第241話 天音の大学生活

 天音たち四人は、大学に入学して大学生となった。天音と千佳は同じ大学なので、通学途中で一緒になる事もある。


 その日も天音が乗るバスに千佳が乗ってきて、挨拶の言葉を交わした。二人は普段着にグリムからもらったポシェットを斜めに掛けた姿で身軽な格好である。


「千佳、魔装魔法科の授業はどう?」

「基本から確認する段階だから、魔装魔法関係の科目は大丈夫。それより一般教養科目の方が大変」


 天音が溜息を漏らす。

「あたしはどちらもダメ。高校の時に生活魔法だけ修業していたから……はあっ、付与魔法のクラスで一番ダメな学生かもしれない」


 それを聞いた千佳が苦笑いする。合格が決まった後、付与魔法を修業するチャンスはあったのだ。だけど、天音は魔法庁に登録された新しい生活魔法の習得を優先した。


「アリサから、付与魔法を優先した方がいいと言われたのに、新しい生活魔法に夢中になったのは天音自身じゃない」


 天音がガクリと肩を落として情けない顔になった。

「反省しています」

 二人は渋紙大学の門を潜って、大学内に入ると別々の教室に向かう事になる。


「日曜日は、グリム先生のところでシャドウパペット作りを手伝う事になっているんだから、忘れないように」

 別れ際に、千佳が天音に言った。

「分かってます」


 天音は付与魔法基礎Ⅰという講義を受けるために教室へ向かった。途中で中村沙奈江という学生と会う。

「天音ちゃん、元気がないね」

「前の授業で、クラスで一番魔法レベルが低い事が分かって、ショックなの」


「これからよ。大学に入ってから、魔法レベルが上がる事だって有るから」

 天音たちが話している魔法レベルというのは、付与魔法の魔法レベルである。


「そう言えば、教科書とか荷物がないようだけど、忘れてきたの?」

「ちゃんと持ってきたよ」

 天音はポシェットをポンと叩いた。それを見て、沙奈江がびっくりした顔をする。


「もしかして、マジックバッグなの?」

 大学生でマジックバッグを持つ者は珍しいので、驚いたようだ。だが、D級冒険者なら半分くらいの者が所有しているので、天音は珍しいとは思っていなかった。


「大学の合格祝いにもらったものなの」

「へえー、便利そうね」

「そうなのよ。買い物とか、凄く便利」

 教室に着くと、同じ付与魔法科の男子学生が、水月ダンジョンへ潜る話をしていた。


 その中の一人が、天音たちのところへ来て、

「僕たち水月ダンジョンの二層でオーク狩りをする予定なんだけど、二人も参加しないか?」


 ダンジョンでの狩りは、魔法レベルを上げる事と魔石を手に入れるというのが目的らしい。予定日を聞くと土曜日だという。

「あたしはダメ。その日は後輩の子と、ダンジョンへ行く約束をしているの」


 天音は断った。亜美とタイチの二人と一緒にダンジョン探索をする約束なのだ。沙奈江は友人の女子学生も参加する事が分かり、参加する事にしたようだ。


 土曜日になって、天音が水月ダンジョンへ行くと亜美とタイチが待っていた。

「おはよう、二人とも早いのね」

 二人は挨拶をして、魔法レベルを上げたいのだと言う。亜美は魔法レベル8、タイチは魔法レベル9を目指しているのだ。


「天音ちゃん」

 名前を呼ばれて振り返る。そこには沙奈江の姿があった。

「そうか、沙奈江ちゃんもダンジョン探索だったんだね」


 沙奈江が亜美とタイチに視線を向ける。二人は沙奈江に挨拶した。沙奈江も挨拶を返す。

「この二人が後輩なの?」

「ええ、二人とも優秀な生活魔法使いなの」


 沙奈江が一緒にオーク狩りをする大学生たちに呼ばれて去ると、天音は着替えるためにダンジョンハウスへ行った。着替えて出てきた天音は、亜美たちと一緒にダンジョンへ入る。


 一層は最短ルートで通り抜け、二層に下りた。この二層で沙奈江たちがオーク狩りをしているはずだと考えながら、天音は先に進んだ。


「天音先輩、付与魔法というのは、どんな魔法が有るんですか?」

「そうね。魔道具を作る魔法が多いかな。それに魔石を加工するのも付与魔法よ」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 天音たちが二層を進み始めた頃、沙奈江たちのグループは森の中の空地にオークの群れを発見して、どうするか小声で話し合っていた。


「オークの数は、二十一匹だ。僕たちが倒すのは無理だ」

 六人でグループを組んでいるのだが、沙奈江たちはF級冒険者になったばかりという者が、ほとんどだった。


「あ、あれは天音ちゃんたちじゃない」

 三人の冒険者がオークの群れに向かって真っ直ぐ進んでいるのを見て、沙奈江が顔を強張らせた。


 沙奈江が大声で危険を知らせようとするのを、男子学生が止める。

「ダメだ。僕たちまで見付かってしまう」

 涙目になった沙奈江は、躊躇ちゅうちょなく進んでいく天音たちの姿を見守るしかなかった。


 オークたちが天音たちに気付いて、駆け出した。それに気付いた天音たちが何か魔法を放ったように見えた。その瞬間、先頭のオークが胸から血を噴き出して倒れる。


 オークたちは天音たちから五メートルほどの距離まで近付くと、バタバタと倒れた。その様子を見た沙奈江が目を丸くする。


「あ、あれはどうなっているの?」

 その疑問に答える者は居なかった。見たままだったからだ。


 最後の二匹が突撃した時、天音が一歩前に出て右手を横に薙ぎ払うように振った。その瞬間、二匹のオークの首が刎ね飛んだ。


 その直後、天音が沙奈江たちが隠れている方向に視線を向け首を傾げた。それから魔石を回収して行ってしまった。


「あれは攻撃魔法なのか?」

 男子学生の一人が疑問を口にした。沙奈江が首を振る。

「違うと思う。天音ちゃんの後輩たちは、優秀な生活魔法使いだと言っていたの」


「生活魔法か、凄いな」

「本当に……カッコ良かった」

 天音の実力を知った沙奈江たち同じ科の学生は、その後天音に一目いちもく置くようになった。


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