第263話 アクアドラゴン
俺は屋敷で魔法について考えていた。そこに電話があって冒険者ギルドへ向かう。鳴神ダンジョンにドラゴンが現れたという情報なので、俺はちょっとワクワクしていた。
冒険者ギルドに到着し支部長室へ行き、中に入ると支部長の姿が見えた。その他に後藤と見知らぬ同年代の冒険者の姿が目に入る。
「揃ったな。まずは西條君から紹介しよう。彼は北海道から渋紙市へ来たC級冒険者だ」
俺はその名前に聞き覚えがあった。
「もしかして、最年少でC級になったという冒険者ですか?」
支部長が頷いてから、俺たちB級冒険者二人を紹介した。後藤が支部長に目を向ける。
「鳴神ダンジョンにドラゴンが出現したと聞いたが、間違いないのですか?」
「西條君から報告があった。三層の海中神殿からドラゴンが出てきたそうだ」
俺と後藤は腑に落ちないという顔をする。海中神殿にドラゴンが潜んでいられるような場所はなかった、と知っていたからだ。
「何が切っ掛けでドラゴンが現れたのです?」
俺が質問すると、西條が不機嫌そうな顔になる。
「海中神殿に潜って、宝箱が復活したかどうかを確かめようとした時、プチロドンに襲われた。応戦して大技を出したら、それがプチロドンだけじゃなく、海中神殿へ続くトンネルにも被害を与えたのが切っ掛けになったようだ」
大技がトンネルに命中したのは、状況的に仕方ないだろう。西條は自分の行動が切っ掛けでドラゴンが出現した事に罪悪感はないらしい。
ダンジョンにおいて、危険な魔物が突然現れるという事は珍しい事ではないからだ。問題なのは出現した事を冒険者ギルドへ報告せずに、犠牲者を出す事なのである。
それより気になるのは海中でも大きな威力を出せる魔導武器を所有しているという点だ。
俺の生活魔法のレパートリーの中にはないものである。海中で戦うなど考えた事もなかったので、そんな魔法が必要だとは思わなかった。
そんな事を考えていると後藤の声が聞こえた。
「まさか、スキューバダイビングの装備で潜った訳じゃないんだろう?」
「僕が発見した『ダイビング』という魔装魔法を使ったのですよ」
俺は鋭い視線を西條に向けた。巻物や魔導書から魔法を手に入れたのか、それが気になったのである。そうすると西條が睨み返した。
「そのドラゴンは、どんな特徴があったのです?」
西條の説明を聞いて、アクアドラゴンだと分かった。水刃ブレスを吐くと聞いて、それが単なる高圧で水を吹き出しているだけではなく、魔力を水に注ぎ込んで水を操作しているのではないかと推測する。
近藤支部長が俺と後藤を呼んだ理由を話し始めた。
「二人には、現在鳴神ダンジョンに潜っている冒険者たちに、アクアドラゴンの事を知らせて欲しいのだ。グリム君には、三層へ行ってもらい二層から三層への階段と四層から三層への階段のところに、危険を知らせる警告板を立てて欲しい」
後藤には三層より下に居る冒険者たちを五層の転送ゲートから一層へ転送して欲しいと支部長が頼んだ。
「そうすると、私が転送ゲートキーを持っている事がバレるじゃないか?」
後藤が抗議すると、支部長がジト目で後藤を見る。
「後藤君のチームは、五番街の飲み屋でハメを外して、女の子たちに転送ゲートキーを持っているんだぞ、と自慢したそうじゃないか」
後藤が気まずそうな顔をする。
「俺がバラした訳じゃない。白木が酒を飲むと自慢する癖が有るんだ」
支部長が溜息を漏らした。
「御蔭で、渋紙市の冒険者で転送ゲートキーの持ち主が誰か知らない者は居ないくらいだよ」
支部長と俺たちは細かい打ち合わせをしてから、必要な警告板などを渡された。
「時間がない。急いでくれ」
俺と後藤は鳴神ダンジョンへ向かう。西條は転送ゲートを見たいというので、後藤と一緒に行く事にしたようだ。
俺は鳴神ダンジョンに到着すると、一層から三層まで戦闘ウィングで飛んだ。三層の入り口に到着して、その入り口にアクアドラゴンが出現した事を知らせる警告板を立てた。この警告板はダンジョンに呑み込まれないように特殊な処理を施されているらしい。
警告板を立てた俺は、戦闘ウィングを出して海の上を飛び始めた。海中神殿の真上を飛んだ時、アクアドラゴンが海面に姿を現した。
その全長は十数メートルほどでマッコウクジラに匹敵する大きさだ。その巨体は青が混じった灰色で、アースドラゴンより大きめの鱗が頑丈そうである。
アクアドラゴンが上空を通過する俺を目掛けて水刃ブレスを吐き出した。俺は急旋回してブレスを避け、反撃のセブンスショットガンを発動する。
三十本の小型爆轟パイルが高速で飛翔し五本がアクアドラゴンに命中する。しかし、頑丈そうな鱗を貫通する事はできず、その表面で爆発。<爆轟>により超音速で拡散したD粒子がアクアドラゴンの鱗を突き破り血を流させる。
だが、アクアドラゴンに与えた傷は浅かった。硬い鱗を突き破るためにエネルギーのほとんどを使ってしまったようだ。
アクアドラゴンは全身のほとんどを海中に沈め、口だけ海面から出して水刃ブレスを連続で吐き出し始めた。
俺は必死で避けながら、『バーニングショット』や『ライトニングショット』を使って攻撃したが、相手が海中だと命中させる事が難しかった。
『グリム先生、本来の目的を忘れています』
メティスに注意されて、アクアドラゴンから離れた。もう少し戦ってアクアドラゴンの戦い方を知りたかったが、今日は時間がない。
俺は四層へ下りる階段の所へ行って、警告板を立てた。
「何だ、それは?」
階段から声が聞こえた。C級冒険者の石橋のチームだ。
「あっ、石橋さん。ギルドからの警告です。三層の海にアクアドラゴンが現れました」
「はあっ、マジかよ」
山紫水明チームの一人が大声を上げた。
俺は海中神殿からアクアドラゴンが現れた事を説明して、戻りは五層の転送ゲートから一層へ転送するように言った。
「転送ゲートキーはどうするんだ?」
「五層には、後藤さんが待機しています」
石橋が笑った。山紫水明チームのメンバーも笑っている。
「桃色クラブのさとみちゃんから聞いた話は本当だったのか。白木は禁酒だな」
酒を飲んだ白木が自慢して喋ったというのは本当だったらしい。
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