第127話 パイルショット
D粒子収集器のような魔道具は、同じものが世界のどこかに存在する確率が高いそうだ。使い道が分からずに、コレクターの倉庫に眠っている可能性が最も高いという。
そういうものは、時折オークションに出品される事があるので、オークションの仲買人に依頼して探す事もできるらしい。
上条は知り合いの仲買人に頼んで探してもらうと言っていた。オークションについて色々と聞いてから、仲間が戻るのを待つという上条と別れて帰る事にする。
俺は電車で渋紙市に向い、戻ったのは九時を過ぎていた。その日は、ベッドに倒れ込むように横になって寝る。
翌日の昼頃に冒険者ギルドへ行った。『流星の門』に関する報告をするためである。
「グリム先生、支部長が待ってますよ」
カリナの妹であるマリアが俺を見付けると声を掛けた。
俺は支部長室へ行き、支部長に昨日の報告をする。
「なるほど、ケンタウロスか。興味深いな」
「初めての魔物なので、倒すのに苦労しました」
「まあ、そうだろうな。だが、雷撃系が有効で、ケンタウロスがどんな攻撃をするのか、分かったのだ。次から挑戦する生活魔法使いは楽になるだろう」
近藤支部長には、D粒子収集器の事も話した。
「D粒子を集める魔道具か。生活魔法使いは、欲しい魔道具なのだろうが……」
換金した場合の値段を考えているらしい。生活魔法使いなら、売るなんて考えないと思う。
『流星の門』の話が終わり、俺は支部長に尋ねた。
「水月ダンジョン二十層の中ボスが復活したら、冒険者ギルドではどうするんですか?」
「C級冒険者か、ベテランD級冒険者チームに討伐を頼む」
「いつ頃、復活しそうなんです?」
「そうだな……あそこの中ボスは、十ヶ月以上経過しないと復活しないから、後三ヶ月は復活せんだろう。オークキングか、アルティメットリザードと戦いたいのか?」
「オークキングと戦いたいんですけど」
「魔導武器狙いか。オークキングは強力な魔導武器をボスドロップするからな」
俺が魔導武器を求めてオークキングと戦いたいのだと、支部長は勘違いしたようだ。
「オークキングに弱点とか、ないんですか?」
「弱点じゃないが、オークキングが使う槍から撃ち出される魔力砲弾は、七発撃つと三秒間撃てない時間があるそうだ」
「その魔力砲弾の威力はどれほどなんです?」
「攻撃魔法の『デスショット』には及ばないが、その七割ほどの威力があると言われている」
支部長は説明してくれたが、よく分からない。どんな魔物なら倒せるか聞くと、スティールリザードは無理だが、アーマーベアなら倒せるだろうという。
『オーガプッシュ』で魔力砲弾を防げるだろうか? 難しそうだ。迎撃や撥ね返す事を考えるより、避ける事を考えた方がいいのかもしれない。
『D粒子二次変異』の<不可侵>などの特性が使えるようになれば、強固なシールドの魔法を創造できるかもしれないが、今は無理である。
ならば、一撃で仕留められるような強力な生活魔法を用意すべきだろう。『ヒートシェル』なら、一撃で仕留められそうだ。しかし、『ヒートシェル』は発動に時間が掛かる。その間にトライデントの魔力砲弾を食らいそうだ。
『コーンアロー』並みに素早く放て、『ヒートシェル』ほどの威力がある魔法が理想だ。
「考え込んで、どうしたのだ?」
俺が考え込んでしまったので、支部長が変に思ったらしい。
「どうやって、オークキングを倒すか、考えていたんですよ」
「普通はチーム全員で、少しずつダメージを蓄積させて、最後にトドメを刺すものだ」
「そうですね。参考になりました。考えてみます」
支部長室を出て、資料室へ向かう。そこでオークキングを一撃で仕留める魔法を考えようと思ったのだ。資料室には誰も居ない。椅子に座って考え始めた。
まずは『D粒子二次変異』の<貫穿>を試してみなければならない。賢者システムを立ち上げて『ジャベリン』に<貫穿>の特性を付加してみる。
<貫穿>の特性を付加した以外は『ジャベリン』という魔法が出来上がった。俺は有料練習場に行って試す事にした。
バスで移動して、練習場に入り一番小さな練習場を借りた。コンクリート製の標的などが並んでいる横に、丸太の標的があった。直径三十センチほどの丸太が地面に立てられている。
俺は丸太に向かって、新しい魔法を放った。多重起動なしの魔法である。『ジャベリン』と同じなら、丸太に当たった瞬間にD粒子コーンが壊れるはずだ。
特殊なD粒子コーンが丸太に命中した瞬間、五センチほど食い込んでから壊れた。たった五センチだが、大きな違いだった。
三重起動で放ってみると、丸太を貫通した。トリプルジャベリンなら、深さ十センチほどの穴が開くだけで貫通しないのに、かなり威力が違う。
だが、これの七重起動でオークキングが倒せるかというと、威力が足りないように感じた。そこで大幅に改造を加える。
D粒子コーンの円錐形を六角錐に変え、使用するD粒子の量を増やして厚みを増して強度を上げた。それにより消費魔力も多くなる。そして、最後に初速を上げた。
この魔法の名前を『パイルショット』と決めた。形を六角錐にした事で
『パイルショット』の射程は、約二十メートルである。D粒子パイルの強度を上げた点と初速を上げた事で威力が大幅に増した。
多重起動なしの『パイルショット』でも、丸太に十五センチほど食い込むようになったのだ。トリプルパイルショットだと丸太を貫通する事が予測できたので、コンクリートの標的に放った。
トリプルパイルショットが、ドゴッと音を立ててコンクリートに命中し深さ二十センチほどの穴を開ける。ただ『ヒートシェル』ほど派手ではない。『ヒートシェル』は爆発も起きるので派手に見えるのだ。
クイントパイルショットが、厚さ一メートルのコンクリートブロックを貫通する。貫通力だけは、凄まじい生活魔法が誕生した瞬間だった。
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