第169話 キラープラント殲滅

『次は思考制御で、どこまで可能かというテストです』

 オークソルジャーを倒したのも思考制御で斬剛ブレードを操作して行ったものだが、思考制御には二段階あるのだ。


 柄を握った状態で操作する方法と柄から手を離して操作する方法である。何が違うかと言うと、柄を握った状態で操作する場合は、斬剛ブレードの位置や状態が手の感覚で分かるので思考制御が簡単なのだ。


「まずは『オートシールド』を発動して、防御の態勢を整えてからだな」


 『オートシールド』を発動した後、斬剛ブレードから手を離した。近くの木を切るために、斬剛ブレードを操作する。直径三十センチほどの木の幹がスパンと切断された。


 斬剛ブレードがくるくると回転してから手の中に戻ってきた。その後、背の高い木がゆっくりと倒れ、大きな音を立てる。


『お見事です』

「ふうっ、こういう使い方は、集中力が必要だな」


 手放した状態で操作する場合、斬剛ブレードの位置や状態を把握するために必ず見ていなければならないようだ。そうでないと上手く操作できない。


 戦いの最中に斬剛ブレードの位置や状態を常に把握するというのは、非常に難しい。特にキラープラントのように集団で襲ってくるような魔物は、斬剛ブレードだけではなく周囲に注意を向けねばならない。


『しかし、思い通りに動かしているように見えました』

「思い通りに動かせる。だけど、ちょっと目を離すと、そのまま飛んで行ってしまう」


『やはり自動的に魔物を攻撃するという機能がないと、使い勝手が悪いようですね。『オートシールド』はどうやって自動制御しているのか不思議です』


 『オートシールド』の機能は、賢者システムを使って調べてみても分からなかった。

「全くだ。生活魔法も奥が深いのだろう」


 俺は魔法を解除して、キラープラントの群れが居る方角へ向かった。途中でブルーオーガを一匹倒して、キラープラントの居る草原へ到着する。


『宝箱の所まで、飛んで行くという手も有りますが、どうしますか?』

「いや、今回は『フライングブレード』が、こういう敵に使えるか試してみたい」


『危険な状況になった場合は?』

「その時こそ、飛んで逃げる。メティスは時間をカウントしてくれないか」

『了解しました』


 俺は黒鱗鎧のスイッチを入れてから『フライングブレード』を発動した。形成された紅く輝く斬剛ブレードを握り締めて構える。そのまま前に進むと、すぐにキラープラントが近寄ってきた。


 斬剛ブレードを五メートルに伸ばし、キラープラントを斬り捨てる。ゴムを焼いたような臭いが広がった。その臭いに誘われるようにキラープラントが集まってくる。


 俺はゆっくりと前進しながら、集まってくるキラープラントに向かって斬剛ブレードを振るう。やはりほとんど手応えがない。


 三匹ほど斬り倒した頃、頭の中にメティスの声が響いた。

『一分経過です』

 あの臭いが濃くなっている。当然、周りから次々にキラープラントが集まってきた。


 五分が経過した頃には、周辺に居た全部のキラープラントが集まってきたような感じになる。俺は冷静にキラープラントとの間合いを測りながら、一匹ずつ仕留めていく。


 キラープラントとの距離は、何となくD粒子の動きを感じて分かるようになり斬剛ブレードを宙に舞わせる事に集中する。気付いた時には、何匹倒したか分からなくなっていた。


「こういう戦い方をするなら、練習が必要だな」

 慣れていない動きをするので、疲れるのが早い気がする。


 前方を見ると、四十匹ほどのキラープラントの集団が出来ている。俺はキラープラントの集団の一点を集中的に攻撃して突破すると、奥へ向かって走り出す。後ろからキラープラントがゾロゾロと追い掛けてくる。


『キラープラントが列を作って追い掛けてきます。絶好のチャンスです』

「メティスのアイデアを試そう」


 俺は振り向いて、キラープラントの列に向かって斬剛ブレードを横薙ぎに振り抜いた。その時、斬剛ブレードの柄の部分と剣身部分が分離して、剣身だけが回転しながら飛翔する。


 凄い勢いで飛翔する剣身は、次々にキラープラントを真っ二つにしていく。二十匹ほどのキラープラントを切断した剣身は弧を描いて戻ってくると、俺が突き出した柄にパチンと嵌った。


『成功です』

 メティスの声が響いた。この技は使い手が飛ぶ方向だけ決めると、後は自動で剣身が飛ぶ仕組みになっている。飛翔中は制御できず状況によって軌道を変化させるなどできない。なので使い所が難しいと感じた。


 ただ密集して集団になるような敵や一列に並んで追ってくるような敵には抜群の威力を発揮する。

『十二分経過です』


「残りの敵は、二十匹ほどか。何とかなりそうだ」

 俺はキラープラントを殲滅した。

「……予想以上に疲れた」


 ホッとした俺は、草原に座り込んだ。水筒を取り出すとゴクゴクと飲む。水が身体に染み渡るような感じがする。


 それから立ち上がると、宝箱の所へ行った。宝箱の前で『プロテクシールド』を発動してから、宝箱を開けた。鳴神ダンジョンの宝箱にはトラップが仕掛けられているという情報があったのだ。


 蓋を開けた瞬間、中から短い矢が飛び出してD粒子堅牢シールドに当たって跳ね返った。

「本当にトラップがあったのか」


 中を確かめてみると、液体が入ったガラス容器と書籍が入っていた。

「まさか、魔導書なのか?」

 驚いて書籍を取り上げ、中身を確認した。魔導書ではないようだ。魔法文字で書かれた文章を読んだが、三割ほどしか読めなかった。


「メティス、分かるか?」

 俺は村瀬講師から魔法文字を習っているが、俺に付き合ってメティスも魔法文字を習った。その結果、メティスが先に魔法文字を習得してしまったのだ。ちょっと悔しい。


 メティスが普段使っている言語と魔法文字は違うらしい。魔法文字は魔法という現象を説明するために特化した言語だという。


『これはシャドウパペットを製作する方法が書かれています』

「シャドウパペット?」

 パペットは操り人形の事だが、シャドウパペットとは何だろう?


『もう一つは何です?』

 ガラス容器を取り上げて、鑑定モノクルで調べると上級治癒魔法薬だった。これはオークションに出すべき宝物である。


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