第228話 鳴神ダンジョン七層

 魔導書の魔法を確認した俺は、アリサからファイアドレイクを倒した時の様子を尋ねられた。

「もしかして、ファイアドレイクを倒すつもりなのか?」

「私も早く鳴神ダンジョンを探索したいんです」


「焦る必要はないだろう。ゆっくりと成長すればいい」

「グリム先生は、随分と焦っていたようでしたけど」

 アリサは俺が焦っていた事に気付いていたようだ。頭の良い弟子だ。このまま成長すれば、素敵な女性になるだろう。


「俺の場合は、A級冒険者になる前に政府にバレると、保護プログラムで自由を奪われるかもしれない、というリスクが有るから」


「そうでした。でも、A級になるのは難しいそうですね」

 俺は溜息を吐いた。

「そうなんだ。アースドラゴンを倒した赤城さんでも、A級にはなれなかった。何をすればA級になれるのか、分からないんだ」


「アースドラゴンより強い魔物を倒せば、いいんじゃないのですか?」

「簡単そうに言うけど、アースドラゴンは五大ドラゴンの中の一種だ。五大ドラゴンより上となると、上位のドラゴンか、巨大種になる」


 巨大種というのは、陸に住む巨大怪物と言われる『ベヒモス』や海の怪物『レヴィアタン』、空の怪物『ジズ』などである。


「さすがにベヒモスやレヴィアタンは無理でしょうね」

 アリサが無理だと言うのには理由がある。ベヒモスは一度だけ討伐された事が有るのだが、それはA級冒険者九人が、遠距離から最大級攻撃魔法で一斉攻撃して仕留めたというものだ。


 それだけの戦力を揃えなければ、倒せない相手だという事でもある。

「まずは五大ドラゴン級の魔物を倒して、赤城さんと肩を並べる。そして、世界で初めてだという実績を上げれば、A級になれると思っているんだが、どう思う?」


「ええ、それならA級になれそうです。メティスはどう思いますか?」

『今の生活魔法で、五大ドラゴン級を倒せるかどうか。それが問題だと思います』

「『ダイレクトボム』なら、五大ドラゴン級を仕留められると思うんだけど」


 アリサが首を傾げた。『ダイレクトボム』を知らないのだ。俺が説明すると、

「『ヒートシェル』に強力な爆薬を仕込んだような魔法なんですね」

『ドラゴンは、素早い攻撃ができる魔物です。『ダイレクトボム』を発動する時間を、与えてくれるとは思えません』


 そうなのだ。『ダイレクトボム』は発動してからD粒子爆轟シェルが飛翔を始めるまでに時間が掛かる。アイアンドラゴンの時は、『ライトニングショット』で時間を稼いだが、五大ドラゴン級に雷撃系が通用するか分からない。


「先ほどの『スターピクチャー』を使って、時間を稼ぐ事はできないでしょうか?」

 アリサが提案した。

「おっ、いいアイデアだ。考えてみよう」


 アリサと話し合い、様々なアイデアをもらった。時間が瞬く間に過ぎて夕方になったので、アリサは帰宅。残った俺は、七層の情報整理を再開する。


 七層の広大なエリアを探索している冒険者は、まだまだ少なく全体の地図もできていない状態だった。大まかな地図もないので、冒険者たちは適当に目標を定めて探索しているらしい。


「ダメだな。大まかでいいので地図が必要だ」

『それには空からエリアを周回して全体像を把握する必要があります』


 翌日から七層の探索を開始した。

 一層から五層への転送ゲートを抜けてから、まずは六層の廃墟エリアを通り抜ける。俺は影から為五郎を出した。為五郎の前足に凶悪な爪が組み込まれた籠手を装着する。


 斬剛特性付き蒼銀で作られた爪が付いている籠手は、精霊の泉で聖属性を付与済みである。この籠手を『聖爪手』と名付けた。


 為五郎をレイスと戦わせてみた。レイスのショートソードが為五郎に命中しても、為五郎の肉体が麻痺するということはなかった。ただ衝撃のようなものを感じるらしく、為五郎が明らかに嫌がっている。


 怒った様子の為五郎は、自分を攻撃したレイスに聖爪手の爪を叩き込んだ。聖属性付きの爪がレイスを切り裂き、一撃で仕留める。


「威力は十分だな。これで背後を安心して任せられる」

 俺と為五郎は廃墟の大通りを奥へと進んだ。途中でレイスの集団と遭遇したが、今回は楽だった。背後を為五郎が守ってくれるので、あまり動き回らずに戦えたからだ。


 レイスの集団を殲滅。最後のレイスが消えた時、何かをドロップした。拾い上げて鑑定モノクルで調べると、『レイスの霊石』と呼ばれるものだった。


 霊石はいくつかの魔物がドロップする。その使い道は薬の原料である。精神の病気に関する治療薬の原料になる事が分かっていた。


『この霊石は高価なのですか?』

「この卵ほどの大きさで、二百万円ほどだと聞いている」

 俺は幸運だったと思いながら、霊石を仕舞った。


 その後六層を走破して、七層に下りた。冷たい空気を感じて、保温マントを着る。為五郎から聖爪手を外して影に潜らせた。ここからは空から探索する事になる。


 戦闘ウィングを使って空から調査すると、七層が一辺二十キロほどの正方形をしているのが分かった。特徴的な地形が三箇所あり、中央の槍ヶ岳に似た山、右奥にある楕円形の台地、左奥にある穴だらけの崖である。


 エリアの天井まで届く切り立った崖が気になったので、崖に開いている穴の一つに入ってみた。中は迷路のようになっており、背後を守らせるために為五郎を出す。


 穴の大きさは二メートルほどで、それほど大きくはない。だが、その数は多く、そのどれかに宝箱が有りそうな感じだ。


 穴の中には、薄ぼんやりした光があった。穴の壁が淡い光を放っているのだ。五分ほど進んだ時、先の方から何かの音が聞こえてきた。


「音が近付いている。まずいな、戻ろう」

 俺は為五郎と一緒に戻り始める。それでも音が近付いてくるのが分かった。そして、音の正体が判明する。直径一メートル半ほどの丸い岩の塊のようなものが転がってきたのだ。


「ヤバイ」

 俺はセブンスオーガプッシュを発動した。高速回転するオーガプレートが岩に当たり押し返そうとするが、力負けして消滅する。


 為五郎が飛び出して、岩に体当りして止める。一旦は止めたのだが、その岩がジリジリと前進を始めた。俺は為五郎に離れるように命令した直後、セブンスパイルショットを発動。D粒子パイルが岩を貫通した。


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