第168話 キラープラント対策

 地上に戻った俺は、着替えてからマンションに戻った。これだけ連続して戦ったのは初めてだったからか、疲れを感じている。


 リビングのソファーに座って、メティスをテーブルの上に置く。

『疲れたようですね?』

「ああ、今日は数え切れないほどのキラープラントを倒したからな」


『私もあれほど多くのキラープラントが集まるとは、予想できませんでした』

「もし予想できていたら、どんな魔法を用意していただろう?」


『一度に多数の魔物を倒すような魔法でしょうか?』

「『マルチプルアタック』のような魔法は、キラープラントには効果が薄いような気がするな」

『そうですね』


 今日戦ったキラープラントたちの姿を思い出す。貫通力より切断力が必要な魔物だった。キラープラントは、それほど防御力が高い魔物ではない。切り倒すために必要な威力は、クイントブレードほどで十分だった。


 俺はキラープラントに脅威を感じていない。斬り倒せば確実に仕留められるからだ。だが、問題は数である。


『消火器のように冷たいD粒子を噴出して、キラープラントを凍らせ、フェロモンのようなものを放出させないようにする、というのはどうでしょう?』

「アイデアとしては、面白いと思うけど、宝箱の近くが一番キラープラントが多かったようだ。宝箱を得るには、その周囲に居るキラープラントを全滅させる必要がある」


 特性を付与した魔法を使う時は、ある程度多めの魔力を必要とする。それを何回も発動していたら、魔力切れになってしまう。その点をメティスに指摘した。


『難しいものですね。攻撃魔法の『フレアバースト』のように周囲三百メートルを焼き尽くすというような魔法はできないのでしょうか?』


 そのアイデアを聞いて考えてみた。工夫次第では不可能でないような気がする。だが、それを完成させるには時間が必要だと直感した。


「何か時間が掛かりそうだ。もっと簡単なアイデアはないかな」

『魔装魔法使いや攻撃魔法使いなら、どうするでしょう?』

「そうだなあ……魔装魔法使いなら、全身の筋肉を強化して武器で全滅させるだろう。C級以上の魔装魔法使いなら簡単な事だ」


 その時、アイデアが閃いた。『リモートプレート』と<斬剛>の特性を組み合わせたら、どうだろうというアイデアである。


 『リモートプレート』は、魔力でコーティングしたD粒子プレートを思考制御で自由自在に操る魔法である。


 そのD粒子プレートをD粒子の剣に変え、<斬剛>の特性を付与したら思考制御で自在に動く武器になるのではないかと思ったのだ。しかも<斬剛>の特性を付加すれば、切れ味は凄いものになる。


「そうだ。D粒子の剣なら、自由自在に長さも変えられる」

 俺は思い付いた魔法をメティスに説明した。

『面白いアイデアです。それなら、柄と剣身部分を分けて……とすれば、どうでしょう?』


 メティスが面白いアイデアを追加した。俺は賢者システムを起ち上げ、『リモートプレート』を元に新しい魔法を構築する。


 その魔法でも大量のD粒子が必要であり、そのD粒子で日本刀の柄に似たものと、笹の葉っぱのような形の二メートルほどの剣身を形成。


 剣身は諸刃であり、長さを二メートルから五メートルまで自在に変えられるようにした。その剣身に<斬剛>の特性を付与する。


 この魔法はD粒子の形成物を魔力でコーティングしたので、多重起動ができなくなった。だが、その効果は二十分ほども続き、その間は赤い剣を使って戦える。


 これは魔装魔法の中で剣の切れ味を強化する『スラッシュプラス』に似ている。但し、『スラッシュプラス』は重い武器を振り回す必要が有るが、新しい魔法は元が『リモートプレート』なので、剣自体が宙を飛んでいる。


 使い手は剣の重さを感じないのだ。これなら百匹のキラープラントでも斬り倒せるだろう。メティスと相談しながら調整して、新しい魔法が完成した。


 完成したと言っても実戦で使ってダメな箇所が出れば、改良する事になるだろう。新しい魔法は『フライングブレード』と名付けた。習得できる魔法レベルは『13』である。


「そうだ。今度は生活魔法らしい新しい魔法を創ろう」

『それは、どういう魔法でしょう?』


 メティスは生活魔法らしいと言ったので意外に思ったようだ。

「キラープラントの魔石を一つも回収できなかったから、魔石を回収する生活魔法を創ろうと思ったんだ。本来の生活魔法とはちょっと違うが、便利そうだ」


『なるほど。生活魔法らしいと言えば、冒険者ギルドで発見した三つの生活魔法を購入しなかったのはなぜです?』

 俺は渋い顔をした。


「あれを選んでいる時は、オークションに出すくらいだから、中身が分かれば百万円から一千万円くらいするんじゃないかと勘違いしていたんだ。だけど、支部長は十万円だと言うから失敗したと思った」


 十万円だと分かっていたら、三つとも手に入れていただろう。ただ、あの三つの魔法自体は微妙なものだった。工業製品で代替できる魔法なので、使用する者は限られる。


 生活魔法なら何でも素晴らしいと、俺は思っていない。生活に役立つ魔法は、既存の電化製品以上の価値がなければ、人々の間に広まらないだろう。それだけ価値の有る生活魔法を創るという事は難しい。


 俺は以前に創ったD粒子を飛ばして埃を集める魔法を改良して、D粒子を多く含んでいるものを集める魔法を創った。思った通り魔石は多くのD粒子を内包しているらしく実験してみると成功した。これで魔石の回収が楽になる。


 この魔法の名称は『マジックストーン』にした。習得できる魔法レベルが『3』なので、いつか魔法庁に登録しよう。


 時計を見ると九時になっている。明日の準備が終わったので、食事や風呂を済ませ休む事にした。明日は早めに出発しようと思ったのだ。


 翌朝早くから鳴神ダンジョンに潜る。一層のオークソルジャーが棲み着いている森に入った。早速、オークソルジャーと遭遇。クイントプッシュでオークソルジャーを弾き飛ばす。


 オークソルジャーが倒れている間に、『フライングブレード』を発動する。周りから大量のD粒子が集まり、二メートルほどの紅い剣の形となる。宙に浮いている斬剛ブレードの柄を握り、動かしてみる。


「重さを全く感じない。それに自由自在に動かせる」

 オークソルジャーが起き上がって、叫びながら襲い掛かってきた。その手にはバトルアックスが握られており、それを振りかぶった瞬間に斬剛ブレードを五メートルに伸ばして横薙ぎにした。


 赤い刃がオークソルジャーの胴体をすり抜けた。次の瞬間、オークソルジャーの上半身と下半身が分かれて、地面に倒れ消える。


『予想以上の切れ味ですね』

 メティスも予想以上だと感じたらしい。それは俺も同じだった。切った時の手応えがほとんどなかったのだ。

「どれほどの威力なのか確かめたいな」


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