第227話 味方
大学から合格の報せを受けたアリサは、冒険者ギルドへ行ってグリムを探した。その時、俺は鳴神ダンジョンの最新情報をチェックするために、資料室で資料を読んでいた。
「居たっ、グリム先生」
その声で振り向いた俺は、アリサが嬉しそうな顔をしているのに気付いた。
「嬉しそうだな。もしかして大学に受かったのか?」
「そうです。受かったんです」
「良かった。本当に良かったな」
教え子が大学に受かったのは嬉しい。だが、俺の手を離れて巣立ってしまうと考えると、少し寂しい気がする。
「大学に入ったら、ダンジョン探索を続けながら、本格的に魔法陣の研究を始めようと思っています」
「そうか、結城さんは魔法陣の研究をしたかったんだったな」
「グリム先生、私は弟子なんですから、アリサでいいですよ」
「でも、卒業して大学生になるんだから」
アリサが首を振った。
「大学生になっても、グリム先生の弟子を辞めるつもりはありません」
「それは光栄だと思うけど、俺は分析魔法使いじゃなくて、生活魔法使いだぞ」
「私が分析魔法を極めるためには、生活魔法が必要だと思っています」
『いい娘じゃないですか。本当の事を話して、味方になってもらえばいいのでは』
突然、メティスの声が頭に響いた。俺は返事をせずに、メティスの提案を考える。アリサなら秘密を守るだろうという確信がある。
だが、可愛い教え子を自分の問題に巻き込むのは、どうだろう? ワイズマンのエミリアンから聞いたディアスポラの件もある。
「どうかしたんですか?」
アリサが首を傾げている。俺が考え込んだからだろう。味方は切実に欲しいのだが……決めた。打ち明けて、味方になってもらおう。
「今日は時間が有るか?」
「有りますけど、何か手伝って欲しい事が有るんですか?」
「そうじゃない。ちょっと聞いてもらいたい事が有るんだ」
俺はアリサを連れて、有料練習場へ行った。そこ以外で秘密を喋れる場所を思い付かなかったのだ。こういう場所しか行っていないな、とちょっと落ち込む。
小さな練習場を借りて、二人で入った。
「グリム先生、聞いてもらいたい事というのは何です? 告白だったら、心の準備をする時間をください」
冗談のような口調で言ったので、今の言葉が冗談かどうか判断つかなかった。
「いや、告白じゃない。もっと深刻な話なんだ」
アリサが一瞬残念そうな顔をするが、すぐに元の顔に戻った。
「それで深刻な話というのは?」
俺はアリサの目を見詰めて、
「これから話す事は、親兄弟にも話さないでくれ」
「分かりました」
俺は自分が賢者である事を話し、ワイズマンのエミリアンから賢者に敵対するディアスポラという組織がある事を聞いたと伝えた。
「凄いです。イギリスのワイズマン・ロッドフォードが亡くなりましたから、十一人目の賢者という事ですね」
アリサは目をキラキラさせて、俺を見ている。
「絶対に秘密だからな」
「分かっています。天音たちにも言いません。そうだ、以前に見せてもらった魔導書は、偽物なんですか?」
「あれは本物だ。だが、アリサたちに教えた生活魔法のほとんどは、俺が創ったものだ」
アリサが溜息を漏らす。
「何の溜息だ?」
「賢者なのに、魔導書まで手に入れたんですか。世の中は不公平なんですね」
「あれは生活魔法使いが、ダンジョンで活躍する事が少なかったので、生活魔法使い用の魔導書が余っていたんじゃないのか」
「そんなものなのですか?」
「本当の事は分からないけど、そう思っている方が気が楽だ。ダンジョンが俺に何かさせようとしているんじゃないか、みたいな事を考え始めると頭が痛くなる」
アリサが納得したように頷いた。
「グリム先生は、これからどうするのです?」
「A級冒険者を目指して、実績を上げる。そして、A級になったら、賢者だという事を公表しようかと思っている」
アリサが考え込んだ。
「公表するんですか? 危険かもしれませんよ」
「賢者だと公表しないと、創った生活魔法を登録できない。それだと生活魔法の普及が中途半端で終わりそうだ」
「そうですね。いつまでも魔導書の魔法だという誤魔化しは通用しないでしょうね」
過去に魔導書から二十個ほどの魔法を手に入れて、魔法庁に登録した者が居たらしいが、すでに俺が創った生活魔法は二十個を軽く越えている。
「そう言えば、魔法レベル17になったんですよね。あの魔導書に魔法レベル17になったら習得できる魔法が有りましたけど、確かめたのですか?」
完全に忘れていた。為五郎の武装や西洋剣術の修業をしていたので、頭から抜け落ちてしまったのだ。やはりアリサに打ち明けたのは正解だった。俺だけで全てを行うには、無理な状況になっている。
「シャドウパペット関係と鳴神ダンジョンの事で忙しかったから、忘れていた」
俺は魔導書を取り出して、魔法レベル17で取得できる魔法を確かめた。
魔導書から魔法を取り込む。魔法レベル17になっていたからだろう。すんなりと魔法を習得できた。その生活魔法を調べると、『スターピクチャー』という魔法だった。
スターと名前が付いていたので、メテオを連想し隕石で敵を攻撃するような魔法かと思ったが、全然違った。多数の星のような小さな光を操作する魔法だったのだ。数千の光で何をするかというと、空中に絵を描くらしい。
俺はアリサに『スターピクチャー』の説明をした。試しに発動して、空中にファイアドレイクの姿を描き出そうとする。空中に数千の小さな光が出現し、様々な色に分かれファイアドレイクの姿を形成する。それを遠くから見ると本物のファイアドレイクのように見えるだろう。
「うわーっ、こんな魔法だったんですね。でも、光で絵を描くだけなのに魔法レベル17でないと習得できないんですか?」
「これはダンジョンが作成したものだろう。無駄に完璧な魔法を完成させようとするので、習得可能になる魔法レベルが高くなるんだ」
「賢者システムを使って、もっとシンプルなものにできるのですか?」
「もちろんだ。やってみようか?」
「ええ、お願いします」
俺は頷いてから、メティスの事を言い忘れていたのに気付いた。
「その前に、俺の相棒を紹介しておこう。腰の巾着袋の中にはダンジョンで手に入れた魔導知能が入っている」
「魔導知能というのは?」
「ダンジョンの種だ。魔導知能が成長するとダンジョンになるらしい。本人から説明させよう」
『メティスと申します』
頭の中に響いた謎の声を聞いて、アリサはビクッと驚いた。
「グリム先生、これは?」
「だから、魔導知能だ。思念で話し掛ける事ができるんだ」
メティスとアリサが話し始めた。それを確認した後、俺は賢者システムを使って、『スターピクチャー』の改造を開始する。まず変化できる色を制限した。光の三原色である赤・緑・青だけにする。そして、光の数を五百まで絞った。
その他にも機能に制限を付ける事で、習得できる魔法レベルを『7』にした。その劣化版を発動してみると、オリジナルの魔法より、使い勝手が悪い事が分かった。
色の配置などを綿密に考えないと、ちゃんとした絵にならないのだ。それに光の数が少ないので、小さなものになった。
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