第165話 鳴神ダンジョンの巻物

 草原ダンジョンのボス部屋に続く隠し通路に入った俺たちは、奥へと進んだ。

「この通路は、オークとリザードマンが出るから、レベル上げには最適なんだよ」

 俺が説明すると、タイチが俺に確認した。


「ここを公表しないのは、なぜです?」

「ここにはボス部屋が有るから、生活魔法使いを育成するために、使えると思ったんだ。だから、生活魔法使いが使うのなら、教えても構わない」


「そうなんですか」

「ほら、現れたぞ」

 俺がオークを見付けて警告した。タイチたちが慌てて武器を構える。サナエだけは短槍だが、他の三人は剣を武器にしていた。


 タイチがトリプルプッシュをオークに叩き付ける。勢いを止められたオークに、他の三人のトリプルアローが突き刺さった。オークが倒れ魔石を残して消える。


「その調子だ。このままボス部屋の前まで行く」

 オーク二匹、リザードマン三匹を倒してボス部屋の前まで来た。中を覗くとオークナイトが復活していた。タイチたちもオークナイトを確認して顔を強張らせている。


「この中で、あのダンジョンボスにダメージを与えられるのは、タイチだけだろう。そこで皆には入り口からボス部屋の前までを往復して、オークとリザードマンを一匹でも多く倒す修業をしてもらう」


「なるほど、オークナイトに挑戦するのは、まだ早いという事ですね」

 ヒカルが納得して頷いた。

「そういう事。そして、皆の魔法レベルが上がったら、ダンジョンボスのオークナイトを倒す」


 俺はオークやリザードマンと戦う時の注意点やオークナイトとの戦い方について説明した。オークナイトは、タイチが習得している『サンダーボウル』を使えば、今の実力でも倒せると思う。


 だが、ここで修業させる目的は、魔法レベルを上げる事と人型の魔物と戦う経験を積む事だ。オークナイトを倒せば魔法レベルが上がるかもしれないが、一回の戦いでは大した戦闘経験は得られないだろう。


 それにダメージを与えられるのがタイチだけだと、他の三人の魔法レベルが上がるかどうか分からない。どういう仕組みで魔法レベルが上がるのか、まだ解明されていないのである。


「グリム先生が、C級冒険者になったというのは、本当ですか?」

 郷が質問した。

「本当だよ。鳴神ダンジョンの一層に居るブルーオーガを倒して、昇級試験に合格したんだ」


「凄いな。鳴神ダンジョンに潜るんですよね。どこまで探索が進んでいるんですか?」

「まだ二層までだ。二層は広大な峡谷エリアだと聞いている」

「どんな強い魔物が居るんでしょう?」


「一層にブルーオーガが居たくらいだから、手強い魔物が居るんだろうな」

「そう言えば、鳴神ダンジョンで鉱床は発見されていないんですか?」

「一層では発見されなかった」


 一層は草原と森なので鉱床はないかもしれないと予想されているが、二層の峡谷エリアでは有望な鉱床が発見されるかもしれないと期待されている。


「そろそろ戻ろう」

 戻る途中、リザードマンに遭遇してタイチたちが倒した。その時、サナエの魔法レベルが上がり『4』となる。


 地上に戻った俺たちは、ダンジョンハウスで着替えてから食事に行った。ファミリーレストランに入って食事をしながら話す。


「チームとして、何か必要なものはありますか?」

 タイチが尋ねた。俺は考えた末に、

「そうだな、やはりマジックバッグは必要かな」


「でも、簡単に手に入るものじゃないですよ」

「まあね。でも、中ボス狩りバトルなら可能性は有る」

 俺は半年に一回行われる中ボス狩りバトルについて説明した。次の中ボス狩りバトルは、夏休みに行われる事になるだろう。


「中ボス狩りバトルか。トップ5が参加するようなものに、僕たちが参加するのは、ちょっと……」

 タイチは自信がないようだ。それも仕方ないと思う。もうすぐ春休みになるという現時点で、チームの三人はまだG級冒険者なのだ。


「まあ、中ボス狩りバトルに参加するという事を目標にして頑張ればいい」

 中ボス狩りバトルに参加する条件の一つに、ゴブリンロードを倒せるだけの実力が有るというものが有る。タイチたちには夏休みまでにチームでゴブリンロードを倒せるほどの実力を身につけるという課題を出した。


 タイチたちと別れて冒険者ギルドへ行くと、石橋が受付で報告していた。

「そうなんですか。二層にワイバーンが居るんですね」

 冒険者の何人かが、石橋の後ろでがやがやと言っている。


「チームでワイバーンを倒して、巣穴にあった宝箱を見付けた」

 石橋がリーダーを務める『山紫水明さんしすいめい』は、攻撃魔法使いと魔装魔法使いが二人ずつ揃ったバランスの良いチームだ。実力も相当なものなので、ワイバーンを倒したと聞いても納得する。


 石橋が四つの巻物を取り出した。

「この巻物が何かを調べて欲しいのだ」

「畏まりました。少し時間をください」

 俺は石橋に近付いて声を掛けた。


「おめでとうございます。活躍しているみたいですね」

「おお、グリム君か。活躍と言ってくれるのは嬉しいが、今日は幸運だったのだ」


 俺が鳴神ダンジョンの様子を聞いていると、奥へ行っていた受付のマリアが戻ってきた。

「石橋様、調べて参りました。但し、一本だけ分からなかったものが有ります。申し訳ありません」


「ふむ、それは困ったな。中身が分からなければ、オークションに出しても大した価格にはならないだろう」


 俺はマリアが手に持っている巻物に目を向けた。三本の巻物には、タグが付けられている。そのタグに何の巻物なのか書かれている。


 残りの一本にはタグがなかった。その巻物に見覚えがあった。D粒子二次変異の特性魔法陣が描かれていた巻物に表紙の柄が似ているのだ。但し、若干違っている部分があった。軸の先端に刻まれている模様である。


 <貫穿>と<堅牢>の巻物の軸先には、魔法文字で水星を意味する文字が刻まれていたが、この巻物は火星を意味する文字が刻まれていた。


「石橋さん、俺が調べてもいいですか?」

「構わないが、『アイテム・アナライズ』で調べても分からなかったものだぞ」

「魔道具を使って調べてみようと思って」


 俺は鑑定モノクルを取り出して見せた。

「ほう、珍しいものを持っているな」

 石橋は鑑定モノクルを知っていたようだ。


「これに似たものを調べた時に、強制的に描かれていた魔法を習得させられた事が有るのです。たぶん条件に合致した者が見た場合に、そうなるのだと思います。その時はどうしたらいいでしょう?」


 石橋が顔をしかめた。

「その条件は分かっているのか?」

「魔法才能が『S』だという事ではないかと思います」


 実際は賢者システムの存在だと思うが、それは秘密にしているので誤魔化した。俺の生活魔法の魔法才能が『S』だと知った石橋が、羨ましそうな顔をする。


「その時は、グリム君に百万円で買い取ってもらおう」

 俺は鑑定モノクルを装着して、巻物を調べた。すると、攻撃魔法に属する魔法陣が描かれている巻物だと分かった。


 それを告げると、石橋は頷いた。

「鑑定モノクルでも、攻撃魔法に属するものだとしか分からないのか。オークションで売りに出すしかないな」


「そのオークションで売れなかった場合は、どうなるんですか?」

「出品者の手元に戻ってくるが、どうするかは人それぞれだろう」

 石橋が教えてくれた。


「冒険者ギルドに処分してくれと置いていく者も居るぞ」

 突然、近藤支部長の声が割り込んできた。

「その巻物はどうするんです?」

「捨てるのも、どうかと思って保管してある」


 俺はもしかすると生活魔法の巻物が有るかしれないと思い、見せてもらえないかと頼んだ。

「構わんが、オークションでも値段が付かなかったものだぞ」


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