第224話 為五郎の武器
赤城たちは六層の教会で、羊頭人と山羊頭の二匹と遭遇したようだ。その時、羊頭人を倒して『宝物庫への羅針盤』という魔道具を手に入れた。
その魔道具を『アイテム・アナライズ』で調べると、『宝物庫への道標』と対になっている魔道具であり、二つが揃うと宝の隠し場所が分かるという情報を手に入れたそうだ。
赤城たちは羊頭人の相棒らしい山羊頭を倒せば『宝物庫への道標』が手に入ると推理して、逃げた山羊頭を追った。そして、『宝物庫への道標』を手に入れ宝物庫を発見したという。
宝物庫にあった宝石は、二十億円ほどの価値があると聞いた。ダイヤなどの有名な宝石はそれほどでもないが、名前も分からないような宝石は希少価値が高いそうだ。
赤城たちが遭遇した羊頭人と山羊頭は、日本では初めて発見された魔物だった。だが、海外では発見されおり、『シープヘッド』『ゴートヘッド』と呼ばれているらしい。
俺は七層の情報を整理しようと考え資料室へ行った。
「はあっ、二十億か……凄いな」
俺が羨ましそうに言ったからだろう。メティスが慰めるように、
『グリム先生が持つ光剣クラウは、それ以上の価値が有ると思います』
「そうかもしれないけど、売る訳にはいかないからな」
光剣クラウは、俺の対アンデッド用武器だ。手放す事はできない。
『でも、このまま稼いでも税金で徴収されるだけだと、愚痴っていたではありませんか?』
「そうなんだよな。メティス、何か必要なものはないか?」
『そうですね。高性能なソーサリーアイとソーサリーイヤーが欲しいです』
コムギの体をバージョンアップさせるつもりのようだ。
翌日、俺は東京の西堀魔道具工房へ向かった。その工房の主人は、西堀克幸という人物で、魔導職人の名匠である龍島孝蔵の弟子だという。
俺はコムギ用の魔道具を注文してから、爪型の武器がないか尋ねた。
「完成品はないが、注文してもらえるなら作りますよ」
「魔導武器にしてもらえませんか」
「できるけど、どんな属性を付与するのかね?」
「属性の付与じゃなくて、切れ味を強化するとかできないのですか?」
西堀が難しい顔になった。
「その手のものか……存在しない訳じゃないけど、それを作製するには、切れ味を強化するような特性が付与された素材がないとダメなのだ」
西堀が貫通力が増す特性が付与されているという鋼鉄を所有していたので、それを見せてもらった。直径五センチほどの鋼鉄球である。
それを手に持った時、D粒子の存在を感じた。D粒子感知能力を全開にして調査する。すると、この鋼鉄球の中に大量のD粒子が含まれているのに気付いた。
どういう事だ? 疑問を持った俺は、賢者システムを立ち上げて鋼鉄球を念入りに調べる。その結果、鋼鉄球に含まれるD粒子は、D粒子二次変異の<貫通>という特性が付与されている事が判明した。
この鋼鉄球はダンジョン産らしい。
「ダンジョンで手に入れられるという事か。俺が素材を持ってきたら、作ってもらえますか?」
「もちろんだ。だけど、この手の素材は中々手に入らないそうだよ」
「頑張って探します」
俺はコムギのソーサリーアイとソーサリーイヤーだけを注文して、渋紙市へ戻った。マンションに戻った俺は、メティスに尋ねる。
「金属にD粒子を添加する事はできるだろうか?」
『シャドウクレイのように、という事ですか?』
「そうだ」
『シャドウクレイが可能なのですから、金属も可能だと思います。但し、シャドウクレイは、そのまま練り込みましたが、金属の場合は加熱して溶けた状態でD粒子を混ぜる必要が有ると思われます』
「そうなると、それなりの設備がある場所でないと試せないな」
俺は『ヒートシェル』で使う銅リングを作ってもらった工場に協力してもらう事にした。
翌日、工場と交渉して電気炉を借りる事になった。現在所有している素材は、黒鉄と蒼銀が有る。蒼銀は峰月と一緒に採掘に行って、手に入れたものだ。
まずは黒鉄十キロを電気炉で加熱した。俺は保温マントを着てから溶岩のようになった黒鉄にD粒子を注入する。注入が完了してから、賢者システムを立ち上げD粒子混じりの黒鉄にD粒子二次変異の<堅牢>を付与しようとしてやめた。
「<堅牢>だと、後で加工が難しくなる? <貫穿>にしよう」
俺はD粒子二次変異の<貫穿>の特性を付与した。
溶岩のように灼熱している黒鉄が冷えるのを待つ。冷えてから鑑定モノクルで確認すると、ただの『黒鉄』だったものが、『貫穿特性付き黒鉄』に変わっていた。
工場の人たちからは、黒鉄を溶かしてまた固めただけに見えたらしい。『こいつ、何をやっているんだ』という顔で、俺を見ていた。
成功したので、続けて蒼銀八キロも加熱してD粒子を注入し、今度は<斬剛>の特性を付与する。これも成功して『斬剛特性付き蒼銀』が出来上がった。
俺は特性付きの蒼銀を持って、もう一度西堀魔道具工房へ行って為五郎用の武器を発注した。実際に為五郎を見せると、その手のサイズを測った西堀が、どのような武器にするか尋ねた。
「籠手に三本の刃を付けたような武器にしてください」
俺と西堀は具体的な形状を話し合った。
「しかし、よく貴重な素材が手に入りましたね」
西堀は『アイテム・アナライズ』を使って、蒼銀にどんな特性が付いているかチェックしている。それ故にどれほど希少な素材か分かっているのだ。
「苦労しましたけど、何とか手に入れました」
「自分の武器は作らないのですか?」
「ダンジョンで手に入れた武器が有りますから」
西堀が頷いた。
「なるほど、素晴らしい武器を所有しているという事ですか。羨ましい」
西堀は武器のコレクターだと言う。その後、散々所有する武器の自慢を聞いた。俺だって光剣クラウを持っているんだぞと自慢したくなったが、我慢する。
光剣クラウはダンジョンで実際に使う武器なので、誰かに知られる事は有るだろう。だが、自分からは吹聴しないようにしようと考えていたのだ。
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