第166話 生活魔法の宝物

 近藤支部長に案内されて冒険者ギルドの倉庫へ向かった。東側にある地下倉庫に入った俺たちは、倉庫の奥にある戸棚に近付く。


 その戸棚に百二十本近い巻物が並べられているのが目に入る。

「こんなに有るんですか?」

「ああ、どれも鑑定できなかったものだ。一つずつ調べるのなら時間が掛かりそうだな。一度ダンボール箱に詰めて、上に運んでから調べてくれ。この倉庫には貴重なものも有るんだ」


 俺は周りを見回した。埃を被っているものがほとんどだった。

「そうは見えませんけど」

「将来、正体が分かったら、そうなるかもしれないという意味だ」


 俺は肩を竦め、ダンボール箱に巻物を詰め始めた。そのダンボール箱を持って一階に上がる。打ち合わせ部屋に持ち込むと、支部長がギルドの職員を呼んだ。


「信用していない訳じゃないが、職員を付けさせてもらうよ。決まりなんでね」

「分かりました」

 俺は鑑定モノクルを付けて巻物を一本ずつ調べ始めた。冒険者ギルドが調べても正体が分からなかった巻物である。俺が調べても分かる訳がない。


 但し、二種類だけ分かるものが有る。生活魔法に関する魔法と特徴的な柄の表紙を持つ巻物である。俺は賢者システムを起ち上げ、表紙の柄を確認した後に中身を確かめた。


 そして、見付け出したのが、生活魔法の魔法陣が描かれている巻物が三本と特性の魔法陣が描き込まれているかもしれない巻物二本である。


 生活魔法の魔法陣が描かれている巻物は、特に必要だと思えるものはなかった。『コインの数を数える魔法』『液体の温度を計る魔法』『小麦を粉にする魔法』だったのだ。


『これはダンジョン製の生活魔法とは思えませんね』

 メティスの声が頭に響いた。俺は黙ったまま頷く。

『亡くなった賢者が創ったものでしょうが、目的が分かりません』

「俺にも分からない」


 声を出してメティスに答えてしまった。傍に居た職員が、首を傾げて、

「やっぱり、分からないのですか?」

「ええ、魔法陣に説明文が記載されていたら分かるんですけど」


 必要性が微妙な生活魔法ばかりだった。説明文も何もなかったので、冒険者ギルドでも分からなかったようだ。


 重要なのは残りの二本である。特徴的な柄の表紙であり、巻物の軸先を確かめると水星を意味する魔法文字が刻まれている。


 その二つを手に持ち、支部長と交渉する事にした。調査済みの巻物については、ギルド職員が片付けてくれると言うので頼んだ。


「支部長、調査が終わりました」

「無駄骨だったんじゃないか?」

「いえ、二本だけ有望そうなものを見付けました」


「ほう、どれだ?」

 俺は選んだ二本の巻物を見せた。

「この二本は、条件に合致した者が見ると強制的に習得させるというものだと思います」


 支部長が頷いた。

「という事は、まだ中を見ていないんだな?」

「ええ、まだです」

 支部長が見せて欲しいというので渡した。支部長は巻物を開いて見たが、何も起きないので不満そうな顔をする。


「支部長、それは生活魔法の巻物ですよ。支部長に反応したら、選び間違ったという事になるじゃないですか」

「そのようだな。問題は価格だな。欲しいのだろ?」

「ええ、売ってください」


「そうだな……一本十万円でどうだ」

 俺は二桁くらい安かったので、びっくりした。

「それでいいんですか?」

「まあな、本来の持ち主が所有権を放棄したものだ。冒険者ギルドとしては保管料くらいの値段で構わんのだ」


 俺は速攻で金を払って二本の巻物を自分のものとした。

「何だか嬉しそうだな?」

「それは、新しい生活魔法が手に入るからですよ」


 俺は冒険者ギルドを出て、マンションに戻った。ソファーに身体を投げ出して一休みする。

「はあっ、疲れた」

 百二十本も巻物を調べたせいか、精神的に疲れている感じだ。


 そのままうとうとして完全に寝てしまったらしい。起きた時にはかなりの時間が経っていた。

「あっ、もう夜の八時になっている」

 それから夕食の支度をして食べてから風呂に入ったりしていると、九時を過ぎてしまう。


『そろそろ巻物を調べませんか?』

 メティスの声が頭の中で響いた。

「そうだな。調べてみよう」


 一本目の巻物を開いた。巻物の魔法陣を目にした瞬間、賢者システムが自動的に立ち上がり巻物の魔法陣から情報を吸い上げ始める。


 情報の吸い上げが終わった後、賢者システムを確かめるとD粒子二次変異に<手順制御>という特性が追加されていた。


「<手順制御>って、何だろう?」

『どうかしたのですか?』

「D粒子二次変異に<手順制御>という特性が追加されたんだけど、どんな特性なのか分からないんだ」


『<手順制御>? 何かの手順を操作するという事でしょうか?』

「分からない」

『手順というのは、何を意味しているのでしょう』

 メティスにも分からないようだ。


 仕方ないので二本目の巻物を取り出して広げた。同じような感じで、またD粒子二次変異に新しい特性が追加される。それは<斬剛ざんごう>という特性だった。


 これは<貫穿>に似た特性である。<貫穿>が貫通力を増す特性なら、<斬剛>は切断力を増す特性のようだ。


 <貫穿>の特性を付与した魔法は抜群の貫通力を持つようになるが、急所に命中しないと仕留められない事もある。


 その点、<斬剛>の特性なら魔物を真っ二つにする事もできる。上級ダンジョンで活動するようになれば、ファイアドレイク以上に手強い魔物と遭遇するだろうから、俺にとっては当たりクジを引いたように嬉しかった。


 新しい魔法を早く創りたいという欲求があったが、まずは鳴神ダンジョンに潜り、どんな魔物が居るのか確かめてからだと自重じちょうした。


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