第128話 水月ダンジョン十四層

 有料練習場で『パイルショット』を様々な条件で試し欠陥を洗い出した。軌道が少しだけ右に逸れるようだが、狙いを調整すれば問題ない。


 完成した『パイルショット』を正式な生活魔法として、賢者システムに登録する。懐中時計を取り出して、時間を確かめると、七時を過ぎている。


 俺は練習場を出て、バスでアパートに戻った。テレビのスイッチを入れると、不動産会社のコマーシャルをやっている。


「そうだ。もっといい部屋に引っ越そう」

 翌日、不動産屋に行って部屋を探した。高級賃貸マンションの中から、広めの部屋で水月ダンジョンに近い物件をいくつか見て回り、水月ダンジョンから歩いて五分のマンションに決めた。


 引っ越しなどで忙しい日々を過ごすと、冬になった。

 俺は久しぶりに水月ダンジョンへ行き、十四層の湖エリアに下り攻略を始めた。C級冒険者の峰月と一緒に来た時は、十五層へ下りる階段のある島に直行したので、他の島は探索していない。


 今回はゆっくりと探索してみようと思う。D粒子ウィングで一番近い島まで飛ぶ。水面から十メートルほどの高さを飛ぶと、マーマンやブラックゲーターは攻撃してこない。試しに三メートルほどに高度を下げると、水面からブラックゲーターが飛び出して来て、俺の足に噛み付こうとしたので急上昇する。


「びっくりだ。ブラックゲーターが水中からジャンプできるとは、思ってもみなかった」

 イルカのような華麗なジャンプとは違うが、全身の半分ほどを水面上に飛び出させるほどの力があるようだ。


 一番近い島に着地すると、島の探索を始めた。その島は小さなものだが、小山が二つあり起伏に富んだ地形をしている。


 俺は左側の小山の中腹に洞穴があるのに気付き、気になったので調査する事に決める。こういう場所に宝箱が有るからだ。


 山を登り洞穴の前まで行く。入り口は直径二メートルほどあり、中を覗くと真っ暗で何も見えない。マジックポーチから暗視ゴーグルを取り出して掛けると、中に入った。


 洞穴の奥に部屋があった。ドーム状の空間で、真ん中に宝箱が置いてある。その宝箱は蓋が開いていた。どうやら先客が宝物を持ち去ったのだろう。


 一応宝箱の中を確かめてみたが、空っぽである。ガッカリして洞穴を出て山を下りた。すると、湖畔にブラックゲーターが集まり、俺を待ち構えていた。その中の一匹などは、いつの間にか後ろに回り込んでいる。


 五匹のブラックゲーターに取り囲まれ状況的にはピンチなのだが、俺は『パイルショット』の試し打ちにちょうど良いと考えた。


 トリプルパイルショットを正面のブラックゲーターに向けて発動。D粒子パイルは空気を切り裂いて飛び、ブラックゲーターの口に飛び込むと頭部を貫通して湖へ消えた。


 他のブラックゲーターは何が起きたのか、分からなかったようだ。そのまま近付いてくる。別の一匹に狙いを定めてトリプルパイルショットを放ち仕留めた。


 二匹が消えた事で攻撃されていると気付いたブラックゲーターは、一斉に襲い掛かってきた。


 クワッドカタパルトで身体を真上に投げ飛ばす。十メートルの上空に達した時に魔法が解除されたが、惰性で一メートルほど上昇する。上昇が止まった時、『プロップ』で自分の左手を空中に固定した。


 左手一本だけで空中にぶら下がるような体勢になった俺は、真下に居るブラックゲーターたちに向かってトリプルパイルショットを二連射する。


 その直後、『プロップ』の効力が消えて落下を始める。D粒子パイルにより背中に穴を開けられたブラックゲーターは藻掻き苦しんでいる。


 元気なブラックゲーターは一匹だけになった。もう一度クワッドカタパルトを発動して、ブラックゲーターから離れた位置に飛翔し『エアバッグ』を使って着地する。


 後ろに回り込んだブラックゲーターが、俺を追って猛烈な勢いで走ってくる。その魔物に向かってトリプルパイルショットを放つ。使いやすい魔法だと感じた。


 D粒子パイルはブラックゲーターの頭に命中し息の根を止めた。藻掻き苦しんでいるブラックゲーターにトドメを刺す。落ちている魔石を回収してから、島の探索を続ける事にした。


 結局、何も見付からず次の島に移動する。その島も空振りで、十五層に下りる階段がある島に飛んだ。小さな島であり、階段の他には何もなさそうだ。


 普通なら、このまま十五層に下りるのだが、奥にもう一つの島がある。俺はその島に飛んで上空からチェックした。ブラックゲーターの群れが水辺で寝ている。


 この島にも小山が一つあり、その中腹に洞穴があった。俺は洞穴の傍に着地して、中を確かめる事にした。また暗視ゴーグルを掛けて中に入る。


 すると、マーマンたちが現れた。俺はクワッドアローを連続で放ち一掃する。魔石を回収しながら奥へ向かい、金の鉱床を発見した。


「へえー、金鉱床があるんだ」

 でも、冒険者ギルドの資料には何も書かれていなかった。どうやら金鉱床を発見した者は、誰も報告しなかったようだ。


 俺は金鉱床に向かってトリプルパイルショットを何発か撃ち込み、金鉱石を掘りやすくしてから鉱石を回収した。マジックポーチに金鉱石を収納して持ち出すと、階段のある島に飛ぶ。


 階段を下りて、その途中で金鉱石から金を取り出す事にした。階段は魔物が入り込まないセーフティゾーンである。魔力の事が気になったので、チェックすると十分に残っている。


 俺は『ピュア』を使って金を抽出する。金は砂金という形で取り出され百五十グラムほどになった。

「これでいくらになるんだろう?」

 砂金はマジックポーチから取り出したガラス容器に入れ、金を取り出した後の鉱石は捨てる。


 階段の外は十五層の草原エリアである。広々とした草原には二つの目印がある。一つは斜め右にある岩山、もう一つは斜め左にある林だ。十六層への階段は、その二つの真ん中を奥に進んだ場所にある。


 今日は十五層を探索する予定はない。ただ階段から少し離れた場所に、変な形をした岩があったので見に行った。近付いた時、それが岩ではないと気付いた。遠くからは岩に見えるが、レージスパイダーが巣穴を掘った時に掘り出した土を盛り上げたものだったのだ。


 俺が近付いた事に気付いたのか、巣穴からレージスパイダーが顔を出した。そして、俺を目にすると這い出して駆け寄ってくる。


 猛毒を持つ魔物なので、近付かせる訳にはいかない。俺はレージスパイダーに向かってトリプルオーガプッシュを放った。


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