第235話 ブロンドラゴン
後藤たちが山の中腹に開いた洞穴から飛び出してきた直後、強烈な冷気が洞穴から噴き出した。脱皮したアイスドレイクが冷気ブレスを吐き出したようだ。
「危なかった。中に居たら凍りついていましたよ」
白木が引きつった顔をして言った。
「たぶん、ここからアイスドレイクが出てくる。もう少し離れるぞ」
後藤の指示でチームは洞穴から距離を取った。後藤たちは中腹から突き出た大岩の陰に隠れて、洞穴を監視する。その時、足音が聞こえ始めた。
「出て来るぞ」
洞穴から巨大な頭が見え、巨大な魔物の全身が姿を現す。それを見た白木が、目をパチクリさせる。
「白っぽいけど灰色だったアイスドレイクが、全身真っ白なドラゴンに……」
脱皮したアイスドレイクは、白い竜に変わっていた。それも一回り大きくなっている。
「あれはフランスのダンジョンで発見された『ブロンドラゴン』じゃないですか」
もう一人の攻撃魔法使いである河瀬が声を上げた。河瀬は後藤ほどではないが、優秀な攻撃魔法使いである。
「チッ、ドレイクがドラゴンに進化したのかよ」
白木の弟子である日高が忌々しそうに言う。
「進化したと言っても、五大ドラゴンよりは小さい。油断しなければ仕留められるはずだ」
後藤の声で戦闘態勢に入った『蒼き異端児』チームは、後藤が先制攻撃を仕掛けるのを待った。
後藤たちに気付いていないブロンドラゴンは、敵を探してキョロキョロと目を動かしている。後藤は『ドレイクアタック』を発動した。
大量の魔力が後藤から放出され、それが圧縮されて球形になる。その魔力に気付いたブロンドラゴンが、後藤に目を向けた。
その瞬間、魔力感知砲弾が放たれた。ブロンドラゴンが翼を広げてジャンプすると下に見える麓に向かって滑空する。的を外した魔力感知砲弾は山に当たって爆発した。
河瀬が滑空するブロンドラゴンに向かって『ドレイクアタック』を発動した。魔力感知砲弾がブロンドラゴンに迫り、巨大な足の近くで爆発。多少のダメージを与えたようだが、羽ばたいたブロンドラゴンが上昇を開始する。
「ダメージを与えられたか、地下空間で見せたバリアみたいなものは、脱皮の間だけ使える特殊能力だったみたいだな」
後藤が冷静な顔で分析した。旋回したブロンドラゴンは、後藤たちに向かって急降下すると口を大きく開いた。
「ブレスだ。逃げろ!」
後藤は山の斜面から下に向かって跳躍した。空中で『フライ』を発動した後藤は、斜面を滑るようにして飛翔する。もう一人の攻撃魔法使いである河瀬も同じように飛翔していた。
魔装魔法使いの二人は、自分の足で斜面を駆け下りていた。後藤たちの頭上を冷気のブレスが通り抜ける。斜面に当たった冷気ブレスは、斜面にあった全てのものを凍らせた。
樹木や雑草、土壌さえも凍りつく。麓まで下りた後藤たちに向かって、またブロンドラゴンが急降下を始める。
「もう一度だ」
後藤と河瀬が『ドレイクアタック』を発動した。魔力感知砲弾が飛翔し、ブロンドラゴンの顔の近くで爆発する。
どちらの『ドレイクアタック』がダメージを与えたのか分からなかったが、ブロンドラゴンは目潰しを食らったような状態になったらしく、地面に墜落する。
暴れるブロンドラゴンに近付いた魔装魔法使いの二人が、それぞれの得物でブロンドラゴンに傷を負わせる。但し、傷は浅いものだった。
後藤は地上で暴れるブロンドラゴンを睨み、『スーパーノヴァ』を発動した。発射音が響き、圧縮魔力砲弾が音速を超える。瞬時にブロンドラゴンの胸に命中し、爆炎を噴き上げながら爆発した。
その一撃がブロンドラゴンの息の根を止めた。爆炎がブロンドラゴンの肺を焼き焦がし致命傷を与えたのである。
巨大なドラゴンが消えた瞬間、後藤の左手の甲に痛みが走った。手の甲に転送ルームの扉に描かれていた模様と同じタトゥーが刻まれたのだ。
痛みに顔をしかめた後藤だったが、そのタトゥーを見てニンマリする。
一方、白木たちはドロップ品を探し始めていた。最初に黒魔石<大>が見付かり歓声が上がる。そして、河瀬が巾着袋型のマジックバッグを拾い上げた。
「マジックバッグです。誰が使いますか?」
後藤はマジックバッグを調べて、かなりの容量がある事を知った。
「河瀬と日高は、大容量のマジックバッグを持っていなかったな。ジャンケンだ」
日高と河瀬がジャンケンをして、河瀬が勝った。
最後に日高が朱鋼製の槍を見付けた。魔導武器ではなかったが、質の良い槍だったので予備の武器として換金しない事にする。
転送ゲートキーを試したい後藤は、地上に戻る事にした。五層に戻り転送ルームへ行った後藤は、その扉の模様に転送ゲートキーを押し当てる。
扉が開いたので中に入ると、白木たちが驚いた顔をする。
「うわーっ、こうなっているのか」
日高が声を上げた。
「さあ、行くぞ」
後藤が一層への転送ゲートに足を踏み入れて消える。白木たちは目を合わせ、まず白木から転送ゲートへ入った。
一層に転送された後藤たちは地上に戻り、冒険者ギルドへ行って支部長へ報告した。
「ほう、アイスドレイクがブロンドラゴンへ進化したのか。珍しい現場に立ち会ったな。ところで、そいつは宿無しだったのか?」
後藤が頷いて、手の甲に刻まれたタトゥーを見せる。
「二人目の転送ゲートキー所有者か。この調子でどんどん増えてくれると、鳴神ダンジョンの探索が進んで嬉しいのだが」
「ブロンドラゴンもそうでしたが、結構手強い魔物でした。鳴神ダンジョンでは転送ゲートキーを持っているかどうかで、冒険者チームのレベルが分かれるかもしれませんね」
支部長が頷いた。
「あっと、そうだ。グリム君たちと一緒にサイクロプスゾンビを倒して、手に入れた黒魔石が換金できた。三分の一ずつ銀行口座に振り込んだから、確かめてくれ」
「分かりました」
一口に黒魔石<大>と言っても、倒した魔物によって大きさが少し違う。サイクロプスゾンビのものは、かなり大きかったので、一億を超えたはずだ。一人数千万の収入になっただろう。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
その頃、俺は銀行で冒険者ギルドからの振込金額を確認していた。
「溜め込むばかりじゃしょうがないな。何かダンジョンで役に立つものを買おう」
一番役に立ちそうなD粒子二次変異の巻物二つを購入していたのだが、その代金は数十万円程度でしかなかった。
大量の食料を買い込んで、マンションに戻った。食料は冷蔵庫や棚に仕舞う。そして、為五郎やタア坊、ゲロンタ、コムギを影から出して、自由にさせる。
外に出してやるとタア坊などは機嫌が良くなるようだ。
「メティス、後藤さんたちがアイスドレイク、いやブロンドラゴンを倒したそうだぞ」
『宿無しだったのでしょうか?』
「はっきりした事は公表していないが、どうやら宿無しだったらしい」
『後藤さんたちが、転送ゲートを使えるようになった、という事ですね』
俺は頷いた。
「まあ、それは良いとして、新しく手に入れたD粒子二次変異の特性を調べてみよう」
『まずは<編成>を調査しましょう』
「何か考えが有るのか?」
『『編成』という言葉は、バラバラのものを一つに纏めて組織化するという意味が有ります。これを生活魔法に当て嵌めると、バラバラのものというのは、特性を意味しているのではないかと思うのです』
「なるほど、今までD粒子一次変異とD粒子二次変異の特性を一つずつしか、生活魔法に組み込めないという制限があったが、<編成>を使う事でいくつかの特性を一つに纏めて、生活魔法に組み込めるようになるのではないか、とメティスは考えているんだな」
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