第198話 メタルオクトパス

 二つの魔法を創った後、三日間を新しい魔法の訓練に費やした。『バーニングショット』と『ライトニングショット』を早撃ちできるようになって、ようやく満足する。


 四層まで下りた俺に、メティスが話し掛けてきた。

『グリム先生、今日はピラミッドを調査するのですか?』

「ああ、ワイバーンを何とかできたら調べようと思っている」

『でしたら、近くまで戦闘ウィングで飛んで、そこから歩いて行きましょう』


 メティスの提案に同意した。戦闘ウィングを出して、それに乗ると飛び上がった。顔には冒険者用のゴーグルを装着している。冒険者ギルドで購入した頑丈なものだ。


 どこから吹いてくる風だか分からないが、砂を巻き上げて視界を悪くしている。砂漠にはサンドウルフやデビルスコーピオンも居るようだ。


 ピラミッドに近付いた俺は、地上に下りて歩きだす。砂丘があり、それを越えた場所にピラミッドが存在した。この砂丘を越えたら、ワイバーンに発見されるだろう。


『為五郎を出さないのですか?』

「なるべく戦闘は避けて、ピラミッドに駆け込む事を優先する」

 俺は砂丘を越えてピラミッド目掛けて駆け出した。


 ピラミッドまでの距離の半分も走らないうちにワイバーンに見付かり、四匹のワイバーンが襲い掛かってきた。急降下したワイバーンの口が大きく開き圧縮した空気を吐き出す。


 クイントカタパルトを発動し、急降下してきたワイバーンの横に身体を放り上げた。D粒子リーフから解放された時、ワイバーンとの距離は十メートルほどだった。


 セブンスライトニングショットをワイバーンに向けて放った。その後、クイントカタパルトで避難する。俺の攻撃は残念ながら外れた。


 動いている敵に命中させるのは難しい。二匹目のワイバーンが低空飛行で近付いてきて、足の爪で俺を捕らえようとした。


 そのワイバーンに向かって、もう一度セブンスライトニングショットを発動する。D粒子放電パイルが飛翔し、ワイバーンの胴体に命中した。


 ストッパーのために貫通しなかったD粒子放電パイルの凄まじい運動エネルギーが、ワイバーンを空中で撥ね飛ばした。回転しながら落下するワイバーンから稲妻が何本も上空へと走り、轟音が鳴り響く。


 それを見たワイバーンたちが上空へと退避した。『マジックストーン』を発動してから、俺はピラミッドに向けて走る。その後からワイバーンの魔石が飛んできたのでキャッチしてからピラミッドに滑り込んだ。


 ワイバーンたちの叫び声が聞こえた。獲物を逃して悔しいのだろうか? 俺は握り締めていた魔石を収納アームレットに仕舞う。


『成功しましたね』

 メティスの言葉に頷いた。

「次はメタルオクトパスだ」


 このピラミッドについては、冒険者ギルドの資料にも情報がほとんどなかった。分かっているのはメタルオクトパスが棲み着いているという事だけだ。


 ピラミッドの内部は迷路のようになっていた。俺の背後を守らせるために、影から為五郎を出す。のそりと黒い熊が姿を現し、俺の身体に顔を擦り寄せる。それが為五郎流の挨拶らしい。


 背後を守るように為五郎へ指示して進み始めた。この通路は幅二メートルほどで広くはない。ここで戦う場合はブレード系は使えないだろう。


 角を右に曲がり少し進んだところでメタルオクトパスに遭遇した。金属のような光沢がある八本の足で床を押すようにして進んでくる。


 俺はクイントコールドショットを放った。丸い胴体に命中して突き刺さる。その後追加効果の冷却がダメージを与えるはずだが、あまり効果がなかったようだ。


『試してみたのですか?』

「そうだ。『コールドショット』が通用するなら、慣れているこれがいい」

『残念ですが、効果はないようです』


 俺は残念そうな顔をする。だが、ノーダメージだった訳ではない。D粒子冷却パイルが突き刺さった衝撃は、ダメージとなっていた。


 少し動きが遅くなったメタルオクトパスが、足を伸ばして俺を捕獲しようとする。その足を為五郎の爪が弾いた。為五郎が相手をしている間に、俺はクイントバーニングショットを発動した。


 D粒子放熱パイルがメタルオクトパスの胴体に命中して高熱を発した。メタルオクトパスが藻掻き苦しみ、最後には動かなくなり消える。


 為五郎が床に残った青魔石<中>を口に加えて持ってきた。

「ありがとう」

 俺は為五郎の頭を撫でた。


 その後、何度かメタルオクトパスと遭遇しながら奥へと進んだ。メタルオクトパスには『バーニングショット』と『ライトニングショット』が有効なようだ。


 迷路のマップはメティスが作ってくれるので、俺は進む事に集中した。そうして、一時間ほど迷路をさまよっていた時、大きな部屋に辿り着いた。


 入り口から中を覗くと、メタルオクトパスがうじゃうじゃとうごめいていた。俺は気付かれないように少し引き返した。


「どうするかな。少なくとも十五匹くらいは居たぞ」

『セブンスライトニングショットを連発で叩き込む、というのはどうでしょう?』

 残っている魔力をチェックすると、半分ほどになっている。俺は不変ボトルを取り出して、万能回復薬を飲んで魔力を回復する。


「よし、元気になった」

 『ライトニングショット』の早撃ちは練習している。メタルオクトパスが反撃してくる前に数発叩き込めるだろう。俺はやってみる事にした。為五郎をそこに残して退路を確保させる。


 入り口へ近付きもう一度中を確認してから、一気にセブンスライトニングショットを五発叩き込んだ。メタルオクトパスに命中したものもあったが、壁に突き刺さったものもある。


 追加効果の放電が始まり、部屋の中に稲妻の青白い光と轟音が発生した。それは次第に激しくなり部屋の中に稲妻が充満する。


 メタルオクトパスは稲妻の攻撃を浴びて藻掻き苦しんでいた。部屋の中だけでなく入口付近まで稲妻が飛んでくるようになったので、俺は為五郎の所まで逃げた。


 その時、体内でドクンという音を聞いた。魔法レベルが上がった? そうだとすると、魔法レベル16だ。上級ダンジョンの魔物から得られる経験値みたいなものは高いのだろうか?


 光と轟音が消えた後、俺は慎重に入り口から中を確認した。あれほど多数居たメタルオクトパスが消えている。


「あれは何だったんだ?」

『狭い空間に、何発も『ライトニングショット』を撃ち込んだので、相乗効果が発生したのだと思われます』


 俺は頷いてから『マジックストーン』で魔石を回収した。

「中に何かないか、探してみよう」

 俺と為五郎は部屋の中に入った。


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