第255話 魔力バッテリー

 翌日、俺とメティスは本当に人型シャドウパペットが作れるか、試してみる事にした。十キロほどのシャドウクレイとダークリザードマンの影魔石を使って、人型シャドウパペットの試作を始める。


 まずは人間と同じ形のシャドウパペットを作り、ダークリザードマンの魔導コアを組み込んで動かしてみた。動かしたのはメティスだが、どうやら扱いが難しいようだ。


『やはり尻尾がないと動きが不自然になります。尻尾の存在も考慮した動きが、基本動作として魔導コアにインプットされているようです』


「すると、尻尾は必須という事か。仕方ない、次のシャドウパペットはダークリザードマンの姿形を忠実に真似たもので試してみよう」


 作ったシャドウパペットを破壊して、小型のダークリザードマンを作製する。これは問題なく動いた。だが、何だか満足できない。


 そこで、どれだけ人間に近付けられるか試してみる事にした。それから腕の長さや頭の大きさなどを少しずつ変えたバージョンで実験してみる。


 動きを阻害しない範囲で人間に近付けたバージョンが完成した。尻尾が有る小人という感じのシャドウパペットは器用に手を動かして、本のページをめくる。


 人型の基本的な形は決まった。メティスに顔はどうするか尋ねると、どうでも良いと言う。メティスにとって顔など判別できればいいのだろう。


 この新しいシャドウパペットにトリシューラ<偽>を使わせてみた。小さいので三叉槍に振り回されるような感じだが、何とか使えるようだ。


 庭に積んだ土嚢に槍を突き刺す事はできた。その時、トリシューラ<偽>の機能が発動した。衝撃波が放たれ、爆発したように土嚢から土が撒き散らかされたのだ。


『トリシューラ<偽>を使うには、もっと魔力の蓄積が必要だと思います』

 シャドウパペットに蓄えられる魔力が少ないらしい。

「どうする? 魔石リアクターを組み込むか?」


『しかし、私も魔石リアクターを使っています』

 メティスは魔石リアクターから放出される純粋な魔力を補給して動力源としている。シャドウパペットに使われると困るのだ。


「そうだった。なら、赤魔石を魔力バッテリーに加工して組み込もう」

 魔力はシャドウパペットに含まれているD粒子から放出される。シャドウパペットは放出された魔力を効率よく蓄積できないらしい。


 大容量の魔力バッテリーを作るには赤魔石<大>が必要である。手持ちに赤魔石<大>がない事を思い出した。

「赤魔石を換金したのは失敗だったな。ワイバーン狩りに行くしかないか」


 人型シャドウパペットがトリシューラ<偽>を使えるようになれば、ダンジョンで大きな戦力となる。その戦力アップを考慮すれば、A級冒険者の長瀬と競う事になっても勝てるかもしれない。


 俺は外に出る支度をして、冒険者ギルドへ向かった。鳴神ダンジョンの状況をチェックしようと思ったのだ。


 冒険者ギルドの資料室で鳴神ダンジョンの新情報を探すと、八層へ下りる階段が発見された事が書かれていた。発見者は後藤のチームである。


「A級に上がるのは、後藤さんになるかもしれないな」

 確実に実績を積み上げている後藤に、俺は感心した。

『ワイバーンを倒した後に、八層を確かめますか?』


 メティスの提案に、俺は首を振った。赤魔石<大>を手に入れたら、魔導工房に魔力バッテリーに加工する依頼を出したかったのだ。


 ワイバーンが巣食っている二層では、新しい発見はなかった。俺は冒険者ギルドを出て、屋敷に戻ると手早く食事やシャワーを済ませて寝た。


 翌日朝早くから鳴神ダンジョンへ行く。まず二層の回復の泉に行って万能回復薬を補給した。それからワイバーンが巣食っている場所へ向かう。


 ワイバーン狩りをしているチームは居ないようだ。ワイバーンの巣は全て発見されたようで、巣にある宝箱のお宝を期待できなくなったからだろう。


 運が良いのか悪いのか、俺が一人でワイバーンを探していると、ワイバーンが俺を発見して近付いてきた。しかも三匹同時にである。


 一匹が急降下して俺に襲い掛かった。ワイバーンは口を開けて、魔法を使おうとする。俺はセブンスショットガンを発動し、三十本の小型爆轟パイルを打ち上げた。


 ワイバーンが魔法を発動した直後に、小型爆轟パイルが命中してワイバーンに大きなダメージを与えた。一方、ワイバーンが放った圧縮された空気の塊は、俺を目掛けて降り注いだ。


 咄嗟に五重起動の『プロテクシールド』を発動してD粒子堅牢シールドを頭上に展開してワイバーンの魔法を受け止めた。


 D粒子堅牢シールドがワイバーンの魔法に耐えきった直後、そのワイバーンが落下してきた。地面に激突して苦しそうに藻掻くワイバーンにセブンスパイルショットでトドメを刺す。


 それを見ていた残りの二匹は用心して不用意に近付かないようになった。俺はワイバーンが残した赤魔石<大>を回収してから、『ブーメランウィング』を発動し戦闘ウィングを出した。


 戦闘ウィングに乗った俺は、上空を旋回するワイバーンを追って飛び上がる。自由自在に飛び回りながら魔法を撃ち合う空中戦が始まった。


 俺に向かってワイバーンが魔法を放った。圧縮された空気が槍のように突き出され、戦闘ウィングを撃墜しようとする。


『後方から、圧縮空気弾が来ます』

 メティスの警報を聞きながら、右旋回して強烈な横ジーに耐える。ワイバーンの魔法を躱してから、その後に回り込んだ俺は、速度を上げて横に並ぶ。


 横に並ばれたワイバーンが鳴き声を上げた。それに向かってセブンスショットガンを放つ。ワイバーンに命中した小型爆轟パイルが爆発し猛々しい翼竜が鳴き声を上げて落下していく。


『最後の一匹は後です』

 メティスが教えてくれた。後を振り返ると真後ろにワイバーンが迫っている。後なら安全だと思ったのだろうか、大きな勘違いである。


 俺はセブンスショットガンで撃ち落とした。戦闘ウィングでワイバーンの落下地点を確認する。二匹のワイバーンは両方とも地上で藻掻いていた。


 着地してワイバーンにトドメを刺す。最後のワイバーンを仕留めた時、赤魔石の他にドロップ品を残した。それを拾い上げる。


 指輪だった。鑑定モノクルで調べてみると『収納リング』と分かった。収納アームレットと同様の機能を持つアクセサリーである。


『容量はどれほどですか?』

「二百リットルくらいのようだ。新しいシャドウパペットに組み込むにはちょうどいい」

 俺は収納リングを人型シャドウパペットに利用する事にした。


 地上に戻った俺は、赤魔石三個を魔力バッテリーに加工してもらう依頼を出した。そして、高性能なソーサリーアイ・ソーサリーイヤー・ソーサリーボイスも発注する。


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