第130話 交流会2

 週刊冒険者の記者である鬼塚エミリは、魔法学院の交流会を取材していた。狙いは最年少でD級になった御堂とアメルダ魔法学院の羽柴直樹へのインタビューである。


 羽柴直樹は、魔装魔法使いである。しかもD級になるのも近いと言われている逸材だ。


「御堂君のインタビューは取れたから、後は羽柴君ね。ん……あれは黒月君か」

 一年前に取材した事がある少年の周りに、四人の少女たちが居るのに気付いた。


「黒月君、お久しぶりね」

 ちょっと間を置いてから、黒月が返事した。

「……週刊冒険者の記者さんか。一年ぶりですかね」


「ええ、この一年の活躍を期待していたんだけど、どうだったの?」

 黒月が困ったような顔をする。

「怪我をして、入院したりしていたので、あまり活躍はしていません」


「あらっ、そうだったの。ここに居るという事は、怪我は治ったんでしょ。活躍はこれからという事ね」

「僕なんかより、彼女たちの方が凄いですよ」


 黒月がアリサたちに顔を向けたので、エミリも視線を向ける。アリサたちはどんな魔法を披露するかを話し合っていた。『ハイブレード』とか『ジャベリン』とか聞こえてくる。


「黒月君じゃなくて、彼女たちが魔法を披露するの?」

「御堂君の直後なので、同じ攻撃魔法は何かとやり難いんです。その点、彼女たちなら注目を集めるでしょう」


 エミリは四人組の女子生徒なら注目を集めるだろうと思った。たぶん攻撃魔法の生徒なのだろうが、E級冒険者になれただけでも、大したものなのだ。


「彼女たちは、攻撃魔法使いなの?」

「いえ、彼女たちが使う魔法は、生活魔法です。一部だけ魔装魔法や攻撃魔法を使いますけど、生活魔法中心のチームなんです」


 生活魔法と言われて、エミリは首を傾げた。生活魔法だと『ピュア』や『リペア』しか思い出せなかったからだ。


「黒月君は、彼女たちを注目しているの?」

「僕なんか、すぐに追い越して上に行くと思いますよ」

「上というのは?」


「D級やC級の冒険者になるだろうと言っているんです」

「生活魔法を使って? ちょっと信じられないな」

「彼女たちに生活魔法を教えているグリム先生は、D級冒険者になったそうですよ」


「嘘っ、そんな人が居るの?」

「本当ですよ。凄い生活魔法使いなんです」

「少し興味を惹く存在ね。詳しく教えて」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 黒月とエミリがグリムの話を始めた横では、アリサたちと他の学院の女子生徒が話を始めていた。アリサと天音が生活魔法使いだと自己紹介すると変な顔をされる。


「へえー、生活魔法でE級になるなんて、凄い。E級の昇級試験では、どんな魔物が相手だったの?」

 攻撃魔法使いの女子生徒が尋ねた。アリサが、

「オークナイトです。ほとんど瞬殺でした」


「瞬殺、ちょっと待って。生活魔法で、どうやって倒したの?」

 アリサが新しい生活魔法について、説明を始めると女子生徒たちが集まり始めた。生活魔法の才能は、女性が高い才能を示す事が多いと言われている。


 集まった女子生徒たちの中にも、生活魔法の才能を持つ者たちが多いのかもしれない。ちなみに、魔装魔法の才能は男性が多く、攻撃魔法の才能は半々だと言う。


「ええっ、血吸コウモリに『ロール』が有効なの。……知らなかった。交流会に参加して良かったわ」

 その女子生徒は血吸コウモリが苦手だったらしい。


 アリサたちが教えるばかりではなく、様々な魔物について弱点などを教えてもらった。交流会の主要目的は人脈を広げ、情報を交換する事なので、今回の交流会はアリサたちにとっては成功だった。


 交流会も終盤に近付き、各魔法学院で魔法を披露する事になった。得意な魔法を披露した後に、珍しい魔法を披露するのが定番のパターンらしい。


 人数は決まっておらず、持ち時間の三分間で披露できるなら何人でも構わないようだ。

 今回の交流会は、魔装魔法使いより攻撃魔法使いが多かったようで、披露する魔法は『ライトニングボム』や『プロミネンスノヴァ』が多かった。


 珍しい魔法については、『プロミネンスノヴァ』の青炎バージョンなどのメイン魔法を改造したような魔法が多いようだ。


 魔装魔法使いの場合は、魔装魔法を使って身体能力を上げた後に、演武みたいなものを行う形式である。なので、魔装魔法使いの方が時間が掛かる。


 注目されているアメルダ魔法学院の羽柴が、『パワータンク』と『スラッシュプラス』を使って丸太の試し斬りを行った。真っ二つに斬られた丸太が転がると拍手が湧き起こる。千佳も拍手していた。


 御堂の魔法は『デスショット』だった。在学中に魔法レベル12になった事になる。見ていた生徒たちは惜しみない拍手を送った。


 最後にアリサたちの出番になった。

「さあ、派手に行きましょうか」

 アリサが言うと他の三人が笑って頷いた。


 アリサたちは手に鞍を持って、皆の前に進み出た。

「まずは生活魔法の『ウィング』をお見せします」

 D粒子ウィングを出し、それに鞍を付けると跨り飛び上がった。


 何をしているのかと見ていた生徒たちから驚きの声が上がる。

「あれは『フライ』なのか、違うよな。生活魔法に空を飛ぶ魔法が有ったなんて、聞いてないぞ」

 そんな声が上がった。


 最初に二人乗りの天音と由香里が急降下する。天音は急降下に集中し、後ろの由香里が地面に積み上げた標的の土嚢に向かってクワッドジャベリンを連射。土嚢にドスドスとクワッドジャベリンが命中すると、生徒たちから「うわっ」と声が上げる。


 次に上空を旋回していたアリサが、ゆっくりと降下してセブンスサンダーボウルを放つ。土嚢に着弾したセブンスサンダーボウルは雷が落ちたかのような雷音を響かせ放電の火花を周囲に放った。

 見ていた黒月は顔を強張らせた。周囲を見ると同じような顔をした生徒たちが大勢居る。


 最後は千佳だった。千佳は土嚢に向かって上空を飛翔しぴったりの間合いでセブンスハイブレードを放った。音速を超えたD粒子の刃が土嚢を切り裂き、爆風を巻き起こす。


 見ていた生徒たちにも、爆風が襲い掛かる。距離があったので、それほど強い爆風ではなかったが、生活魔法の威力を十分に感じられた。生徒たちや教師などは、見たものが信じられないという顔をしている。


 その後、「うわーっ!」という声がいくつも上がり大騒ぎとなった。アリサたちが着地すると、大勢の生徒たちが走り寄り、『ウィング』について質問を始める。


 その光景を見ていた御堂は、天音から言われた『次の時代は生活魔法だ』という言葉を思い出した。一方、取材に来ていたエミリは、これは生活魔法じゃないと思った。

「でも、攻撃魔法でも魔装魔法でもないのよね」


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