第149話 空中戦

 二十四層は起伏の激しい荒野だった。赤茶けた土に覆われた大地と岩、それに雑草だけしか見えない。ここを攻略する方法は、リッパーバードに遭遇しないように行動する事だという。


 空を自由に飛び回るリッパーバードを倒す事は難しいそうだ。

 リッパーバードは白鳥ほどの大きさの黒い鳥である。その口からは鳴き声と同時に魔法を放つ。鳴放刃めいほうじんと呼ばれる魔力を刃に変えて撃ち出す魔法のようだ。


 その威力は一撃で人間の首を切り飛ばす威力が有る。この鳴放刃は黄色の淡い光を放っているので、目で軌道を確認して避ける事ができるという。


 但し、連続で放つ事も可能なので、魔力障壁を作り出せる『ウォール』の使い手や防御重視の魔装魔法を使える者以外は、逃げる事を冒険者ギルドは推奨している。

 俺は『プロテクシールド』が使えるので、大丈夫だと思う。


 リッパーバードの他に、このエリアにはデビルスコーピオンという大サソリの魔物も居る。そのデビルスコーピオンと遭遇した。大きなハサミをパチパチと鳴らし毒のある尻尾をゆらゆらと揺らしている。


 ハサミで攻撃してきた。俺はクイントオーガプッシュを放つ。オーガプレートがデビルスコーピオンを弾き飛ばした。クイントオーガプッシュがかなり効いたらしく、よろよろしながら大サソリが戻ってくる。


 俺は大サソリの頭にクイントブレードを叩き込んで仕留めた。

 その直後、上空で鳴き声が響く。素早く見上げると、こちらに向かって飛んでくる黄色の淡い光を放つ鳴放刃が目に入る。反射的に横に跳んで躱し地面を転がる。


 狙いを外した鳴放刃が地面を斬り付け土煙を上げた。俺は地面に刻まれた鳴放刃の傷跡を確認する。

「かなりの威力だな」


 素早く起き上がった俺は空を見上げた。黒いリッパーバードが旋回している。マジックポーチからくらを取り出した。


 素早く『オートシールド』を発動し、黒鱗鎧のスイッチを入れる。それから『ウィング』を発動した。


 旋回していたリッパーバードが、俺を目掛けて急降下する。そして、鳴き声を上げ鳴放刃を撃ち出した。俺はクイントPシールドを発動。鳴放刃に対して垂直な角度で出現したD粒子堅牢シールドの下に身体を入れる。


 鳴放刃はD粒子堅牢シールドに弾かれて消えた。俺は急いでD粒子ウィングに鞍を付け、跨るとシートベルトを締めて飛び上がった。


 飛び上がった俺を見て、リッパーバードは警戒している。俺はリッパーバードに向かって飛んだ。鳴き声が聞こえ鳴放刃が放たれた。


「ヤバイ、ヤバイ」

 俺は夢中で叫びながら左旋回する。横ジーが全身に掛かりシートベルトが身体に食い込む。何とか鳴放刃を躱した俺は、リッパーバードの姿を探す。


「……リッパーバードが居ない」

『真上です』

 メティスの声が頭の中に響いた。俺は視線を上に向けリッパーバードの姿を確認した。足の爪を俺に向けて襲い掛かってくる。クイントオーガプッシュで迎撃する。


 リッパーバードがひらりと躱して逃げて行く。飛行速度はリッパーバードの方が二倍ほど速いようだ。


 何度かリッパーバードの攻撃を躱して攻撃するチャンスを待つ。飛行速度の違いで、どうしてもリッパーバードに主導権を取られてしまう。


 俺は空中に停止して、リッパーバードに視線を向けた。リッパーバードが鳴放刃で攻撃してきた。俺はクイントPシールドを発動して鳴放刃を防ぐ。そして、リッパーバードに向けてクイントパイルショットを放った。


 リッパーバードはD粒子パイルが見えているようだ。これも簡単に躱して、もう一度鳴放刃を放った。俺は急降下させた。シートベルトが身体に食い込むのを感じて歯を食いしばる。


 それから右旋回してリッパーバードから距離を取ろうとする。だが、飛行速度が上のリッパーバードに先回りされた。襲ってくるリッパーバードから逃げるために急上昇する。


 上昇する速度だけは、俺の方が上だった。懸命に羽ばたき上昇してくるリッパーバードに向けて、クイントパイルショットを放った。


 リッパーバードの反応が遅れる。躱そうと翼をひるがえした瞬間、D粒子パイルが右の翼を貫いた。リッパーバードがきりもみしながら地面に落ちていく。


 俺は追いかけた。地面に墜落したリッパーバードは、飛び上がろうと藻掻いている。俺はトリプルパイルショットでトドメを刺した。


 着地するとシートベルトを外し地面に座り込んだ。

「はあっ、空中戦はキツイ」

 短時間の戦闘だったはずだが、慣れない戦いで精神と肉体の両方が疲れた。


『空中戦はどうですか?』

 メティスの声が頭に響いた。

「ダメだな。リッパーバードに苦戦しているようでは、ファイアドレイクには勝てない」


 一番の原因は飛行速度だ。二倍ほど最高速度が速いリッパーバードに戦いの主導権を取られてしまった。


 ファイアドレイクの飛行速度はどれほどだろう? 

「それに空中戦で主力の攻撃だったつもりの『パイルショット』が全然当たらなかったのも問題だな」


『それは仕方がないのではありませんか。両方が激しく動き回っているのです。中々命中しないものです』

「いや、リッパーバードは明らかにD粒子パイルが見えていた。あれは見て避けていたのだ」


『なるほど、避ける相手に対して、どう攻撃するかですね』

 それを聞いた俺は立ち上がった。またリッパーバードに発見されるのは勘弁して欲しい。


 階段に向かって戻り始めた。デビルスコーピオンとは遭遇したが、運良くリッパーバードとは遭遇せずに階段まで戻れた。


 二〇層の中ボス部屋に戻る。月華団チームは地上に戻ったようだ。

「そう言えば、空中戦の時にリッパーバードの位置を教えてくれたけど、見えたのか?」

『いえ、私には魔力を感知する能力が有るのに気付いたのです』


「じゃあ、ソーサリーアイは必要なかった?」

『魔力を感知できても、テレビは見れません。やはりソーサリーアイは必要だと思います』

 メティスはテレビが気に入っているようだ。


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