第197話 二つの魔法

 キャサリンはすぐに気が付いた。その時には憑き物が落ちたように冷静になり、亜美と響子に謝罪した。

「ごめんなさいね。あたし、興奮しちゃって、どうしても自分を抑えられなくなっちゃったのよ」


 響子の怪我も大した事はなかったので、亜美は許す事にした。

 ちなみに必要もないのに攻撃的な魔法を街中で発動するのは、法律で禁止されている。しかし、生活魔法の『プッシュ』や『スイング』は攻撃的な魔法の範疇はんちゅうに入っていない。


 それが一般的な生活魔法に対する評価なのだ。

「ごめんね、亜美。変な事に巻き込んじゃって」

「私は怪我もしてないからいいけど、あのヒロキっていうアイドルは、ガッカリだね」


「まあ、そうなんだけど。あれは普通の人の反応だと思う。興奮したキャサリンさんは、ヤバそうだったもの」


 亜美が首を傾げた。キャサリンを脅威だと感じた瞬間はなかったからだ。

「そうかな。興奮していたのは気付いたけど、そんなに怖くはなかったと思う」


「亜美、ダンジョンでどんな魔物と戦っているの?」

「巨木ダンジョンだと迷宮狼、水月ダンジョンだとレッドコングやリザードソルジャーかな」


 響子が溜息を漏らした。

「そんな魔物と普段戦っているから、キャサリンさんが怖く思えなかったのよ」

 それは有りそうだと、亜美も認めた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 亜美が姉と一緒に地下アイドルのショーを見に行く数日前。

 俺はシャドウベアを倒して手に入れたシャドウクレイ十キロを使って、カリナ用の猫型シャドウパペットを製作した。


 シャドウクレイに関しては、シャドウベアから手に入れたものでもダークキャットからのものでも使えるらしい。但し、猫型を作るならダークキャットの黒魔石、熊型を作るならシャドウベアの黒魔石から作った魔導コアが必要なようだ。


 出来上がった猫型シャドウパペットは、俺にとっては最高の出来だった。龍島が作った猫型シャドウパペットには敵わないが、立派な黒猫だ。


 それをカリナに渡すと、非常に喜ばれた。

 その後、冒険者ギルドの資料室へ行って、新しく追加された鳴神ダンジョンの資料をチェックする。三層の海エリアの探索が終わったらしい。


 その探索で発見された宝箱は、七つだった。これには海中神殿の宝箱は入っていない。

 冒険者たちは四層の砂漠エリアへ探索場所を移したようだ。その砂漠エリアで何か有りそうなのは、ピラミッド型の建造物である。


 しかし、ここはワイバーンの大規模な巣になっている。簡単に近付けるものではなかった。ただベテラン冒険者の中には、ワイバーンの攻撃を突破して、ピラミッドの中に入った者たちも居た。


 そこで遭遇したのは、メタルオクトパスと呼ばれる金属製のタコのような化け物である。全長が三メートルほどで鋼鉄で出来ているかのように頑丈なのだという。


 なるほど、四層を攻略するにはワイバーンを撃退する魔法とメタルオクトパスを倒す魔法が必要だという事か。


 メタルオクトパスは、『コールドショット』が通用するかどうかを確かめないとダメだな。ピラミッドの周囲では、一度に複数のワイバーンが襲い掛かってくるかもしれない。


 纏めて撃退する事は無理でも、一匹を一撃で撃退したいものだ。ワイバーンの複数攻撃については、良いアイデアが浮かばなかった。


 メタルオクトパスについては、『パイルショット』と『コールドショット』なら頑丈そうな体を貫通すると思うが、急所がどこなのか分からない。


 資料に高熱と電気の攻撃が効果ありと書かれていた。

 『コールドショット』の派生型として、追加効果で熱と電気を発する生活魔法を創ろうと思う。


 そのために有料練習場へ向かった。この二つなら短時間で完成しそうなので、そのまま試してみようと思ったのだ。


 有料練習場で小さな練習場を借りて中に入る。そこで賢者システムを立ち上げた。『コールドショット』を基にして、特性の<冷却>を<放熱>に変更したバージョンと<放電>に変更したバージョンを創り上げる。


 名前は『バーニングショット』と『ライトニングショット』である。まずは、『バーニングショット』から試す。


 コンクリートブロックから十五メートルほど距離を取り、三重起動の『バーニングショット』を発動する。D粒子放熱パイルが飛翔し、コンクリートブロックに突き刺さる。


 その瞬間にストッパーが作動し、終端部分がコスモスの花のように開くと、それ以上コンクリートブロックの内部に入らずに放熱の追加効果が発揮される。


 突き刺さった部分が高熱で焼かれ真っ赤になった。その周辺は黒く焦げている。これが魔物だったら、傷口が焼かれて大ダメージを与えていただろう。


『トリプルバーニングショットでも、十分な威力が有るようですね』

 メティスの声が、頭の中で響いた。


 次はクイントバーニングショットである。高速で飛翔したD粒子放熱パイルがコンクリートに突き刺さりストッパーが作動すると、ストッパー部分がコンクリートにめり込みコンクリートの表面にヒビが走る。


 そして、高熱の追加効果がコンクリートを溶かした。溶岩のように滴り落ちる溶けたコンクリートが床を焦がす。


 最後にセブンスバーニングショットを試したのだが、これは予想外の事が起きた。D粒子放熱パイルがコンクリート全体にヒビを走らせ、爆発したのである。


 凄まじい熱エネルギーを一気に放熱した事でコンクリートの中に含まれていた空気や水分が一気に膨張したらしい。


『これは接近戦では使えないようです』

「そうだな。最低でも十五メートルは離れていないと危ない」


 次は『ライトニングショット』を試した。五重起動までは『コールドショット』とほとんど変わらなかった。冷却するか電気が流れるかだけの違いである。


 但し、セブンスライトニングショットは違った。D粒子放電パイルが突き刺さったコンクリートブロックから続けざまに稲妻が花火のように飛び散ったのだ。


「げっ、派手な魔法になった」

 稲妻の光も凄かったが、落雷のような轟音も凄まじかった。俺は思わず後退した。セブンスライトニングショットは二十メートルほど離れて使用した方が良いようだ。


『これはワイバーンに使えるかもしれませんね』

「どういう事?」

『最初に、これを命中させれば、警戒して簡単には攻撃して来なくなると思うのです』


 仲間が花火のように稲妻を放ちながら死んだら、警戒するだろう。そうしたら、その隙にピラミッドに駆け込めば良い。


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