもしれない。
鑑定モノクルで調べてみると『ヘラクレスの指輪』だった。この指輪は筋力を五倍にまで高める効果があるようだ。
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