第145話 ラフタートル
この新しい生活魔法を『コールドショット』、D粒子で形成されるものを『D粒子冷却パイル』と呼ぶ事にした。射程は『パイルショット』と同じ二十メートルとなる。
威力テストを続ける事にした。クイントコールドショットを大木に向かって放つ。D粒子冷却パイルが木の幹に命中した瞬間、終端部がストッパーとして開く。
ところが、貫通力が強すぎてストッパーでは止まらず貫通してしまった。結果として、木の幹が木っ端微塵となり木が倒れた。
「ああっ、木の幹程度の硬さだと五重起動の威力を受け止めきれないのか」
この結果は『コールドショット』の不具合ではないな。取り敢えず、威力テストは合格という事にしよう。俺は賢者システムに『コールドショット』を登録した。
水月ダンジョンから地上に戻り冒険者ギルドへ行った。カウンターの前で鉄心が順番を待っている。
「おっ、聞いたぞ。オークキングを倒したんだって」
鉄心が俺を見付けて声を上げた。俺はカウンターに近付く。
「倒したのは、俺じゃなくて魔法学院の教え子たちですよ」
少し雑談をして、鉄心の知識を借りる事にした。
「水月ダンジョンで、頑丈で大きな魔物というと何になります?」
『コールドショット』を試すための相手を探していたのだ。
「そりゃあ、三十層のファイアドレイクだろう」
「二十層までしか攻略していないのに、三十層は無理ですよ」
「そうだな。だったら二十二層のラフタートルはどうだ?」
「亀の化け物ですか?」
「そうだ。湿原地帯に棲む巨大陸亀だ。二十二層の沼の周囲に居るらしい」
亀なら防御力も高そうだ。『コールドショット』を試す相手としては良いかもしれない。俺は鉄心に礼を言って資料室へ行った。そこで二十一層と二十二層を調べる。
二十一層は山岳エリアで、ラッシュゴートという凶暴な山羊の化け物やキラーパンサーという大型の豹が居るようだ。
二十二層は巨大陸亀のラフタートルが居る湿原エリアである。資料によると二十二層は、あまり詳細に探索されていないエリアのようだ。
ラフタートルを倒すには威力の有る魔法が必要であり、その魔物が多数居るからだ。魔力を無駄に使うのを嫌う冒険者が、このエリアを嫌うのも納得である。
ちなみにラフタートルを倒しても、もらえる経験値みたいなものはオークナイトとあまり変わらないという。
「ダンジョンエラーが起きやすい、という訳でもなく、何かドロップする事もないのか」
『コールドショット』の試しは、有料練習場でコンクリートブロックを相手に……という考えも浮かんだ。だが、コンクリートブロックだと<冷却>の機能が働いているのかどうかが分かり難い。
まあ、三十層への攻略の一環として行ってみよう。そう思った俺は、準備をした。
翌日、朝早くに水月ダンジョンへ入って二十層へ向かう。ここの中ボス部屋で一泊してから、二十一層へ下りた。
このエリアには三つの山があり、攻略するには山越えのルートしかなかった。俺は『ウィング』を使って、ショートカットする。さすがに全行程を『ウィング』で飛ぶと消費魔力が大きくなるので一番の難所だけを選んで飛んだ。
御蔭で階段付近まで短時間で来れた。但し、そこでキラーパンサーと遭遇する。虎ほどの体格をした豹が威嚇するように吠えながら襲い掛かってきた。
クイントオーガプッシュで迎撃する。回転しながら飛翔したオーガプレートは、キラーパンサーを弾き飛ばす。その威力は防御という枠からはみ出しているが、俺の意識としては、これも防御の手段である。
キラーパンサーがかなり遠くに飛ばされたのを見て、五重起動では強すぎたと思った。俺は三重・五重・七重の多重起動を多用する。
満遍なく練習して、四重や六重も使用する方が、魔力を温存するという点からはベストなんだが、そんなに練習する時間がないという事と、三重と四重、それに五重と六重は、それほど威力に差がない場合が多いので、自然に奇数の多重起動を多用するようになったのだ。
遠くから怒ったキラーパンサーが凄い勢いで駆け寄ってくる。今度はトリプルオーガプッシュを叩き付けて、勢いを止めるだけにしてから、クイントブレードで切り捨てた。
階段に向かおうとした時、競走馬ほどの大きさがあるラッシュゴートという山羊の魔物とも遭遇。こいつは狙いやすかったのでクイントジャベリンで仕留めた。
今度は本当に階段を下りて、二十二層へ入った。沼と川が大きな面積を占めているエリアだ。その足元は泥濘んでおり、歩き難い。
沼を目指して進む。五分ほど進んだところで、デカイ亀を発見した。ラフタートルも俺に気付いたようだ。こちらに方向転換すると、ドタドタという感じで突進してきた。
人が走る速度と同じくらいのスピードが出ている。但し、相手は全長四メートルほどの亀である。その迫力は凄い。
トリプルカタパルトを発動し身体を右斜上に投げ上げる。空中に放り出された俺は、セブンスジャベリンを放った。だが、ラフタートルの甲羅に命中したD粒子ジャベリンが甲羅を傷付けただけで弾き返される。
「はあっ、こいつには『ジャベリン』が通用しないのか」
俺は『エアバッグ』を使って着地すると、ラフタートルを睨んだ。
ラフタートルは俺を一瞬見失ったようだが、すぐに気付いて向きを変える。また突進してくるつもりなのだろう。俺はトリプルコールドショットを試した。
D粒子冷却パイルが飛翔しラフタートルの甲羅に命中。その甲羅に二十センチほど刺さって冷却機能を発揮した。ラフタートルがピクンと震え、動かなくなった。そして巨体が消える。
冷却効果で内臓が凍結し、息の根が止まったのである。これを確かめるために、もう一匹のラフタートルを探し出し、トリプルパイルショットを撃ち込んだ。
同じように二十センチほど突き刺さったが、今度は死なずに突進してきた。もう一度トリプルコールドショットを撃ち込む。すると、ラフタートルが動きを止めて死んだ。
同じ事を何度か実験して、確実に冷却機能が働いているのを確認する。
そして、クイントコールドショットも試してみた。ラフタートルの甲羅に突き刺さったD粒子冷却パイルがストッパーで止まり、甲羅に蜘蛛の巣状のヒビが走りボコッと陥没する。
五重起動なのに凄まじい威力である。
「実験としては、ここまでか。七重起動を試したら、貫通しそうだもんな」
何匹ものラフタートルを仕留めて二十二層の奥まで来ていた。次の層へ向かう階段とは方向が違うので、ここまで来た冒険者は少ないはずだ。
「ん、あれは?」
そこで桁違いに大きなラフタートルを発見した。通常のラフタートルは全長四メートルほどだが、そいつは六メートルほどあった。
こいつになら、セブンスコールドショットを試せる。
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