第192話 ワイバーンとの戦い
そのワイバーンは俺に気付いたようだ。こちらに向かって一直線に飛んでくる。選択肢は二つ、戦うか逃げるかである。目的は達成したので逃げても良いのだが、戦う事にした。
ワイバーンの強さを確かめたかったのだ。『ブーメランウィング』を発動して乗り換える。一時的に二つのものを制御する事になるので大変だった。
『ウィング』の魔法を解除した後、ワイバーンに向かって飛んだ。俺は『ブーメランウィング』で形成される飛行体を逆V字ウィングと呼んでいたが、戦闘ウィングと呼んだ方が良いようだ。
『ブーメランウィング』は戦闘時しか使わないからだ。これは消費魔力が多いのが原因である。気軽に使うには、燃費が悪い魔法なのだ。
ワイバーンと空中ですれ違った。その瞬間、『マルチプルアタック』を発動する。小型D粒子パイルが散弾のように撃ち出され、ワイバーンの巨体に突き刺さる。
ワイバーンが空中で悲鳴を上げた。大したダメージではなかったはずだが、痛かったのだろう。急旋回したワイバーンは、俺の背後の位置を取ろうとしているようだ。
俺も急旋回して逃げた。背後から何かが迫っているのを感じて急上昇する。俺の身体の下を、ワイバーンの口から吐き出された圧縮した空気が通り過ぎた。
ワイバーンが魔法を使ったのだ。空中で宙返りした俺は、ワイバーンの背後を取った。そして、すかさず『サンダーソード』を発動。D粒子サンダーソードが飛翔しワイバーンを追う。
D粒子の剣がワイバーンに追い付き、前方部分のD粒子から自由電子に変換され放出。一匹の龍のような稲妻がワイバーンに噛み付いた。
その噛んだ場所からワイバーンの体内を駆け抜けた高圧電流は、魔物の心臓を焼き致命傷を与えた。
きりもみしながら落下したワイバーンが地面に激突する。
「魔石に変化しないな。タフな魔物だ」
俺は急降下して、トドメの一撃を与えようとした。接近した時、ワイバーンがピクリとも動かないのに気付いた。
「まさか」
俺はワイバーンの近くに着地。慎重にワイバーンに近付き生死を確認する。
『死んでいるようですね。ダンジョンエラーです』
久々のダンジョンエラーだ。ワイバーンは皮をドロップする事が偶にあるが、ダンジョンエラーとなる確率は非常に低かったはずだ。
「ワイバーンの肉は食べられるのか?」
『ええ、食べられます。ワイバーンの肉の唐揚げやフライドチキンは美味しいそうです』
「丸ごと持って帰ろう」
『それがいいです。特にワイバーンの喉の部分にある魔効骨は、魔道具の材料となるようです』
その魔効骨が有る御蔭で、ワイバーンは魔法が使えるらしい。
ワイバーンの死骸を収納アームレットに入れた。その後、ピラミッドのようなものを確かめようと近付いたが、そこはワイバーンの巣になっているらしい。
何匹ものワイバーンがピラミッドから飛び立つのを目撃した俺は、引き返す事にする。
地上に戻って冒険者ギルドへ行った俺は、受付で鳴神ダンジョンの四層へ下りた事を報告した。
「凄いですね。その若さで一番乗りするなんて」
受付の加藤が褒めた。俺の後ろに冒険者たちが集まってきて、報告している内容を聞き取ろうと耳を澄ましている。
俺がワイバーンを倒して、それがダンジョンエラーを起こしたと聞くと、背後の冒険者たちがザワッとする。
「本当ですか。裏に回りましょう」
ギルドの裏には、特別な場所がある。ダンジョンエラーを起こした魔物を解体する施設だ。解体のできる職員が呼び出されると、支部長も見物に来た。
「グリム君、本当に四層への階段を見付けたそうじゃないか。よくやった」
「幸運でした。島の真ん中にデカイ亀が居たので、気になったんですよ」
「運だけじゃない。タンクタートルを倒したそうじゃないか。あれの防御を破るなんて、難しい事だと聞いている」
あの巨大亀は『タンクタートル』という魔物だそうだ。日本のダンジョンでは初めて目撃されたという。アメリカの上級ダンジョンに棲息しているのだが、タンクタートルと遭遇した場合は戦わずに逃げろと言われているらしい。
俺が収納アームレットからワイバーンの死骸を取り出して床に横たえると、見物していた冒険者たちから歓声が上がる。
「ワイバーンか、デカイな。初めて見たよ」
そんな声があちこちで聞こえた。俺は死骸を冒険者ギルドへ売却した。但し、自分用に肉を分けてもらう。
俺がよく行く唐揚げ専門店に頼んで、ワイバーンの肉を唐揚げにしてもらった。その大量の唐揚げをマジックポーチに仕舞い、日頃世話になっている冒険者ギルドの人たちや魔法学院の弟子たちに配った。
「凄く美味しいです」
「この美味しさは、半端じゃありません」
アリサたちは大喜びした。
食べた全員が大喜びである。俺も食べたが、普通の鶏肉の唐揚げとは次元の違う美味しさだった。冒険者ギルドで解体された肉は、高級レストランや料亭、海外にも運ばれて、金持ちに食べられたらしい。
なぜかワイバーンの肉が新聞の記事となり、俺の事はワイバーンを倒した生活魔法使いとして一時期有名になった。ワイバーンより手強いファイアドレイクも倒しているのだが……。
ちょっと納得できない点はあるが、上級ダンジョンで活躍する生活魔法使いが存在する事が世の中に少し知られるようになった。
その御蔭だろうか。魔法庁から来た登録魔法のライセンス料明細表を見て驚いた。ライセンス料が十倍ほど増えている。ライセンス料だけで生活できるほどの金額が銀行口座に振り込まれたようだ。
ちなみに今回のライセンス料の中には、まだシャドウパペットのライセンス料は含まれていない。
俺が自宅マンションのソファーで魔法庁から来た明細表を見ていた時、メティスが俺の影からコムギを出した。
『グリム先生、テレビを点けていいですか?』
「ああ、構わないよ」
テレビの電源が入ると、イギリスのワイズマン・ロッドフォードが亡くなった事を報じていた。
このワイズマンは分析魔法の賢者であり、数々の分析魔法を発表して、その発展に大きく寄与した。だが、この賢者が創った魔法を習得できる魔法レベルは『9』以下だった。
イギリス政府が少年時代のロッドフォードを賢者だと認定し保護した。そのせいで、ロッドフォードは自由な行動を制限され、ダンジョンに探索に行く事も外を出歩く事も少なくなったらしい。
そのせいで魔法レベルが上がらず、高性能な分析魔法を開発できなかったようだ。
「こういう人生は嫌だな」
『そうですね。ですが、世界でただ一人の分析魔法の賢者が亡くなった事は重大ですよ』
その意味は俺にも分かった。分析魔法の賢者は、ダンジョンで発見された巻物を分析する第一人者だったのだ。ダンジョンで巻物が発見されると、『アイテム・アナライズ』で鑑定する。
それで分からなかった場合は、分析魔法使いに預けられ調査する。この段階で七割が判明するのだが、残りの三割の中で、どうしても中身を知りたい場合はワイズマン・ロッドフォードへ調査依頼をしていたのだ。
分析魔法の賢者システムは、分析魔法だけでなく全魔法を分析する機能があったようだ。
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